25 / 147
サンナンは、3男
しおりを挟む公共浴場には補佐のキングスコートさんも付いて来た。主に案内係だ。僕達が体を擦っている間にレイの服を用意して、宿の予約も取ってくれるんだって。宿探しは面倒だと思ってたのでコレは助かるのだが、先に宿を取ってくれたら荷物が置けて更に助かったんだけどな。
「はあ、分かりましたよ。ギルドからのお願いとあったら断れませんからね。けどまあこれっきりでお願いしますよ?」
番台に座る年寄りの女が嫌味口調で許可を出し、僕とセーナの荷物を番台の奥へ仕舞わせてくれる。金を払って利用すると言うのに、なぜ嫌味を聞かねばならないのか。荒んだ心と疲れた体を湯で流し、擦って全身を清めて上がった。
「早く荷物を持ってってくれないかねえ」
「2人はまだなの?」
「女の支度は長いもんさ。面倒臭いねぇ」
荷物を返してもらいに番台に向かうと、セーナ達はまだ上がってないと聞かされる。
「面倒でも、あんまりそう言う事言わない方が良いよ?」
「何だい、あンたアタシに説教かい」
「うん。いつ死んでも未練無いだろうけどさ。貴族相手だと家族も殺られちゃうからね。客商売なんだから気を付けなよ」
「知った口叩きやがって…。とっとと出て行きな」
「知ってるからね。家族皆殺しに遭った客商売。1人が幼なじみでさ」
「貴族が平民を殺したとは、聞き捨てならんな」
僕と婆さんの話が耳に入ったのか、1人の冒険者姿が口を挟んで来た。胴鎧は脱いでいたが手脚に金属鎧を着けた前衛タイプの男だ。良いなぁ。
「その者の名は、聞いて無いか?」
「え?うんスミヨン辺境伯の寄子でマンスとか。爵位までは聞いてないよ」
「マンス…。9年前か」
「僕が5歳の頃だから、そうかも」
マンス家は9年前の戦争で食料調達を指示されて、各村々を回ってありったけの食料をタダ同然で掻き集めて来た功労者だと言う。功労の影で泣く者が居る事を知ったこの男は、一体何者なのだろう。
「おばさん、上がったわ。荷物ありがとうね。あら、ユカタも上がったの?覗きかしら?」
「嫌味言うなって説教してたんだよ」
「止めときなさいって。死体漁りがデッドパーソンになって帰って来るようなモノよ?」
「俺も其方と同じ意見だ。だがそれは、お前の優しさでもあるのだろうな」
「あら、ナンパされたの?」
「ナンパなら男より女にしたいがね、セーナよ」
「ん?あら、3男」
この2人、知り合いらしい。ちなみに僕も農家の3男だ。
「番台越しに見合いしてんじゃないよ!」
婆さんが切れた。旧知の2人がペチャクチャやり始めたからだ。そんな訳で?公共浴場の前で話をする。それはそれで迷惑だろうが、補佐さんが戻って来るまで待ってろって話だし、レイさんはまだ脱衣場で待機してる。移動は出来ないのだ。
「俺はサンナン。貴族の3男だから付いたあだ名だ」
「僕ユカタ。サンナンさんはセーナと付き合ったりしないの?」
「「疲れてないから無理」だそうだ。もっと稼いだら靡くかもな」
「この子の方が稼いでるわよ?疲れさせて靡いてやろうかしら」
「そうなのか?俺も頑張らなきゃな」
「いつまでも元気でいるよ」
「元気なのは良い事ですね。お待たせしました。3男様もご一緒でしたか」
男女3人、風呂屋の前でペチャクチャしていると荷物を抱えた補佐さんが小走りで向かって来た。僕等を見て急いで来たのだろう、顔が少し赤いや。
「補佐殿が付いて居たのか。ユカタの言も間違っては無かったな」
「はて?」
こちらの話だとお茶を濁し、補佐さんを風呂屋に向かわせる。何か話たげにチラチラしていたが、連絡事項でもあったのだろうか。サンナンさんとは暫く話をしていたが、宿を取りに行くと言って別れた。サンナンさんは今日は泊まって、明日からムルザバへ向かうみたい。この辺りを行来しながら生計を立ててるんだって。
「盗賊も出るし、すぐ疲れちゃうかも知れないね」
「その程度で疲れてたら願い下げよ」
セーナの理想は高そうだ。
30
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
自称悪役令息と私の事件簿〜小説の世界とかどうでもいいから、巻き添えで投獄とか勘弁して!〜
茅@ダイアナマイト〜②好評配信中
恋愛
「原作にない行動……さては貴様も“転生者”だな!」
「違います」
「じゃあ“死に戻り”か!」
ワケあって双子の弟のふりをして、騎士科に入学したミシェル。
男装した女の子。
全寮制の男子校。
ルームメイトは見目麗しいが評判最悪の公爵子息。
なにも起こらないはずがなく……?
「俺の前世はラノベ作家で、この世界は生前書いた小説なんだ。いいか、間もなくこの学院で事件が起こる。俺達でそれを防ぐんだ。ちなみに犯人は俺だ」
「はあ!?」
自称・前世の記憶持ちのルーカスに振り回されたり、助けられたりなミシェルの学院生活。
そして無情にも起きてしまう殺人事件。
「未然に防ごうとあれこれ動いたことが仇になったな。まさか容疑者になってしまうとは。これが“強制力”というものか。ああ、強制力というのは――」
「ちょっと黙ってくれませんか」
甘酸っぱさゼロのボーイ・ミーツ・ガールここに開幕!
※小説家になろう、カクヨムに投稿した作品の加筆修正版です。
小説家になろう推理日間1位、週間2位、月間3位、四半期3位
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします
ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、
王太子からは拒絶されてしまった。
欲情しない?
ならば白い結婚で。
同伴公務も拒否します。
だけど王太子が何故か付き纏い出す。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
婚活と経済~婚活アプリで年収400万以上の男性は狙っちゃダメ!?相談所の男性の年収のボーダーラインは350万!?~
天野桃子
経済・企業
元仲人が婚活をお金の面からガチで語ってみる。ある仲人は「婚活アプリで年収400万以上の男は狙うな。詐称が多い」と言う。また、ある結婚相談所の経営者は「相談所は男性の年収350万がボーダー。収入が低いと女性に相手にされない」と言う。なんとも金にシビアすぎる婚活の世界!!婚活をお金で見ていくエッセー集。現実的すぎて毒舌要注意ですm(__)m
冷徹女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女に呪われ国を奪われた私ですが、復讐とか面倒なのでのんびりセカンドライフを目指します~
日之影ソラ
ファンタジー
タイトル統一しました!
小説家になろうにて先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n5925iz/
残虐非道の鬼女王。若くして女王になったアリエルは、自国を導き反映させるため、あらゆる手段を尽くした。時に非道とも言える手段を使ったことから、一部の人間からは情の通じない王として恐れられている。しかし彼女のおかげで王国は繁栄し、王国の人々に支持されていた。
だが、そんな彼女の内心は、女王になんてなりたくなかったと嘆いている。前世では一般人だった彼女は、ぐーたらと自由に生きることが夢だった。そんな夢は叶わず、人々に求められるまま女王として振る舞う。
そんなある日、目が覚めると彼女は少女になっていた。
実の姉が魔女と結託し、アリエルを陥れようとしたのだ。女王の地位を奪われたアリエルは復讐を決意……なーんてするわけもなく!
ちょうどいい機会だし、このままセカンドライフを送ろう!
彼女はむしろ喜んだ。
救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~
日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。
そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。
優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。
しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる