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水樽は、馬用

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 昨日は4人居た乗客は、今朝になり3人に減った。自分を守れない者はそうなるし、そうなりたくなければ迂闊な行動は控えるべきなのだ。けれど女性はどうしても口を開かずには居られなかったのだろう。殺人をした者が2人も乗っているのだから。

「貴女、馬車に乗るのは初めてじゃ無いのでしょ?こう言う経験は初めて?」

「あ、当たり前よ」

「その割に静かに動けてたね」

「怖くて、声なんて出せなかったわよ…」

「それが正解ね。デッドパーソンは他の敵を呼び寄せるけど、ソレ自身は襲って来ないから」

「もう2~3日は静かにしといた方が良いよ」

「?」

「デッパを作った奴が近くに居るかも知れないからさ」

 首を傾げる女性に少し細かく説明する。僕の予想するデッパの死因を聞いて、女性はゴクリと息を飲んだ。

「あンたは少し休みなさい。午後は私寝るから」

「余裕ね…」

「余裕は作るものよ」

 セーナは先に休めと言う。ガタガタする車内で寝られるとも思えないが、目を瞑って情報を遮断する。呆れたような女性の言葉に、セーナは呟くように返していた。

 川を越えるに当たり、橋の手前で休憩となる。馬を休めて水を飲ませるのと同時に、川の水を汲むためだ。僕はセーナに起こされて、水を汲んだりパン生地を練る手伝いをした。

「貴方、水樽にそんな物入れてたの!?」

 練ったパン生地の入った鍋をカバンに詰めて、川端から街道へ戻っていると、馭者に詰め寄る女性の姿が見えた。

「ねえ、水以外に入れる物なんてあるの?」

「あるでしょ。葉っぱとか、虫とか」

「ああ。人が飲まなくするアレね」

「貴方達、知ってたの!?」

 女性は本当に初めてらしいな。僕達の声が聞こえたのか、振り返って聞いて来た。馬車に積まれた水樽は、基本的には馬用だ。それでも人が勝手に飲もうとするので、混ぜ物として水を苦くする葉っぱや、水を浄化する虫を入れているのだ。馬は多少苦かろうが虫の抜け殻が入ってようが気にせず飲めるが、人は布越ししないと口当たり悪いし、苦いし、口の中でウゴウゴしたりと、中身を知って飲む者は多くない。

「大事な馬の飲水だからね。辛くする事もあるよ」

「お?お前詳しいな」

「上手くは無いけど馬車も動かせるよ」

「そりゃあ良いな。食いっ逸れねえ」

「うちの従業員だから取っちゃダメよ?」

 僕は奉公人から従業員に出世したようだ。馬の休憩を終えて、水と人が乗ったら再出発。しかし出鼻をくじかれた。

「ぎゃっ!敵だっやられたっ」

「不味いわね」

「予想はしてたけどさ」

 セーナは杖を、僕は槍を持つ。残る女性は…隠れてたら良いよ。

「セーナ、魔力は持つ?」

「無駄遣いしなけりゃね」

「気を付けて。馭者と代わって来るから」

「あンたもねっ」

 速度が落ちた馬車から飛び出し馭者席に乗り込むと、馭者は右腕辺りをやられたみたいで矢が刺さってる。抜くのは後だな。

「頭と脇を守ってて。僕走らせるからっ」

「す、すまねえっ」

 手網をビシッと打ち込んで、馬は急に速度を上げる。荷物を詰んだ馬車であっても、人の走るのよりは早い。低木の中に身を潜めていた盗賊共が街道に出て来ても、臆せず走らせ続ければ怖いのは飛び道具だけとなる。襲われた時点で右側に居るのは確定なので、走り出してしまえば逃げ切れる。盗賊共が悔しさを声に乗せるが聞くだけ無駄だ。辺りに気を張りながらとにかく走らせた。



「ユカタッ、怪我は無い?」

「馭者さんが怪我したけど僕は平気だよ。そっちはどう?」

 暫くして後ろの様子が落ち着いたのか、セーナが声を張る。僕も馬の速度を落とし、返事をした。

「お互い無事で何よりね。馭者が死んだらユカタの負担が増えるから治してあげるわ」

「頼むぜ。まだ子供が小せえんだ。ここを抜けたらまた川がある。橋を越えたら止めてくれ」

 それまでは矢を抜かず頑張るようだ。横で細かい乗り方のコツなんかを教わりながら進ませる。






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