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信用は、出来ない
しおりを挟む馬車代の3万ウーラは僕達が払う。2人分で6万ウーラだ。因みにムルザバ~オック間は1万ウーラ。コツコツと貯め込んで来た全財産だった。
「なあ、あんた達、冒険者かい?」
街道を進み出し、衝撃で痛むお尻にカバンを敷いてケアしだす頃、荷車の奥側に座ったおじさんが背嚢に座り直すと同時に口を開いた。
「私商人。コッチのは奉公人よ」
「んだ」
「それっぽい服着てるから勘違いしたよ、すまんね。俺はスコフィールドに居る息子が嫁取りでな。祝いに行くんだ」
「なら10日って所ね」
「詳しいね。商材でも仕入れてるのかい?」
「アソコから来るのは雑貨だけよ?ゲル版もあるって聞いてるけど、買う機会は無いわね」
「へー」
「俺の息子な、スコフィールドで商いをやってるんだ。もし町に寄ったなら見てやってくれ。ハコー商店って言うんだ」
ハコー商店の売り物を聞いたりしていたが、セーナは帰りに寄れたらと言う曖昧な返事でお茶を濁していた。セーナは町でも顔が広い方だと思う。商人の家族でセーナを知らないとなると、つまりは余所者だ。余所者に情報は渡さないと言う事なのだろう。魔法使いに偽装した商人と、雑なエプロンと武器を着けた奉公人。セーナは名乗りもしないおじさんにその情報を与えた。僕は寝た振りをして外を眺める。もう1人の乗客は女性だったが、一言も発しなかった。
夕方になり、街道横に設置された休憩地が今夜の寝床となる。そこで乗客は2つの選択をする事となる。馬車で寝るか、外で寝るかだ。一言も発しなかったが女性の乗客が居ると言う事で、男2人は外で寝る選択を強いられた。
「で、なんであンたがいるのかしら」
「まあまあ、ご相伴に預かろうと思ってね」
「遠慮してちょうだい。私、あンたに施す程持ち合わせが無いの。奉公人、槍で突いてしまいなさい」
「へい」
僕が槍を取り出して構えると、男は素早く逃げて行った。中段構えでは無く上段構えだ。投げる事も視野に入れた構えを取られては離れざるを得ない。
「ふふっ、あンた、冒険者に見えるわよ」
「今夜は不寝番だね…」
「今夜から、よ」
「先が思いやられる」
夕飯は干し掛け野菜のスープで済ませる。これはセーナが作って配膳までしてくれる。働かなくては食べて行けない奉公人の僕は寝床を用意する。セーナも馬車で寝るのかと思ったら、なんか嫌だから固まって過ごそうって。セーナは強いけど、詠唱時間くらいは僕が稼がなきゃならない。だから2人で過ごす事に同意した。
休憩地の外に出て、草や低木を集めて来る。中剣を振り回して低木を切るのだが、剣ナタも買えば良かったと少し後悔した。それでもナタより重い剣なので斜めに剣筋を入れると途中で折れる程度には切れてくれた。
低木と草をたっぷり集めたら僕達の陣地を作る。2人の荷物と体、焚き火のスペースを確保したら少し枝を払った低木をスペースを囲むようにぐるりと刺したら、低木が壁になるよう草を横にして編み込んで行く。ブフリムの背丈くらいの高さにしたらひとまず壁の完成。
次は背嚢を使って寝床を確保する。僕とセーナの背嚢を支え合わせて三角を作り、三角の一方に低木を刺して軽く穴を塞ぐ。その上に刈り取って来た草を乗せる。とにかく乗せる。ちょっとした山になる程草を集めて寝床の完成だ。草の中に入り、背嚢同士の隙間に顔を出して寝るのだ。本当は干し草で作りたいけどとにかく時間が無い。
「まだ終わらないの?」
「寝るだけならコレでも」
「そ。なら食事にしましょ。あンたが言ってた茹で野菜だけど、コレで良かったのかしら」
スープ作ってたんじゃなかったみたい。確かに水は馬車にも積まれているが、あれは基本馬用だし貴重だからな。お椀に盛られた汁少なめスープは、具が少し硬かったが、暖かい食事を取れたので充分だ。そして細く切った干し肉と、数粒の干し果物を背中で隠すように並んで食べた。
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