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命を、取れるか?
しおりを挟む食事をし、片付けをしたら作業部屋に戻る。セーナはもう少しだけホリーさんに付き合うそうで1階に残った。僕はマットに寝転んで目を瞑る。
死んだ人を見るのは少なくない。寿命なり、病気や怪我、魔物や盗賊に殺られる者もいて、村では焼いて土に埋めていた。けれどこれから死に行く人を見たのは初めてだ。痛みに呻き、のたうち回る気力も無く、ハラワタと血を噴き出して死んで行く。これから死ぬと言う事実を前に、生きる事を諦めた目が凄く印象的で、冒険者に関わらず、剣を扱う者になると言う事は、少なからずあの目を見る事になると想像する。2年間学生になる事で、ソレから逃げられる…僕はそう思ってしまった。
「ユカタ、起きなさい。朝食を手伝いなさいな」
寝て起きて朝。昨夜は人の生き死にを考えたまま寝てしまったようだ。
まだ日が上がる前に起きて来たセーナがランタンを持って起こしに来た。ランタンのおかげでより暗く見えるが、寝剥がす居候に用意される飯は無い。返事を返してすぐに起き出し、下へ降りるセーナに続いた。
「早起きには慣れてるの?」
「そりゃあ、この時間から野菜捥いだりしてたから」
「そ。なら井戸で水を汲んで来て。私は火を入れるから」
中庭の中心に井戸があり、これを使えと渡されたバケツを持って向かうと既に2人が使ってた。
「ん?あンた見ない顔だね?」
「あたし知ってるよ。セーナんトコの」
「ユカタだよ。セーナの店で住み込みしてるんだ」
「上手い事やったんだね」「その割に静かだったけど」
夜は寝るモノだろうに。それにいくらセーナが歓迎してくれると言っても夜遅くまで騒いで良い訳が無い。順番が来るまでにもう2人来て挨拶し、水を汲んで戻る。水瓶に布越ししながら水を注いでもう2回。水を張ったバケツを持って厨房に入ると甘い匂いの煙が出てた。
「水汲み終わったよ。どこか痛いの?」
「煙いでしょうけど我慢してね。朝起きるのが一番痛むらしいから」
ホリーさんはまだ目を覚ましてはいないが、こうする事で目覚めた時痛くないようにしてるそうだ。煙が落ち着き、食事の支度が始まる。竈の上で湯気を上げる鍋に、切った野菜や干し肉を入れたり、竈の余熱で買い置きのパンを温めたりした。
「セーナは回復魔法使えたりする?」
「風魔法のなら使えるわ」
「ホリーさんのって、回復魔法じゃダメなのかな」
「そう考えるのが普通よね。けど回復魔法は外傷向けなのよ。切り傷に触れた風が切り口の元から癒して行く感じね」
体の中まで治せるのは光魔法なのだと言う。光魔法の治療師は町には居らず、もっと大都市の教会に囲われているそうだ。
起き出したホリーさんを交えて食事を摂り、セーナは店の支度に出る。僕は洗い物だ。ホリーさんの世話に洗濯の時は僕が店番を代わる。と言っても僕に出来る事は無い。お客が来たらセーナを呼んで、量った草をゴリゴリ粉にする程度だ。
昼になり、朝の残り物で昼食を済ませると店を閉めて外に出る。僕のお金を振込みに行くのだ。更にセーナはホリーさんの入る養老院に話を聞きに行くと言う。銀座で振込を終えてセーナと別れたが、特にやる事も無くて困る。手持ちのお金も多くないし、買い物する余裕は無い。銀座で入れたばかりのお金を引き出すのも恥ずかしいのだ。財布の中は銀貨4枚に銅貨たっぷり。使えて3万ウーラかな。旅の装備で何が買えるだろうか。
「旅の支度か」
「学校に入る予定なんだけど、国立の専門かアッゼニに行くんで、どれがどれだけあればと思って」
以前カバンを買った店で店主に聞いてみる。店主は僕を連れて外に出ると、置いてあった消火用水樽に座ってタバコに火を付けた。
「セーナの入れ知恵だな?」
「僕には町で暮らす知恵は無いからね」
「素直なのは良い事だ。食わせる奴が居ないならそれも良いか」
予算が足りないので買えなかったが、背嚢に寝袋、ランタンに雨具、携帯食料に水筒。そして武具が必要だと教えられた。
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