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野宿から、ベッドへ
しおりを挟むセーナがくれた銅貨3枚。最初に入れる事で何かご利益があったりするおまじないとかなのだろうか。
「銀座カードに入れたのと、買い物した分のお釣りよ」
「そこまで考えて買い物してたのか」
「計算はしてたけど、多ければもっと返したし、足りなければ次に買い取る時に徴収したわ」
「君は実に凄いな」
「そうでしょ。お節介冥利に尽きるわ」
帰りがけに、宿まで紹介されてしまった。1泊食事別で40銅貨。食事は大体10銅貨前後だそうだ。部屋に入って、ベッドと物干しロープしか無くて、その狭さに驚いた。どうやってベッドを入れたのだろう?
「どう?狭いでしょ。ふふっ」
「す、凄いな」
「冒険者の泊まる安宿なんてもっと酷いわよ?」
安宿の値段はここの半分だが、倍払ってでもこの宿の方が良いと言う。安全で、綺麗で、隙間風が吹かないそうな。
「2ヶ月は寝て暮らせると思うけど、3日くらいしたらまた店に来なさいな。おばあちゃんを紹介するわ」
「分かった。今日は本当にありがとう。セーナと会えなかったら安宿で乾燥キノコを作る所だったよ」
「そしてまた買い叩かれる訳ね。けどギルドにも少しは卸しなさい?不審に思われるから」
「そうだね。ボコボコにされたら嫌だもんね」
セーナが帰り、僕はベッドに腰を下ろす。昨日の今日で生活が一変した。昨日は野宿だったのに、今日はベッドで寝る事が出来る。夕飯も軟膏や湿布の材料じゃない。パンとスープが食べられる。銅貨の詰まった財布に、新しいカバンとナイフ。町での生活は、今日から始まったのだ。
夕食と朝食を食べて、昼飯用のパンを買って21銅貨。安くて美味い。荷物を掛けて、街を出る。街道を行く馬車に追い抜かれ、一瞬帰りたくなってしまう。けれど帰った所で僕の居場所は無いだろう。口減らしは帰れないのだ。
カゴを引っくり返した寝床は健在ではあったが、ブフリムの痕跡があり鼻が曲がりそうだ。今日は街道の反対側に行く事にした。弓矢の間合いから外れる距離を保ち、這いつくばって獲物を探す。今日の狙いはクモノスワタだ。
クモノスワタは乾燥して風の無い草地に生える多年草。他の草に絡みながら、まるでクモの巣のように繊維を広げる綿の一種だ。繊維が弱いため、糸や布に加工される事は稀で、主に利用されるのは種である。丁寧に殻を剥いた種を潰して油を搾った残りカスは、加熱する事で甘くなる…と、セーナのおばあちゃんに教わった。
場所的にもっと生えてそうなイメージだったが、思った程株が無い。午後まで掛かってやっと見付けたのは4株。100m四方でたったの4株だった。ジャリソウは加減してカバンに一杯。ツルショウガは20束採った。しかしクモノスワタは時期でない事もあるが、種20粒。これでは食べる量にはならない。仕方無い。自然に返そう。石のナイフで土を少し耕して、種を置いて土で覆う。後は雨でも降ってくれれば芽吹いて来るだろう。
「君、また持って来たのね」
「雨が降ったら収入無くなるからね。少しでも増やしとかなきゃ」
「その割に、カバンを買ったの?」
「使っちゃってるけどコレ、お土産なんだ。何も無しじゃ帰れないからね」
品物はキリの良い量を買ってもらい、60,00ウーラとなった。銅貨60枚である。カバンに残ったジャリソウに混ぜて持ち帰る。ちなみにジャリソウは洗っておやつにした。美味しくはないけどお昼パンだけだったので丁度良いや。
夕飯前、宿の店主に聞いた店にやって来た。ココはムルザバ唯一の共同浴場である。宿の店主に銅貨5枚持って行けば良いと言われたが、タオルや石鹸が売られているとは聞かされていなかった。取り敢えず入っちゃえば何とかなるだろうと思っていたが、お湯を頭から被ってハッとした。服着たらびちゃびちゃになると…。
僕は覚悟を決めた。
夕飯は残り物のジャリソウをベッドの中で裸で食べた。宿の中で野宿してる気分になったよ。
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