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憧れて、上京
しおりを挟む戦士。剣士。兵士。騎士。そして冒険者。僕は彼等に憧れて、生まれ故郷のオック村からなけなしのお金で馬車に乗り、村二つ離れたムルザバの町にやって来た。
「残念だが、お前の背丈じゃ兵士にはなれんな」
しかし現実は無情である。兵装は規格品。故に、それを纏う者も兵装に合った体格でなければならないと、志願受付のカウンターに座る事務官殿に言われてしまった。
「僕、いや、自分はまだ14歳です。背はこれから伸びると思います」
「入って来たドアの枠を見てみろ」
「は、はい」
振り返り、スイングドアの枠を見る。ドアの少し上は木目が、下側は腐食防止の塗装がなされていた。
「あの塗装の境目はな、入隊出来るかの境目でもあるんだ。例えば来年背が伸びて、再び志願するのも良いだろう。だが、周りは歳下で先輩は同い歳。どう言う扱いになるか、予想は出来るな?」
「村八分…でしょうか」
「お前の努力次第でどうとでもなる事だろうが、最悪を想定出来るのは良い事だ。背丈さえ十分だったら迷わず歓迎していたぞ」
事務官殿はそう言って励ましてくれたが、結果が変わる事は無く、丁重にお断りされてしまった。
ココはスミヨン辺境伯領、ムルザバ衛兵隊詰所前。僕の夢は、絶たれた。
「冒険者になるにはね、成人を迎える15歳からとなってるの。一度帰って、しっかり考えてからでも遅くはないわ」
冒険者ギルドの受付嬢さんが僕の身分証を見て笑顔をくれる。笑顔だが、眉は八の字だ。
「採集とか清掃は14歳から出来るって聞いたけど」
「それは町に住んでる子達の事ね。家から通えるからこそ出来るのよ。努力次第ではあるけれど、生活費には足りないから。君、宿と食費と装備の補修、賄える?」
「……」
「住み込みで働くのもお勧めしないわ。体が出来ないから。分かるわね?」
二の句が無い僕に受付嬢さんは更に続ける。考えていたが口に出せなかった事を指摘され、歯噛みしてしまった。村でもある事は、町でもあるのだ。
「君はオック村の子よね。採集とか得意だろうし、1年頑張って知識と経験を蓄えてね?期待してるから」
受付嬢さんは優しく励ましてくれたが、今すぐ1年経つ事など無く、丁重にお断りされてしまった。
ココはスミヨン辺境伯領、ムルザバ冒険者ギルド前。僕の夢は、持ち越しとなった。
兵士にも冒険者にもなれず、僕は路頭に迷ってしまった。お金はもう殆ど残ってない。串焼きを我慢して、銅貨2枚する小さなパンを食べたら鉄貨4枚しか残らないとなると、食べたくても使えない。勿論宿に泊まれる額でも無い。帰る馬車代にもならないので徒歩で帰るしか無いが、村二つ分歩くとなると、少なくとも15日は掛かるだろう。丸腰で、帰れる距離と安全さでは無い。
家から持って来たカバンの中には石を加工して作ったナイフが1つ。殺傷能力は皆無だが、コレを使って生きなきゃならない。
町の門を抜けて、街道に沿って来た道を戻る。クネクネと曲がる街道の左右は丈の高い草が生い茂り、草藪と化している。僕は辺りを見回して、そっと薮の中に潜り込んだ。
藪の中を100m程進む。弓矢の射程から離れるためだ。そして足元の草を引っこ抜き、地面を均して草を敷き詰め、僕一人が寛げるだけの空間を確保した。
草を抜きながらこの場所に何があるのか予想する。土は乾燥気味で、草丈のある草が密に生えている。こう言う場所にはツルショウガやクモノスワタが生えてるハズだ。風を嫌うキセルタケやジャリソウは既に見付けて採集済みだ。休憩地から離れないように、ぐるぐると回りながら這って進み、カバン一杯のジャリソウとキセルタケ、ツルショウガを2束採集出来た。
昼食にジャリソウを摘み、根と土を落とした草を使いカゴを編む。カバン1つのジャリソウ程度じゃ宿賃にもならないだろうし、今日は野宿する覚悟でカゴを作るつもりだ。
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