23 / 34
22話「協力者」
しおりを挟む22話「協力者」
目を覚ました花は、寝る直前の約束を雅に聞けずにいた。
花が起きると、すでにクマ様は起きていたので話ずらかったのだ。そのまま、遅めのブランチをいただいた後、花は1度帰宅することにした。
凛と雅の写真を持ってきたかったのもあるが、1度one sinの支店長である岡崎に連絡をしたかったのだ。それに、先輩である冷泉も心配してくれているのではないかと思ったのだ。
帰宅後すぐに店に連絡を入れる。
平日の昼間となると、きっとそんなに混んではいないだろう。忙しいときはかけ直そう、そう思った。何て言われるのか、「もう辞めたんじゃないの?」そんな事を言われてしまうのではないか、と不安になってしまう。が、それで何もしなければすすんでいけないのだ。もし、辞めることになっても私には帰る場所がある。そう思えるだけで、花は強くなれるような気がした。
『乙瀬さん!?大丈夫、心配してたのよ……』
電話出たのは、運良くも花の指導係の乙瀬だった。驚いた後は、すぐに涙声になる。やはり、彼女は花の事を心配してくれていたようだ。しかも、他のスタッフより花の詳しい事情を知っているからこそ、不安になったのだろう。
花は目の前に相手がいないのに、自然と頭を下げてしまう。
「冷泉さん……すみません。ご迷惑お掛けしてしまって」
『あなたは何もしてないじゃない。……本当に酷いことを……』
「………」
自分の味方はここにもいる。
それだけで、花は自然と笑みを浮かべられた。
そんな人が1人でもいるだけで、私は帰れる。また、仕事をこなせる。そんな風に思えるのだ。
『………乙瀬さんですか?』
遠くから岡崎の声が聞こえた。話の内容から花が電話をかけてきたとわかったのだろう。冷泉は「いつでも戻ってきていいんだからね!」と激励の言葉を花に残した後に、岡崎と変わってくれた。
『乙瀬さん、お電話ありがとうございます。本社の方から電話したと聞きました。……大丈夫でしたか?』
「……はい、応援してくれる人がいるので。大丈夫です」
『そうですか……。それは、心強いですね』
もう弱音を吐こうとしない花の声を聞いて、岡崎は安堵の息と明るい声が電話口から聞こえた。
「岡崎店長。……私は、自分から辞めるしか道はないのでしょうか……?」
仕事を休むように上司に言われたのが1日前だが、しばらくという事は出社していいと言われるまでは何もできないという事を意味していた。そうなると、もちろん給料も入らない。
何も通達が来なければ、待機したままになるため、自分から辞めると伝えるしかなくなるのだ。それを待っているのだろうか、と思えてくる。
その花の考えは当たっていたようで、岡崎は表情を歪めたまますこしの間固まってしまった。
『………残念ですが、会社はそのつもりのようです。自分達から辞めて欲しいとは言えないため、自主退社にもっていきたいのでしょうね。……そのやり方を私は賛同出来ませんが』
「………そうですか。岡崎さん、one sinって副業的な事ってしていいんでしたよね?」
『え、えぇ……。個人のため、会社のためになるようなものでしたら大丈夫ですが………。乙瀬さん、まさか何か仕事が決まりそうなのですか?』
予想外の質問に、岡崎は驚きながらも答えてくれる。花は自分の決めた事をはっきりと岡崎に伝えておくことにした。
「今、相談したり、仲良くしてくださっている方が、お店をやられていて。そこに誘われています。少し興味があるのは事実なんです。ですが、one sinをやめるつもりもないです。お休みの日に手伝えたら嬉しいな、と思っていて。それぐらいは大丈夫ですか?」
『それはもちろん、大丈夫ですが……』
「私、岡崎さんにた助けていただいてone sinに入る事が出来たのが嬉しかったんです。こんな私を気にかけてくれてる人がいるんだって。だから、岡崎さんに認められるように頑張ろうって決めたんです。それに、one sinの制服、大好きなんで気に入ってるんです」
『乙瀬さん………』
「だからだめだとしても、もう少しだけ粘って見てもいいですか?早くお役に立てるように頑張りますので」
『やはり、私の目に狂いはなかったようですね』
「岡崎店長?」
岡崎のくすりとした微笑んだ声が小さく耳に入った。が、それが上手く聞き取れずに花は聞き返そうとするが、岡崎はもう話してくれる様子はなかった。
『何か進展があったり、不安な事があったらすぐに電話をください。あなたは私の大切な部下なのですから』
「ありがとうございます」
父親が亡くなり、母親も離れて行ってしまった。そんな時、自分は一人きりなのだ。そう思っていた。
何をしても人の目が気になり、笑っている人を見ると、自分が嘲られているのではないかと不安になる。
楽しい事も何もなく、ただただ呆然と過ごすか、現実から逃げるためにただ寝て過ごす日々だった。
けれど、1歩自分から外の世界へ踏み出した途端に、こんなにも自分の傍に居てくれる人がいるのだと気付かされた。味方をして、応援してくれる。
花を1人の人間として見てくれる。乙瀬家の娘、という肩書だけではない。自分自身を。
岡崎との電話を切った後、花は手で流れそうになった涙を拭った。
人に優しくされると、最近すぐに泣いてしまっている。
これでは、凛や雅にまた「泣き虫」と言われてしまう。
花は、立ち上がり棚からレース編みの道具を取り出した。
今、自分が出来る事をしよう。
花はそう決意して、黙々と真っ白なレースを編み始めた。ただ寝ていても、隠れていても何も変わらない。行動すればいつか何かのためになる。
自分がそうであったように。
それだけを考えて、花は夜になるまで編み続けた。
けれど、もう1つの考えなければいけない事は、まったく解決策が浮かばないのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる