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20話「明け方の会議」
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「問題は、この体を燃やせないって事なんだよね」
薄手のカーテンが少し明るく染まっている。
朝日が顔を出し始め、残酷にも1日が終わりを告げた。
徹夜でレース編みをし夜明け前に凛の衝撃の事実を知ったせいか、花はまったく眠さを感じなかった。
凛だと思っていた彼は、凛の体に入り込んでしまった四十九日の雅という男性だった。
そんな雅が、そんな不安を口にした。
「それって、あ、そうか………」
花は雅から貸してもらったハンカチで涙を拭きながら、返事をするが話しながらその疑問にすぐに気づいた。
四十九日の奇で魂が入ったものを、供養のためにそれを燃やさなければいけないのだ。それが、その魂が無事に成仏できる方法だと言われているからだ。
しかし、雅が入ったのはモノはものでも生身の人間だった。その体を焼くという事は、その人間である凛の体を燃やす事になるのだ。そうなれば、魂はテディベアの中にある凛だが、体がなければ生きているとはいわないだろう。
それはすなわち死んでしまうという事だ。
「凛の体を燃やすわけにもいかないから、俺はクマ様みたいにテディベアに体を移して、この店をうろうろしててもいいと思ってるんだけどね」
「そんなのダメに決まってるだろ!雅は早く成仏しろ」
「って、凛は言うんだよね。別にいいのにね……」
凛は先程から口数も少なく、しゃべったとしてもイライラしているようだった。花に話すつもりはなかった事を知られてしまったからなのだろうか。
偶然とはいえ、勝手に話を聞いてしまった事を花は申し訳なくなってしまう。
「クマ様、じゃなくて凛さん。その、ごめんね。その大切な四十九日なのに、邪魔ばっかりして……」
「………別に。雅が楽しそうにしてるんだからいいだろ」
「そうだけど………」
「花ちゃん。大丈夫だよ。凛は、心配してくれているだけだから、ね」
「うるさい」
「ふふふ。凛は優しいけど照れ屋なんだよ。クマ様だとわからないけど、きっと今は真っ赤になってると思うよ」
「なってないッ!」
大声を出してムキになっているところを見ると、雅の言葉は当たっているのだろう。
花は思わずクスリと笑ってしまう。こんな時に笑ってしまうなんて、と、すぐに表情を硬くする。が、雅の視線を感じそちらも見ると、雅の安心した微笑みが見えた。
残り約1週間。実際は死んでしまっているけれど、この世から離れるタイムリミットが近づいている。
雅は今、どんな気持ちなのだろうか。
花は彼を見るだけで、心が苦しくなる。
「凛はね。四十九日の奇の事についていろいろ調べてくれているんだよ。そして、俺をどうやったら供養できるのかって試してみてくれたんだ。お経を唱えて貰いにお寺さんに行ったり、クマ様を燃やして自分の魂が自分の体に戻ったら、俺が出ていけるんじゃないかと考えて自ら火に飛び込もうとしたり、ね」
「ま、まさか川に落ちたのも………」
「そう。あれは俺が落としたんじゃなくて、凛から飛び降りたんだ。桜を見に行きたいって言われたから橋まで連れていった瞬間、突然川に向かって飛び込んだんだよ。本当にびっくりしたよー。そして、花ちゃんもクマ様を助けようとして飛び込むし、そして何故か怒られちゃうしね」
「ご、ごめんなさい………」
何も知らなかったとはいえ、雅のことを出会ってすぐに怒鳴ってしまった事を思い出して、花は顔を真っ赤にして謝った。クマ様の考えを邪魔してしまい、そして何もしていない雅を怒ってしまったのだから。
浅はかな自分の行いを今更後悔しても仕方がないが、昔の自分を止めてあげたい。
けれど、どうして川に流す事が雅の供養になるのか。花は少しも理由がわからなかった。
凛は独自に四十九日の奇について調べていると言っていたのだ、何かわかっていたのだろうか。
「凛さん。川に流すのは、四十九日の奇の魂を供養する方法の1つだったの?」
「いや。違う、あれは失敗だった………」
「え……」
「よく三途の川とか言うだろ?だから、花衣に乗てながせばあの世に行くかなって。流し雛とかもあるだろ?」
「…………でも、クマ様があの世に行っちゃだめなような。それに流し雛って身の穢れを川の水で流して清めるんじゃなかったっけ?」
「だから、俺は反対したんだけどね。もし川に流すなら凛の体で流す方がいいんじゃないかって。でも、凛はやるってきかなくてね」
「仕方がないだろ。それ以外方法が思いつかなかったんだから」
凛は自分なりに調べて、雅の魂を救う方法を探すのに必死だったのだろう。
2人の様子を見ていれば、とても仲がよく友達だけの関係ではないのが伝わってくる。お互いに大切にしている、仕事の同僚だけではに関係だったはずだ。
だからこそ、凛はテディベアの体に魂が入ってしまっても、雅のために必死になっているのだろう。
「私も手伝いたい」
「………え」
「雅の魂がどうすれば供養できて無事にあの世にいけるのか。私も調べてみる。お父様の四十九日の奇でお願いした十三師さんにも聞いてみます」
「…………ありがとう、花ちゃん」
「…………」
「じゃあ、今からでも連絡を」
花はすぐに立ち上がり、スマホを部屋から持ってこようとした。が、それを雅が止めた。
「花ちゃんも凛も今日は寝てないだろう。少し寝ないと体を壊すよ。俺は生きてないから寝なくても大丈夫だけど、ね。少し休んで」
「でも時間がないし………」
「最後の日に体調を崩して花ちゃんや凛に見送って貰えない方が俺は辛いから、ね」
雅にそんな事を言わせてしまっては、花も凛も反論出来るはずがない。
もう朝になるが、どうせ仕事もない。
花は雅の言葉に甘えて、遅い就寝の時間にした。
凛は、自分の部屋に、花は雅の部屋で眠る事になった。
この家に泊まる時に過ごした部屋は雅のものだったのだろう。物は少なくなっているが、少し前まで誰かが住んでいたのもわかった。てっきり凛の祖父のものだと思ったが、そうではなかった。
花は布団にもぐりながら目を瞑ったがまったく寝れる気配がなかった。
あんな事実を聞かされた後だ。しかも、考えなければいけない事が山積みなのだ。そして、3人に残された時間は短い。
そんな風に思いつめてしまうと、ますます寝れなくなるのだ。
「だめだ。やっぱり寝れるはずがないよ」
ため息をこぼしながら、花はゆっくりと身を起こした。やはり眠れなかった、と雅に告げて起きてしまおうと思っった。雅の部屋を出ると、丁度凛の部屋から雅が出てくるところだった。
「あれ?花ちゃん、寝れないの?」
「うん。だから、起きちゃおうかなって」
「だめだよ。睡眠はお肌だけじゃなくて体調も悪くなっちゃうんだから。凛も今寝たところだし、俺が眠までついててあげるから」
「え、いいよ!寝顔見られるの恥ずかしい」
「花ちゃんは可愛いから大丈夫。それに、寝顔なんて、もう見た事あるでしょ。可愛かったよ」
「そういう問題じゃないの!」
「照れない照れない。さぁ、部屋に戻って」
そう雅に押し切られて、花は渋々雅の部屋に戻り、布団にもぐる事になったのだ。
けれど、雅が一緒にいてくれるならば寝れるような気がした。
もうこの店の人達のぬくもりに甘えるのが、自分の最大の癒しだと気づいているのだから。
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