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4話「お金より欲しいもの」
しおりを挟む4話「お金より欲しいもの」
「四十九日の奇って。乙瀬さんは、誰か親しい人が無くなったばかりなのかい?」
四十九日の奇。
人間は、死んだ後四十九日感、この世に留まっているという。もちろん、肉体は滅んでいく。魂だけが残るのだ。普通ならばその魂はこの世の漂うだけで、普通の人間には見える事はない。けれど、生きる人々は四十九日間は近くに居ると、安心する。思っているだけでも気持ちは落ち着くはずだった。
が、『四十九日の奇』はそれと少しだけかたちを変える。
魂がこの世に残るのは同じだが、その魂がモノに宿るのだ。その魂が生きていた頃に大切にしていたモノや心残りや心配事、愛しい人とあと少しだけでも共にいたいという思いから、魂が望むモノに気持ちが宿る。
そして、その魂が自由に言葉を発したり、動いたりするという事例も確認されていた。もちろん、ただモノに宿るだけで何も動かずじっと時間を過ごし魂もいる。
その『四十九の奇』の魂は、もちろん49日間だけ留まるのが普通だ。
だが、その49日間の間に、そのモノを供養するとあの世へと迷わずにいけると言われているのだ。
そのため、大体が死後49日だけ見られる奇跡なのだ。
だから、凛はそう質問してきたのだろう。
だが、それは違っていた。花はゆっくりと頭を横に振り否定する。
「………私の父が亡くなったのは3か月前なのです。最近、このクマのぬいぐるみを発見したんです」
「随分、時間がかかったんだね」
「実家から引っ越したのですが、その荷物もほとんど開けないままに過ごしていて。最近、段ボールを開けたら、私が入れた覚えのないこのぬいぐるみが入っていたのです」
「……なるほど。じゃあ、そのぬいぐるみには君のお父さんの魂が入っていて、四十九日で成仏できずにまだ魂は入ったまま。そして、自分で君の荷物に入った、と」
「それは、わからないのですが。考えられるのは、その通りの事です。ですが、私はこれが動いたり話したりする姿は見た事がないのです」
花の荷物に触れたのは花自身だけだった。
そうなると、宝石の瞳のテディベアは自分で段ボールに入り紛れたという事になる。それしかありえない、そう思っていた。
「十三師に見ていただき、このぬいぐるみには魂が入っていると言われたので、それは確かなはずです」
十三師。
それは特別な力を持つ人間の仕事だった。
四十九日の奇の魂を肉眼で見れる人間は稀だ。そして、動かない四十九の奇の魂もある。そうなると、普通の人間は気づかない事があるのだ。大体は「ここにいるような気がする」という曖昧な感覚でその魂と短い時間を過ごし供養する。けれど、全くわからない人や、どうしても四十九の奇で魂と関わりたいと思う人間もいる。
そういった人が頼るのが、十三師だった。
十三師は、その魂を見る力を用いて魂がどこにいるのかを視る仕事だった。
全国に13家系しか見えないから、またはただ単純に四十九日の4と9を足した数だから、十三師と呼ばれているなど、名前の由来については諸説あった。
その十三師に見て貰うというのは、一般的にはなっておらず、「十三師にお願いした」という話を聞くと「珍しいね」というぐらいのレベルのものだった。それは家族や親しい人なのに魂がどこにあるのか気づけないというのは恥ずかしいという世間の目と、調べるには大きな金が必要なためだった。
「なるほど、話はわかったよ。でも、結論から言おう。これは俺がつくったテディベアではないよ」
「え……」
「確かに花浜匙のマークはあるし、この刺繍やテディベアの特徴から花浜匙のものであるのは間違えがないよ。けれど、これは僕が作ったものではない」
「それは、どういう事ですか?」
言っている意味がわからずに、花はすぐに聞き返してしまう。
この店にはこの男以外にもスタッフがおり、何人かで作っているのだろうか。花はそんな考えしか思いつかなかった。
「これは、俺の祖父が作ったものだと思う。こんな大粒の宝石をクマの目する、なんて依頼を俺が忘れるはずものない。と、なると可能性はそれしかないんだ。俺の祖父はこの店を立ち上げた人で、前の店主になる。そして、その祖父はもう亡くなっている」
「………そうでしたか。昔の依頼については調べる事は出来ますか?」
「もちろん、オーダー表は歴代のが残っているから可能だけど、かなりの数があるから時間がかかると思うよ?」
「時間はかかっても大丈夫です。調べていただく依頼料もお支払いしますので、ぜひお願いします」
「お金なんていらないよ。かわりに、お願いした事があるんだけど」
「はい。私で出来る事であれば」
お金以外に何が欲しいのだろうか?
お金ほど、生きていく上でいくらあっても無駄にならず、取引をする上でもトラブルなく解決する方法だ。気持ちだって、お金で変えてしまう事があるのだから。
それに、それ以外のモノは、裏切られる。言葉の通り裏をもってるのだから。
彼の言葉の続きが予想出来ないまま、不思議な気持ちで彼の提示する条件を知りたいと思った。が、それは花が絶対に思いつかないものだった。
「君の事を花ちゃんって呼んでいいかな?」
「え………」
「俺の事は凛って呼んでいいから。呼び捨てだと呼びにくなら、凛さんでもいいよ。あと、会った時みたいに気軽に話して。背筋を伸ばして、全身完璧にして着飾ろうとしなくていいんだ」
「…………」
「あ、それとやっぱり君のテディベアは作らせてもらいたいかな。絶対可愛いのが出来るよ」
「依頼料は1つだけなので。そちらはお断りします」
「じゃあ、凛って呼んで欲しいな。花ちゃん?」
どうして話し方や呼び方が、調べものの依頼料になるのか。
この男にとって何の得にあるわけでもない。花は、彼の考えが全く理解出来なかった。
けれど、お金も払わず、このテディベアの事を調べられるのだから。
仕方がないと思い、彼の名前を呼ぼうと口を開く。ただ名前を呼ぶだけだから簡単だと思っていたが、これはどうも難しい。気恥ずかしいのだ。
人の呼び方を変えたり、話し方を変えると言うのは難しいものだと花は初めて知った。
「では、………り、凛さん」
「うん、何かな?花ちゃん?」
「このテディベアの事、よろしく」
「わかった!俺に任せておいて」
名前を呼ぶだけで恥ずかしさで顔が赤くなる。
そして、やけに疲れを感じてしまうが、それとは正反対に凛は満足そうに微笑んで拳をつくってやる気満々そうにしていたのだった。
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