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21話「幸せと企み」
しおりを挟む21話「幸せと企み」
希海は相手の気持ちがわかる魔法を使っているのではないか。そんな風に思ってしまうぐらいに、空澄の心の移り変わりを理解しているように感じられた。
だからこそ、「キスをしたい?」と聞けるのではないか。空澄が寂しがっているのをわかって聞いているのではないか。空澄はそう思えてならなかった。
「………希海は、魔力譲渡がなくてもキスしたい?」
質問に質問で返すなんてダメだとわかっている。けれど、空澄が1番知りたい事がそれだったので、そう聞いてしまった。
言葉にした後に、これでは自分はキスしなくなるのが寂しいと言っているようなものだと思ったけれど、それは後の祭りだ。
空澄は希海の返答を待つしかなかった。
すると、希海はニッコリと笑って「したいよ」と言った。いつもの優しい笑みの中に、色っぽさを感じてしまい、空澄は思わす視線をそらした。希海はくくくっと笑って「自分から聞いたんだろ」と恥ずかしくなってしまっている空澄を見て笑った。
けれど、その表情はすぐに一変した。まっすぐな視線とキリッとした表情になったのだ。
「鴉の海の時から、ずっと空澄と希海が羨ましかった。空澄と付き合う男が羨ましくて仕方がなかったよ。ずっと見守ってきたのは俺なのに、どうして俺は真っ黒な体の人間ではない存在なんだろうって………」
「希海………」
「鴉の方が他の魔女や魔王に対して監視しやすかったし、力は持っているから空澄を守る事は出来る。けど………」
そこまで言うと希海は頭を撫でたり、頬に触れたり、手を絡めたりして空澄に触れた。希海の指はとても熱くなっている。彼も少しはドキドキしてくれているのだろうか。それがわかると、空澄は何だか嬉しくなってしまった。
「こうやって触れる事も出来なかった。俺の手は鋭い爪があったし、鴉だったから。だから、俺はこうやって空澄の触れるのが嬉しいんだ………頭を撫でれば、手を繋ぎたくなるし、頬にも触れたくなる。そして……キスもしたくなる。魔力の譲渡も本当の目的だったし、必要な事だけど……」
希海は空澄と目線を合わせるように屈んだ。彼の綺麗な瞳が目の前にある。吸い込まれてしまいそうな黒に瞳。そして、鼻同士が触れそうな距離でまじまじと見られると恥ずかしくなる。けれど、彼の言葉一つ一つがとても嬉しくて、そして続きの言葉を早く聞きたくて、ドキドキしながらも彼の瞳を見つめ続けた。
「早く自分のものにしたいって思ってた。使い魔の頃から空澄が好きだった。……空澄は俺の事、どう思ってるか聞かせてほしい」
「………私は……」
真剣な表情の希海。彼へ今の自分の気持ちをどう伝えればいいだろうか。
自分への彼の気持ちが嬉しい。隣にいて守ってくれる事が本当に心強くて幸せだと言うこと。自分ももっと触れてほしいと思っていたこと。
かっこつけなくてもいい。自分が言いたいように彼に伝えよう。上手く伝わらなかったら、伝わるまで話せばいい。
そう思って、空澄も恐る恐る彼の方へ手を伸ばした。そして、先ほど希海がしてくれてように頬に手を当てて彼の体温を感じる。それだけで安心できて上手く話せそうな気がした。
「私ね、こうなって一人になってとても寂しかった。けど、海が人間に戻って希海になって……ずっと見守っててくれたあなたも一緒になれてよかったと思ってる。鴉の頃、気づかなかったし、私は大切な幼馴染みを亡くしたばかりなのに……こうやって誰かのぬくもりを感じて幸せを感じてていいのかなも思う。……だけど、希海とキスをする時間は私のとっては特別で………そのはしたないとか思うかもしれないけど、嬉しかったの………」
「そんな事は思わないよ。それに、俺は空澄の気持ちが嬉しい………だから、ちゃんと言葉にして教えて欲しい。恋人になれる言葉を」
希海の言葉は、いつも空澄を安心させる。昔から見守ってくれていた彼が、好きだと言ってくれる。そして、空澄も心が揺れるのだ。
それに会った時から彼は何が違うと感じていた。それは彼が鴉の海だったからだと空澄は思っていた。けれど、それは一目惚れをして恋に落ちていたのかもしれないと空澄は思った。
そして、彼を知れば知るほど惹かれていった。
希海に促されるように、空澄は彼を見つめ、更に距離を少しだけ縮めた。鼻先同士が触れ合う。彼の吐息さえもわかる距離で、空澄は心からの言葉を伝えた。
「私も、希海が好き………」
「うん………知ってた」
強気な言葉も彼らしい。そんな事を思いながら、微笑む。希海は愛おしそうに目を細めて空澄を見た。
「やっと俺の恋人になってくれた」
「うん」
希海はそう言うと、空澄の唇にキスを落とした。
いつもの食べるような濃厚なキスではなく触れるだけのキス。
それなのに、今までのキスの中で1番甘く、そして心が満たされていく。そんな幸せを感じられる口づけだった。
☆★☆
赤い髪の男は、空澄の家の結界を見つめながら舌打ちをした。
結界が更に強力なものになっているのだ。
その理由はまず使い魔の男の魔力が上がっている事だ。鴉から人間に戻ったばかりだというのに、この魔力の上がり方は異常なのだ。早すぎる。赤髪の男はすぐに空澄が魔力譲渡をしているのだと理解した。純血の魔女の魔力だ。あっという間に貯まっていくのも頷ける。
そして、純血の魔女が魔女の能力を高めいるのも理由の1つとして考えられる。まだまだ新人で力も弱いが、元の魔力が大きいのだ。有能な魔女になるのだろう。その証拠に空澄の魔力が格段に増えているのが感じられた。
「………今が狙い時だが。あの鴉が邪魔だな」
純血の魔女が1度狙われたのを知り、鴉は空澄から目を離さなくなったのだ。そのため、赤髪の男は空澄に近づく事が出来なかった。
「私も同じ考えです」
「っっ!!………誰だ………」
気配も魔力も感じられなかったはずだ。
だが、赤髪の男が居たビルの屋上に一人の真っ黒な男が闇夜に紛れて佇んでいたのだ。
赤髪の男は驚きながらも、彼の服装を見て納得をしてしまう。真っ黒な軍服に銀色の髪。魔女の世界では有名な男だった。無表情で冷淡な高位の魔王警察官として。
「魔女官が俺に何の用だ」
「緑川リアムさん。私と組みませんか?」
「………は?」
赤髪のリアムは小檜山の言葉が理解出来なかったのではない。彼が何を考えているのか全くわからなかったのだ。
「私はあの鴉に興味があります。私とあなたで鴉を鳥籠に閉じ込めませんか?」
その話しを聞いたリアム面白そうだと思い、すぐにニヤリと笑って「のった」と返事をしたのだった。
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