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19話「違和感とキス」

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   19話「違和感とキス」



 警察署に行った後、前の職場に顔を出し、挨拶をした後に電車には乗らずに歩いた事。そして、その時に突然小学生の男の子に襲われて、カッターナイフで斬りつけられた事。そして、呪文を唱えてないのに魔法が発生し、気づけられた事。
 そんな話しを空澄は希海にポツリポツリと話し始めた。希海は相槌を返しながら、真剣に話しを聞いてくれた。隣に希海がいると、やはり安心して全て話してしまいたくなるから不思議だった。


 「………そんな事があったんだな。魔女になった途端にそんな辛い事を経験するなんて。大変だったな………」
 「…………どうして、魔法が勝手に発生しちゃうのかな?男の子に怪我させちゃったかもしれない」
 「………やっぱりおまえは優しいな」


 空澄の言葉を聞いて、希海はそう言って笑った。突然何故そんな事を言われるのかわからず、空澄は彼に褒められ優しく微笑まれてしまったは、焦ってしまう。


 「な、何で急にそんな話しになるの?私は別に………」
 「どうして男の子が襲ってきたのか。どうして襲われなきゃいけないのか、って始めに聞かないで、自分が相手を傷付けてしまったのを始めに聞きたくなるものだと思うけどな」
 「それもすごく気になるよ。怖かったし………どうしてなのかも」
 「そうだよな………まぁ、順番に話していこうか」


 彼は空澄が安心できるように微笑むと、いつものように頭を優しく撫でてくれる。とても心地よくて好きなはずなのに、何故か子ども扱いというか妹のように世話を焼いてくれているのではないか。そんな風に思えてしまい、胸が痛くなった。


 「まず、魔法が勝手に発動してしまう事だが、それは空澄の魔力が風が属性だからだろうな」
 「属性?」
 「そう。よく、ゲームとかであるだろう。古代ギリシャの哲学で提唱された世界を構成するいわれた四つの要素。「風」「火」「水」「土」とあって、魔力を構成しているのもそれだと言われているんだ。その力を借りて魔女は魔力を使える。空澄のように「風」だとしても、もちろん他の3つの魔法も使えるが、1番強力で自然と使えるものが「風」という事になるんだ」
 「………属性………。希海もあるの?」
 「もちろん。俺は………これだ」


 そういうと、希海は手を空中にかざす。すると、呪文を口にしていないのに突然掌から小さな火の玉が現れた。そして、その真っ赤な火は消える事なくゆらゆらと希海の掌で燃え続けた。

 「火の属性?」
 「そうだ。こうやって、属性の魔法はすぐに出せるんだ。だから、空澄は身の危険を感じて咄嗟に風を出してしまったんだろうな」
 「………そっか………呪文を出さなくても、魔法が出てしまうこともあるのね」
 「魔力が強いと呪文がなくても強い魔法が出せるみたいだから、空澄は制御しないといけないかもしれないな」
 「………うん」


 希海は手を握りしめて火を消した。
 自分が出してしまった風の事について彼に説明をしてもらい、やっと納得出来た。知ることが出来ると安心する。けれど、力の制御はしっかりと出きるようにならないといけないなと空澄は改めて思った。


 「魔法制御の問題は空澄が魔法に慣ればすぐに解決するが………その襲ってきた小学生というのがやっかいだな」
 「私の血を舐めていたし、魔力が目的なのかな?」
 「その可能性が高いだろうな。だが、小学生の魔女が襲ってくるのは、おかしいな。いくら魔力が欲しくてもまだ未熟で正式な魔女でもないのに、魔力を必要とするはずはないからな」
 「じゃあ……どうして………」


 希海は少し考えた後に、ハッとした表情をした。


 「空澄、その小学生の男の子の容姿はどんな
感じだった?」
 「んー……普通の男の子だったよ。小柄で黒髪で………あ、でも、何だか瞳が赤かったような気がするけど。そう言えば私が吹き飛ばしてしまった後は、赤くなくて普通の瞳の色に変わっていたかも」
 「…………」


 そう話しをすると、希海は目を大きく見開いた後に、優しい顔から一気に険しいものへと変わった。
 空澄は何かまずい事を言ってしまったのかと
思い、心配しながら希海の顔を覗き込んだ。


 「希海?………どうしたの?何かわかった事あった?」
 「……………」
 「希海?」
 「あ、あぁ………悪い。考え事してた」
 

 珍しく慌てた様子の彼を見て、空澄は少し違和感を覚えた。彼は何か知っているのではないか。そう思ったのだ。


 「魔法にもいろいろある。もしかしたら、男の子に姿を変えて襲ったとか、何かの力で操っていた、というのもあるかもしれないな」
 「………そっか。最後に会った男の子は、襲ってきた時と様子が違ったかもしれない」
 「調べてみるが……そうなると、空澄が突然襲われる事がこれから起こってくるかもしれないから危険だな。空澄には防御系の魔法や、ちょっとした攻撃魔法を早めに教えておいた方がいいかもしれないな。お守りだけではダメそうだ」
 「………そうだね」


 攻撃魔法と聞いて、空澄は思わずドキッとしてしまった。誰かをまた攻撃しなきゃいけないのは怖い。けれど、自分が捕まったり、攻撃される危険があるのだ。初めて刃物を自分に向けられた恐怖は、思い出すだけでも恐ろしかった。そして、もちろん怪我をさせるのも。
 だからこそ、必要最小限の被害で収まるようにしなければいけないのだ、と空澄は腕に巻かれた包帯の上から傷口に触れた。


 「そう言えば、おまもりってどんなものだったの?」
 「空澄の周辺で魔力を使ったら反応して、俺に音で知らせてくれる魔法だよ。だけど、今回は魔力で攻撃されたわけではなかったから、反応しなかったみたいだな。それも変えないといけないな」


 希海はそう言って空澄の胸にある宇宙ガラスを見つめた。そして、ぶつぶつと何かをいいながらどんなおまもりにするかを考えているようだった。

 いつも真剣に自分を考えてくれる希海。
 そして、自分を素直にしてくれる、不思議な存在だ。深海のような瞳がキラキラと光り、希海は空澄を見ていた。正確には、首からかけている宇宙ガラスのネックレスだったので、空澄は思わずもっと近くで瞳を見たかったし、自分を見てほしいと思った。そう思ってしまうと、体が勝手に動き、気づくと空澄は腕の伸ばして彼の頬に触れながら、希海を覗き込んでいた。
 すぐ近くに大好きな彼の瞳がある。鴉の時から「綺麗だな」と思っていた。青黒い瞳。


 「…………どうした?空澄?」
 「え、あ………その………ほら、魔力の譲渡がまだだったから」
 「じゃあ、キスしてもいいのか?」
 「う、うん。もちろん………だって、魔力をあげなきゃいけないんだもん……」
 「そう、だな………」


 自分で言っておきながら、その言葉に傷つけられてしまう。
 空澄と希海がキスするのは、魔力のためだから。

 それなのに、彼へキスをせがんでしまった自分の行動に焦りながらも、希海から与えられる甘い感触に空澄は傷つき、そして幸せを感じてしまっていた。


 もう、気持ちに気づかないフリは出来ないかもしれない。そんな予感がしていた。



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