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七の段 死闘 決断(二)
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松前からの軍使が到着したのは、小舘に寄せ手が殺到しているときであった。
新三郎は大舘部からの大量の射撃を喰らわぬために、密集した形での一気の突入を控えたが、すでに大門は開かれている。守備兵の姿はなく、大舘に逃げ込んでいるらしい。こうなれば、落城は遠くもない。
(十四郎からの軍使だと?)
「開城するというのか?」
わけがわからなかったが、軍使は松前から、といった。
一瞬で新三郎は悟った。飛虎旗がもうもうたる硝煙の中ではためいている。
(やられた。)
文を開く。
その文章は残っていないが、松前の陥落を伝え、降伏を勧告する内容であったに違いない。大舘は白兵戦による落城以前に開城したのも強調していたかもしれない。
「松前にやった使者はどうしているか?」
「馬を飛ばしても、まだ戻れますまい。」
「それを待つ。」
偽報、攪乱かもしれぬ、不確かな知らせで動くわけにはいかないのであった。
軍使を引見した。たしかに蠣崎侍だった男で、箱舘に奔った者だ。松前陥落が疑いない事実であるとまくしたてようとしたが、新三郎は、大儀であったといい捨て、返答を与えない。
戦闘を続けた。
松前陥落が事実として、後詰の兵が来るまでにこの茂別舘を落してしまえば、挟み撃ちにあう羽目にはならない。今日中に茂別を落すこと以外は、まだ余計な思案であろう。
(落してしまえば、あとは何も考えずに箱舘を攻めるだけだ。十四郎の本軍が追いつく前に箱舘を落としていれば、また話は変わるわ。)
長い戦いの始まりを思った。
松前で、萩原の率いる西からの兵をあわせした十四郎の軍は、東に向かう準備を整えている。
あやめの船は、ゆっくりと松前湊に入った。湊では戦闘がほぼ無かったから、普段と変わらぬ景色がまず目に入った。ただ、すでにきな臭い匂いは流れている。低く唸るような風音が、曇り出した空に響いている。
「戦の後の空でござるな。」
ご坊が呟いた。
「ここは済んだが……。」
あやめは、茂別で戦っているという新三郎に、胸の中で呼びかけている。
(お願いでございます、おやかたさま……!)
小舘を喪った茂別舘の反撃がはじまっている。一時は寄せ手を押し返しかけた。目に見えて戦意があがっているのは、この包囲の中、いかにしてか松前陥落を城内が知ったからに違いない。
(無理もない。寄せ手にも守り手にも、蠣崎侍がいるのだ。)
新三郎は幕僚以外には無論口止めしたつもりだが、そんなものは役に立たないのも知っていた。
十四郎がこの場にはいない、まんまと出し抜かれたらしいと知ったとき、新三郎は松前に兵を返そうかと考えた。本拠地奪回の企て以前に、本能的に敵主将との決戦を求めた。
(だが、この茂別舘の敵を捨て置けない。撤退戦は面白くない。兵を喪う。そのうちに、下手すれば西からやってくる十四郎の軍と挟み撃ちになる。)
(それでは戦えぬ。)
(一刻も早く、落す。)
松前から、自軍の使いは来ない。
(これは、たしかに松前はやられたな。)
新三郎の覚悟は固まっている。
茂別舘を日没までに落し、箱舘に向けて走りに走る。そのころには寡兵になっていようと、そうする。十四郎の本隊が松前にある以上、こちらは無人の野を行くように箱舘に至れるだろう。おそらくはこちらを大きく上回る数の軍が追いかけてくるが、そのときに箱舘政庁なるものを粉砕してしまっていれば、いったいやつらは何のために戦うというのか。
(もうまやかしの手にはのせられぬ。もし正面からの激突となっても、野戦なら戦機はないではない。)
そこに賭けねばならぬ。
「軍使、いや、使いです。」
幕僚が近寄ってきた。
「わが方か?」
「いえ。松前からと。」
「また十四郎か。」
文を読むまでもない。降伏などしてやる義理は何もない。
(足元を見られるぞ、十四郎。)
「納屋今井の店の者、と申しております。」
新三郎はぼんやりした顔になった。無言で手紙を受け取る。
文は、女の元結でくくってある。
(あやめ……?)
近づけてみると、あやめの髪の匂いがするようだった。この焦げ臭い戦場の風の中でも、髪油と女の肌の匂いが混ざっている気がした。
あやめの肌に触るときのように丁寧に開いて、読んだ。
(こんな字を書くのか。)
初めて見た女の筆は、想像していたほど流麗でも上手でもない。もっとも、どのような場所で、慌ただしく書いたのかはわからぬ。
(松前は陥ちた。弟君が入城された。蠣崎家の御惣領御決断のときと存ずる。……とだけか。)
(決断……。)
新三郎は、文をひどくゆっくりと、大事に畳んだ。
「兵を下げよ。」
「おやかたさま?」
「松前に返事を出す。」
新三郎は幕屋を出て、兜を外した。
戦闘行動がやみつつあるのをしばらく確認せねばならない。軍使が停戦を呼ばわりながら舘に入っていく。
「小介川殿のところへ。」
秋田からの兵の将のもとに向かった。この檜山屋形での僚将が、この場での主家安東家の名代であろう。
「若州殿?」
新三郎は小介川の前に片膝を折った。
「檜山屋形様にお伝えありたい。蠣崎若狭守は、謀叛の疑いある者をとらえよとの命を、全うできぬ仕儀とあいなった。」
「……松前が落ちたというは、まことでござったか。」
「左様。よって、拙者は蝦夷代官の任を辞する。まことに申し訳がたたぬが、務めを果たせぬのでは、とてもこれ以上は顕職をかたじけのうできぬ。」
「待たれよ、若州殿。」
蠣崎新三郎は制止の声も聞かず、小刀で自分の髻を切った。
「蝦夷代官を辞した以上、任務もない。これよりは、無用の戦となった。」
「待て、それで通るか? 通ると思うてか?」
「通るや否やは、檜山侍従様がお決めになるであろう。」
文句があるならば、ここまで攻めてくるがよい、という意味である。
(これだけの兵ならば、檜山屋形の遠征軍とも互角に戦えるのではないか。)
中世の安藤氏以来の長い安東家の支配が、蝦夷島でこの瞬間、終わった。
「新三郎、お前はそれでよいのか?」
若いころから知っている小介川は、生身の相手に生身の声を出す。
新三郎は、ほう、という顔になった。
(おれを咎めだてもせぬか。)
もっとも、小介川としても、ここでのわが身の安全のためも考えているはずだ。
(それは謀反も同然、許さぬ、とでもいいだせば、まずこの小介川三郎を斬らねばならぬかと思ったが、……)
それでも、新三郎は旧知の同輩の厚意と受けとることにしておいた。
「おぬしには手間をかけさせる。」
「あとは、どうするのだ?」
「おれは蠣崎の人間だ。蝦夷島におる。それだけよ。」
小介川は要領を得ない顔で頷いたが、やがて、ではおれたちは秋田に引き揚げるとしようか、といった。
「すまぬ。すぐ帰らせてやりたいが、もうおれには決められぬ。……しばらくは蝦夷島にいて貰うことになろう。」
「しばらくなら、構わぬが。我らの処遇は、たれが決める。」
「あいつの、……」と、新三郎は、騎馬姿の異様な甲冑の将が近づいてくるのを顎で指した。「主だろう。おれの愚弟だが。……さて、おれの陣に戻るとしよう。」
すでに銃声もやみ、喊声もない。両軍が静まり返って、戦を終えるための儀礼に注目しているようだった。
西洋甲冑の武士は、馬から降りるとひどく歩きにくそうだ。十四郎並みの上背を稼ぐために、甲冑の足に細工をしているのだろう。
この武士が、片膝を地面に着けたままの新三郎に向かい、同じく膝をついてみせた。新三郎は先に立った。どちらが勝者かがわからない、と一同は息を呑んだが、新三郎の声で合点がいった。
「森川か。久しい。よく無事でおったな。」
「おやかたさまにはご無沙汰を申し上げておりました。」
新三郎は床几を用意させる。二人が座って向かい合い、停戦の話あいをするかのような形になった。
「まことに、無沙汰が過ぎよう。なぜすぐに大舘に、十四郎一同の無事を伝えなかったか。」
「ご無礼をお許しください。我らみな、お召し放ちにあったものと心得ておりました。」
「当たっておる。こちらも、そのつもりであったわ。」
新三郎は笑った。
「だが、それが儂の生涯の失策よ。儂に見る目がなかった。十四郎などに、おぬしのような者をやってしもうた。おかげで、今日は大変な思いをしておるぞ。」
「畏れ多い。……この首がいま繋がっておりますのは、僥倖にございます。今日は、あわやというところでござった。」
「見事な戦ぶりであった。」
森川が不自由な姿勢で低頭すると、新三郎は珍しそうにその甲冑の肩を叩いて、さて、といった。
「儂は、箱舘で十四郎を待つとしたい。案内せよ。」
森川は反射的にまた深く低頭した。新三郎は大刀と脇差を外した。
降参の儀式は終わる。新三郎の率いていた軍の大半は武装を解かれる。
しかし、蝦夷代官が消滅した今、この地の唯一の支配者である蠣崎家の論理が、動き出したともいえる。この島で最も高い位にあるのは蠣崎志摩守であろう。だが、蠣崎家の家督は新三郎慶広にあり、それは今のところ変わりがないのである。
新三郎は近習の兵すらつれ、敗将の護送とはいえぬ形で箱舘を目指し、馬上のひととなった。髷は切ってしまったが、軍装の全てを解いてはいない。たしかに、森川らに案内させている風にみえた。
深夜に箱舘政庁の門は開き、蠣崎新三郎は少数の部下とともに入城する形となった。次の朝、蠣崎志摩守はこれを迎えている。ただちに処罰が下されたわけでもなく、あらためての廃嫡などの沙汰もない。
あたかも、何事もなかったかのようであった。
新三郎は大舘部からの大量の射撃を喰らわぬために、密集した形での一気の突入を控えたが、すでに大門は開かれている。守備兵の姿はなく、大舘に逃げ込んでいるらしい。こうなれば、落城は遠くもない。
(十四郎からの軍使だと?)
「開城するというのか?」
わけがわからなかったが、軍使は松前から、といった。
一瞬で新三郎は悟った。飛虎旗がもうもうたる硝煙の中ではためいている。
(やられた。)
文を開く。
その文章は残っていないが、松前の陥落を伝え、降伏を勧告する内容であったに違いない。大舘は白兵戦による落城以前に開城したのも強調していたかもしれない。
「松前にやった使者はどうしているか?」
「馬を飛ばしても、まだ戻れますまい。」
「それを待つ。」
偽報、攪乱かもしれぬ、不確かな知らせで動くわけにはいかないのであった。
軍使を引見した。たしかに蠣崎侍だった男で、箱舘に奔った者だ。松前陥落が疑いない事実であるとまくしたてようとしたが、新三郎は、大儀であったといい捨て、返答を与えない。
戦闘を続けた。
松前陥落が事実として、後詰の兵が来るまでにこの茂別舘を落してしまえば、挟み撃ちにあう羽目にはならない。今日中に茂別を落すこと以外は、まだ余計な思案であろう。
(落してしまえば、あとは何も考えずに箱舘を攻めるだけだ。十四郎の本軍が追いつく前に箱舘を落としていれば、また話は変わるわ。)
長い戦いの始まりを思った。
松前で、萩原の率いる西からの兵をあわせした十四郎の軍は、東に向かう準備を整えている。
あやめの船は、ゆっくりと松前湊に入った。湊では戦闘がほぼ無かったから、普段と変わらぬ景色がまず目に入った。ただ、すでにきな臭い匂いは流れている。低く唸るような風音が、曇り出した空に響いている。
「戦の後の空でござるな。」
ご坊が呟いた。
「ここは済んだが……。」
あやめは、茂別で戦っているという新三郎に、胸の中で呼びかけている。
(お願いでございます、おやかたさま……!)
小舘を喪った茂別舘の反撃がはじまっている。一時は寄せ手を押し返しかけた。目に見えて戦意があがっているのは、この包囲の中、いかにしてか松前陥落を城内が知ったからに違いない。
(無理もない。寄せ手にも守り手にも、蠣崎侍がいるのだ。)
新三郎は幕僚以外には無論口止めしたつもりだが、そんなものは役に立たないのも知っていた。
十四郎がこの場にはいない、まんまと出し抜かれたらしいと知ったとき、新三郎は松前に兵を返そうかと考えた。本拠地奪回の企て以前に、本能的に敵主将との決戦を求めた。
(だが、この茂別舘の敵を捨て置けない。撤退戦は面白くない。兵を喪う。そのうちに、下手すれば西からやってくる十四郎の軍と挟み撃ちになる。)
(それでは戦えぬ。)
(一刻も早く、落す。)
松前から、自軍の使いは来ない。
(これは、たしかに松前はやられたな。)
新三郎の覚悟は固まっている。
茂別舘を日没までに落し、箱舘に向けて走りに走る。そのころには寡兵になっていようと、そうする。十四郎の本隊が松前にある以上、こちらは無人の野を行くように箱舘に至れるだろう。おそらくはこちらを大きく上回る数の軍が追いかけてくるが、そのときに箱舘政庁なるものを粉砕してしまっていれば、いったいやつらは何のために戦うというのか。
(もうまやかしの手にはのせられぬ。もし正面からの激突となっても、野戦なら戦機はないではない。)
そこに賭けねばならぬ。
「軍使、いや、使いです。」
幕僚が近寄ってきた。
「わが方か?」
「いえ。松前からと。」
「また十四郎か。」
文を読むまでもない。降伏などしてやる義理は何もない。
(足元を見られるぞ、十四郎。)
「納屋今井の店の者、と申しております。」
新三郎はぼんやりした顔になった。無言で手紙を受け取る。
文は、女の元結でくくってある。
(あやめ……?)
近づけてみると、あやめの髪の匂いがするようだった。この焦げ臭い戦場の風の中でも、髪油と女の肌の匂いが混ざっている気がした。
あやめの肌に触るときのように丁寧に開いて、読んだ。
(こんな字を書くのか。)
初めて見た女の筆は、想像していたほど流麗でも上手でもない。もっとも、どのような場所で、慌ただしく書いたのかはわからぬ。
(松前は陥ちた。弟君が入城された。蠣崎家の御惣領御決断のときと存ずる。……とだけか。)
(決断……。)
新三郎は、文をひどくゆっくりと、大事に畳んだ。
「兵を下げよ。」
「おやかたさま?」
「松前に返事を出す。」
新三郎は幕屋を出て、兜を外した。
戦闘行動がやみつつあるのをしばらく確認せねばならない。軍使が停戦を呼ばわりながら舘に入っていく。
「小介川殿のところへ。」
秋田からの兵の将のもとに向かった。この檜山屋形での僚将が、この場での主家安東家の名代であろう。
「若州殿?」
新三郎は小介川の前に片膝を折った。
「檜山屋形様にお伝えありたい。蠣崎若狭守は、謀叛の疑いある者をとらえよとの命を、全うできぬ仕儀とあいなった。」
「……松前が落ちたというは、まことでござったか。」
「左様。よって、拙者は蝦夷代官の任を辞する。まことに申し訳がたたぬが、務めを果たせぬのでは、とてもこれ以上は顕職をかたじけのうできぬ。」
「待たれよ、若州殿。」
蠣崎新三郎は制止の声も聞かず、小刀で自分の髻を切った。
「蝦夷代官を辞した以上、任務もない。これよりは、無用の戦となった。」
「待て、それで通るか? 通ると思うてか?」
「通るや否やは、檜山侍従様がお決めになるであろう。」
文句があるならば、ここまで攻めてくるがよい、という意味である。
(これだけの兵ならば、檜山屋形の遠征軍とも互角に戦えるのではないか。)
中世の安藤氏以来の長い安東家の支配が、蝦夷島でこの瞬間、終わった。
「新三郎、お前はそれでよいのか?」
若いころから知っている小介川は、生身の相手に生身の声を出す。
新三郎は、ほう、という顔になった。
(おれを咎めだてもせぬか。)
もっとも、小介川としても、ここでのわが身の安全のためも考えているはずだ。
(それは謀反も同然、許さぬ、とでもいいだせば、まずこの小介川三郎を斬らねばならぬかと思ったが、……)
それでも、新三郎は旧知の同輩の厚意と受けとることにしておいた。
「おぬしには手間をかけさせる。」
「あとは、どうするのだ?」
「おれは蠣崎の人間だ。蝦夷島におる。それだけよ。」
小介川は要領を得ない顔で頷いたが、やがて、ではおれたちは秋田に引き揚げるとしようか、といった。
「すまぬ。すぐ帰らせてやりたいが、もうおれには決められぬ。……しばらくは蝦夷島にいて貰うことになろう。」
「しばらくなら、構わぬが。我らの処遇は、たれが決める。」
「あいつの、……」と、新三郎は、騎馬姿の異様な甲冑の将が近づいてくるのを顎で指した。「主だろう。おれの愚弟だが。……さて、おれの陣に戻るとしよう。」
すでに銃声もやみ、喊声もない。両軍が静まり返って、戦を終えるための儀礼に注目しているようだった。
西洋甲冑の武士は、馬から降りるとひどく歩きにくそうだ。十四郎並みの上背を稼ぐために、甲冑の足に細工をしているのだろう。
この武士が、片膝を地面に着けたままの新三郎に向かい、同じく膝をついてみせた。新三郎は先に立った。どちらが勝者かがわからない、と一同は息を呑んだが、新三郎の声で合点がいった。
「森川か。久しい。よく無事でおったな。」
「おやかたさまにはご無沙汰を申し上げておりました。」
新三郎は床几を用意させる。二人が座って向かい合い、停戦の話あいをするかのような形になった。
「まことに、無沙汰が過ぎよう。なぜすぐに大舘に、十四郎一同の無事を伝えなかったか。」
「ご無礼をお許しください。我らみな、お召し放ちにあったものと心得ておりました。」
「当たっておる。こちらも、そのつもりであったわ。」
新三郎は笑った。
「だが、それが儂の生涯の失策よ。儂に見る目がなかった。十四郎などに、おぬしのような者をやってしもうた。おかげで、今日は大変な思いをしておるぞ。」
「畏れ多い。……この首がいま繋がっておりますのは、僥倖にございます。今日は、あわやというところでござった。」
「見事な戦ぶりであった。」
森川が不自由な姿勢で低頭すると、新三郎は珍しそうにその甲冑の肩を叩いて、さて、といった。
「儂は、箱舘で十四郎を待つとしたい。案内せよ。」
森川は反射的にまた深く低頭した。新三郎は大刀と脇差を外した。
降参の儀式は終わる。新三郎の率いていた軍の大半は武装を解かれる。
しかし、蝦夷代官が消滅した今、この地の唯一の支配者である蠣崎家の論理が、動き出したともいえる。この島で最も高い位にあるのは蠣崎志摩守であろう。だが、蠣崎家の家督は新三郎慶広にあり、それは今のところ変わりがないのである。
新三郎は近習の兵すらつれ、敗将の護送とはいえぬ形で箱舘を目指し、馬上のひととなった。髷は切ってしまったが、軍装の全てを解いてはいない。たしかに、森川らに案内させている風にみえた。
深夜に箱舘政庁の門は開き、蠣崎新三郎は少数の部下とともに入城する形となった。次の朝、蠣崎志摩守はこれを迎えている。ただちに処罰が下されたわけでもなく、あらためての廃嫡などの沙汰もない。
あたかも、何事もなかったかのようであった。
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