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二の段 蠣崎家のほうへ 怨霊(一)
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そんなある夜、亡霊を見た。
大舘に呼び出されたあやめには、「堺の方」としての勤めが待っていた。
いつものように、新三郎に容赦なく貪られた
目を閉じて、我慢していればいいというものではないのが、つらい。新三郎は所作をくわえながら、あやめの躰の反応をしきりに揶揄し、反抗的な答えを挑発して楽しむようなのだ。
「……こんなものは、ただの水でございます。」
あやめは冷たい声を出そうとする。抑えた怒りと不快感に、声がつい上ずる。新三郎はそれがわかるのか、笑う。
「なるほど、汗か溲のようなものだというか?」
「……左様で。」
「ならば、もっと汗をかかせてやろう。」
荒々しいばかりのようで女の躰に巧妙に働きかける閨の技に、あやめは抵抗できず、また無理な姿勢で運動を強いられるせいもあって、やがて息が弾み、喘ぎが漏れる。新三郎は内心でそれを喜んでいるくせに、
「あやめ、はしたない。声がうるさい。」などという。「武家の室ならば、もう少し慎め。控えめにせよ。」
(なにをいうか、この畜生が!)
そんなことをいいながら、新三郎の手は休みなく動き、あやめに悲鳴をあげさせようとするのだ。
あっ、と弾けるような声をあげさせられたあと、やや波がしずまったあやめは、つい新三郎を睨んでしまう。
(恥を知れ、この好色漢が。)
自然に涙の浮いた美しい形の目に強く見られ、新三郎の中に、かえって欝勃としたものがわいた。
「作法しらずめが、声を出すでないぞ。たしなみを知れ。」
一気に突き入れる。あやめは息を呑み、背中を持ち上げた。
「静かにせよ。我慢できぬのか。」
躰とともに心を弄ばれる口惜しさに、あやめはひそかに拳を握りしめる。刺激は絶え間なく、甘い快感などというものとは遠くても、激しく揺り動かされ、男の体温で熱せられれば、息が自然に上がりだす。それもはしたない、我慢せよといわれるのが、淫蕩呼ばわりされるようで、いかにも屈辱的であった。
(許さない、許さない、こやつ。)
無理して息を抑えるようにする方が、叫べだの啼けだのと命じられて従うより、躰もつらいのだとわかった。
唇を噛んでも漏れる声を無理に抑えようとするあまり、苦し紛れにあやめは、組み伏せる男の、筋骨の張った身体に思わずしがみついた。
「我慢できぬのか? 仕方のないやつ。」
新三郎は嬉しそうな声をだす。あやめの躰に加える刺激を一層強くした。
(あやめ、よくいうことをきいた。啼くがよい。声をきかせよ。)
「……!」
あやめは文字通り七転八倒しながら、内心で身に救いを空しく求めた。
(ああ、助けて、助けて、……十四郎さま! 十四郎さま!)
「あやめ……いま、お前?」
あやめは決して十四郎の名などを口走りはしなかった。
それなのに、新三郎はあやめの頭の中での叫びがわかったらしい。あやめは固く目を閉じて、奥歯を噛みしめよう噛みしめようとしながら男に揺らされているだけだが、表情の変化が読めたのだろう。激しい怒りがみるみるせりあがっていく。
「この愚か者が! あやつは、お前を捨て去ったのだ。」
「ああっ?」
あやめは思わず目を開いた。新三郎が深く、強く突く。その刺激のせいで息をつめながら、あやめは新三郎の言葉にはげしく動揺していた。
「お前は、古草履のように、捨てられたのだ。まだわからぬのか。」
あやめは、血を吐くような悲鳴をあげた。
(違う、違う! 捨てられていない! お約束を違えられたけれど、捨てられなどしていないっ!)
そういいたいけれど、それは言葉にはできない。ただ、堰が切れたように涙が噴き出した。泣きわめいた。
(あやめ。この愚か者、愚か者。)
新三郎は心中で叫んでいる。
「まだ、呼んでおるのか、あんな奴を。愚か者っ。」
新三郎は叫びがやまなくなったあやめの頬を張った。子どもにするように、柔らかい頬をつねった。それでも、あやめの泣き叫ぶ声はとぎれとぎれに、やまない。
(泣かない、泣いていない! なにも知らないのだ、この畜生は! 見当はずれをいいおるだけだ! 泣く必要がない!)
あやめの目から涙が夜具に落ち続けた。
新三郎は猛りに猛った。あやめは全身の水分を絞りつくされたかと思え、自分の躰が自分でないようになった。息が止まるかと思えたとき、男が呻きとともに存分に放つ体液を、躰の奥に受けた。
大舘に呼び出されたあやめには、「堺の方」としての勤めが待っていた。
いつものように、新三郎に容赦なく貪られた
目を閉じて、我慢していればいいというものではないのが、つらい。新三郎は所作をくわえながら、あやめの躰の反応をしきりに揶揄し、反抗的な答えを挑発して楽しむようなのだ。
「……こんなものは、ただの水でございます。」
あやめは冷たい声を出そうとする。抑えた怒りと不快感に、声がつい上ずる。新三郎はそれがわかるのか、笑う。
「なるほど、汗か溲のようなものだというか?」
「……左様で。」
「ならば、もっと汗をかかせてやろう。」
荒々しいばかりのようで女の躰に巧妙に働きかける閨の技に、あやめは抵抗できず、また無理な姿勢で運動を強いられるせいもあって、やがて息が弾み、喘ぎが漏れる。新三郎は内心でそれを喜んでいるくせに、
「あやめ、はしたない。声がうるさい。」などという。「武家の室ならば、もう少し慎め。控えめにせよ。」
(なにをいうか、この畜生が!)
そんなことをいいながら、新三郎の手は休みなく動き、あやめに悲鳴をあげさせようとするのだ。
あっ、と弾けるような声をあげさせられたあと、やや波がしずまったあやめは、つい新三郎を睨んでしまう。
(恥を知れ、この好色漢が。)
自然に涙の浮いた美しい形の目に強く見られ、新三郎の中に、かえって欝勃としたものがわいた。
「作法しらずめが、声を出すでないぞ。たしなみを知れ。」
一気に突き入れる。あやめは息を呑み、背中を持ち上げた。
「静かにせよ。我慢できぬのか。」
躰とともに心を弄ばれる口惜しさに、あやめはひそかに拳を握りしめる。刺激は絶え間なく、甘い快感などというものとは遠くても、激しく揺り動かされ、男の体温で熱せられれば、息が自然に上がりだす。それもはしたない、我慢せよといわれるのが、淫蕩呼ばわりされるようで、いかにも屈辱的であった。
(許さない、許さない、こやつ。)
無理して息を抑えるようにする方が、叫べだの啼けだのと命じられて従うより、躰もつらいのだとわかった。
唇を噛んでも漏れる声を無理に抑えようとするあまり、苦し紛れにあやめは、組み伏せる男の、筋骨の張った身体に思わずしがみついた。
「我慢できぬのか? 仕方のないやつ。」
新三郎は嬉しそうな声をだす。あやめの躰に加える刺激を一層強くした。
(あやめ、よくいうことをきいた。啼くがよい。声をきかせよ。)
「……!」
あやめは文字通り七転八倒しながら、内心で身に救いを空しく求めた。
(ああ、助けて、助けて、……十四郎さま! 十四郎さま!)
「あやめ……いま、お前?」
あやめは決して十四郎の名などを口走りはしなかった。
それなのに、新三郎はあやめの頭の中での叫びがわかったらしい。あやめは固く目を閉じて、奥歯を噛みしめよう噛みしめようとしながら男に揺らされているだけだが、表情の変化が読めたのだろう。激しい怒りがみるみるせりあがっていく。
「この愚か者が! あやつは、お前を捨て去ったのだ。」
「ああっ?」
あやめは思わず目を開いた。新三郎が深く、強く突く。その刺激のせいで息をつめながら、あやめは新三郎の言葉にはげしく動揺していた。
「お前は、古草履のように、捨てられたのだ。まだわからぬのか。」
あやめは、血を吐くような悲鳴をあげた。
(違う、違う! 捨てられていない! お約束を違えられたけれど、捨てられなどしていないっ!)
そういいたいけれど、それは言葉にはできない。ただ、堰が切れたように涙が噴き出した。泣きわめいた。
(あやめ。この愚か者、愚か者。)
新三郎は心中で叫んでいる。
「まだ、呼んでおるのか、あんな奴を。愚か者っ。」
新三郎は叫びがやまなくなったあやめの頬を張った。子どもにするように、柔らかい頬をつねった。それでも、あやめの泣き叫ぶ声はとぎれとぎれに、やまない。
(泣かない、泣いていない! なにも知らないのだ、この畜生は! 見当はずれをいいおるだけだ! 泣く必要がない!)
あやめの目から涙が夜具に落ち続けた。
新三郎は猛りに猛った。あやめは全身の水分を絞りつくされたかと思え、自分の躰が自分でないようになった。息が止まるかと思えたとき、男が呻きとともに存分に放つ体液を、躰の奥に受けた。
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