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一の段 あやめも知らぬ 庫裡のふたり(二)
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十四郎の身体の重さも、男の匂いも、何もかもがあやめを酔わせている。大きな背中にまわった手に力がこもり、思い切りしがみつくようになっている。
もう、これからどうされるのかも考えられなくなっていた。ただひたすらに男の舌を求めた。密着を強くしたかった。
十四郎の唇が離れた。夢中で動かしていたあやめの舌が突きだされて、迷う。十四郎はあやめの頤から首筋に唇を這わせた。白い喉にも唇を当てた。あやめの小さな顎が跳ねあがる。
(わあっ?)
あやめは狼狽した。十四郎の唇は、咽喉から下りていく。あらわにされた鎖骨のあたりに押しつけられ、躰の中央に移る。胸元で左右した。
衣が開かれ、肩が着物から抜かれ、胸がほぼあらわにされた。
他人の目に触れたことのない、胸の隆起が、十四郎の眼の下にあった。あやめは声に出てしまう。
「恥ずかしい。恥ずかしいっ。……御曹司さま、おやめになって!」
十四郎は黙っている。そのまま、唇を、外気に震えて立ちはじめた乳首に落とした。
「ああっ?……」
男はあやめの胸に貪りついている。手は片方の隆起をつかみ、やわやわと揉んだ。一方の胸はしきりに舐められた。
(揉まれるのは痛い……。でも、胸の真ん中が、熱い、重い。)
あやめは硬く目を閉じて、胸からつきあげてくる感覚に、声を漏らすまいと耐えた。
しかし、痛いほどに充血した乳首に指が触れると、息がつまる。息が戻ったときには、甘い声が出ているのがわかる。
(こんなに気持ちがいいなんて、知らなかった。)
(う……いけない、溢れてきている?)
口吸いされているときから感じていた下半身の変化は、胸を貪られるうちに、とめどないものになってしまっていた。
「……お願いでございます。もう、……おやめになってっ。うっ?」
あやめはのけぞった。十四郎の歯が乳首を甘く噛んだので、息がとまる。
十四郎の手は、あやめの着ているものをすべて剥ぎ取ろうとしているようだ。
「あ、あ、なぜ、脱がされるの?」
半身を起こされ、無意識に協力しながら、あやめは驚いていた。聞いていた男女の契りでも、女が真裸にされたりはしないのではなかったか。
「北国の風(ふう)は、こうじゃ。諒されよ。」
十四郎は作業にはやくも汗をかいているようだ。
「風と、申されましても。」
「見たい。」
「ああ……?」
自分の肌をみたいという。ならば仕方がない、と思うと同時に、誇らしいような喜びと不安が同時に押し寄せてくる。
ついに裸に剥かれた。腕で前を隠そうと、あやめはエビのように躰を丸く曲げる。やわらかな腰の線が薄暗い中に浮かんだ。
「御寮人殿。」
「はい……。」
答えたあやめの唇が、また塞がれた。温かい。
やわらかく、しずかにのしかかった男の肌の温もりに、あやめは溜息をもらした。あたうるかぎり強く抱き着いた。
裸の肌に、十四郎の麻の着物があたる。
「ああ、脱いで。あなた様も、お脱ぎになって……」
あやめはせがんだ。十四郎も固くしまった肉体をあらわにする。
素肌がぴったりと触れ合うと、それだけで、激しい感覚がつきあがった。深く落ち着く気持ちと、それとは裏腹な、切羽詰まって何かを求める気持ちが、あやめのなかで渦巻いた。
(このひとがいとおしい……!もっと近づきたい。)
(けれども、こわい……。きっと、痛い。おそろしい。)
(こうなってしまったら、あとはどうなる? どうする?)
(そんなところを? 厭、へんじゃ、くすぐったい。)
(助けて、助けて。)
(ああ、こんなに溢れている。大丈夫だろう。これなら、入ってきて下される……)
(ややこができたら、どうする?)
(よい。十四郎さまのお子ではないか。わたくしが一人ででも、育てられる。)
(いいや、決して、わたくしは、ひとりにはならない。させはしない!)
男の舌が胸からおりて、腹へ、腰にまで及んだ。あやめはまた反りあがる。
十四郎は無言である。指を女の叢に移した。
(恥ずかしいっ。)
あやめは死にたいほどの羞恥に耐えた。
躰のなかに、他人の指が入ってくる。生まれて初めての異様な感覚に、ただただ固く目をつぶる。
息が漏れた。やや深いところで、男の指が何かを探るように動き、浅く引いて、また深く入った。自分が裏返されるような気がした。咽喉がつまった。
(ああ? 厭、やめて、助けて、助けて。)
女の肉が開き、水分があとからあとから沁みだした。
(濡れている。こんなに濡れている。なんで……これほど?)
仰臥した女の両肩を抑え、十四郎は、長く伸びた女の腹の上に躰を移動させた。
「御曹司さま……。」
あやめは目を開き、恥じらって伏せたが、それでもねだっているのがわかったのだろう。ややつきだした唇に、男の唇が重なった。はげしく押しつける。
(胸、胸を、お願い……。)
男の手は下に伸びるが、あやめは硬く尖ってしまった乳首をなんとかしてほしい。口づけたまま。男の固い胸に押しつけようとする。
十四郎の手が気づいて、乳房にあてた手が乳首にも触れたとき、もどかしい快感に全身が震えた。
(これなら、平気?)
(されど、やはり、おそろしい。)
十四郎は姿勢を決めたらしい。あやめの腿が開かされた。
(この格好で……)
十四郎の見下ろす視線を、下半身に覚える。
(見られている? 恥ずかしい。恥ずかしい。)
(また溢れて……)
(熱い。躰中が火照る。)
(ああ、もうすぐ、入ってこられる。)
十四郎の肉の先が叢を撫でた。
(……あ、あ、とうとう!)
あやめの躰が硬直した。
十四郎が力を込めた。
(あ、痛い、いたいっ、いたいっ。)
あやめの躰は反射的にずり上がった。無意識に、突き立てられる肉の剣先から逃れようとする。十四郎の重い体躯が抑えているのに、背中を擦って逃れる。
十四郎は追う。あやめの躰は、緊張して固まりながら、上へずり上がって、逃げる。
あやめの眉の間に、深く皺が刻まれる。額にはいつの間にか、脂汗が浮いていた。歯が鳴る。躰の奥に侵入される未知の痛みと恐怖に耐えられない。
十四郎は困惑の表情だ。自分が組み敷いている女へのいとおしさに狂いそうなのに、どうしてもあやめの中に入りきることができない。固いところに突き当たろうとすると、逃げられてしまう。
あやめの強く閉じて脹れた瞼から涙が流れ出しているのを、十四郎は見た。痛みと怖れが、納屋の御寮人を子どものように泣かせているのだろう。
ずり上がった末、とうとうあやめの頭が倉の壁にまで届いてしまったとき、十四郎はあきらめた。先端だけ入り込んだ己の肉を離し、あやめを抱き起した。
「ごめんなさいませ、……お許しくださいませ。ごめんなさいませ。」
あやめはすがる目で、涙を光らせている。侘びの言葉を何度となく口にする。
「よいのだ。こちらこそ、相済まない。苦しうござったな? すまぬ。」
あやめは首を振る。申し訳ありませぬ、と繰り返す。裸の躰を隠すのも忘れて、泣いている。
十四郎は、ここはいつもの軽口だろう、と思ったのか、冗談をいった。
「よいのだ。よいのだ。だが、……どうも今晩は、拙者も、まともに眠れそうにござらぬなあ。」
あやめは釣りこまれて笑わない。裸の肩がびくりと震えた。
(そうだ、十四郎様はまだ、何も終わっていない。それなのに、こんなところで済まされてしまっては……)
すまなさに、あやめは身悶えする思いだ。
もう、これからどうされるのかも考えられなくなっていた。ただひたすらに男の舌を求めた。密着を強くしたかった。
十四郎の唇が離れた。夢中で動かしていたあやめの舌が突きだされて、迷う。十四郎はあやめの頤から首筋に唇を這わせた。白い喉にも唇を当てた。あやめの小さな顎が跳ねあがる。
(わあっ?)
あやめは狼狽した。十四郎の唇は、咽喉から下りていく。あらわにされた鎖骨のあたりに押しつけられ、躰の中央に移る。胸元で左右した。
衣が開かれ、肩が着物から抜かれ、胸がほぼあらわにされた。
他人の目に触れたことのない、胸の隆起が、十四郎の眼の下にあった。あやめは声に出てしまう。
「恥ずかしい。恥ずかしいっ。……御曹司さま、おやめになって!」
十四郎は黙っている。そのまま、唇を、外気に震えて立ちはじめた乳首に落とした。
「ああっ?……」
男はあやめの胸に貪りついている。手は片方の隆起をつかみ、やわやわと揉んだ。一方の胸はしきりに舐められた。
(揉まれるのは痛い……。でも、胸の真ん中が、熱い、重い。)
あやめは硬く目を閉じて、胸からつきあげてくる感覚に、声を漏らすまいと耐えた。
しかし、痛いほどに充血した乳首に指が触れると、息がつまる。息が戻ったときには、甘い声が出ているのがわかる。
(こんなに気持ちがいいなんて、知らなかった。)
(う……いけない、溢れてきている?)
口吸いされているときから感じていた下半身の変化は、胸を貪られるうちに、とめどないものになってしまっていた。
「……お願いでございます。もう、……おやめになってっ。うっ?」
あやめはのけぞった。十四郎の歯が乳首を甘く噛んだので、息がとまる。
十四郎の手は、あやめの着ているものをすべて剥ぎ取ろうとしているようだ。
「あ、あ、なぜ、脱がされるの?」
半身を起こされ、無意識に協力しながら、あやめは驚いていた。聞いていた男女の契りでも、女が真裸にされたりはしないのではなかったか。
「北国の風(ふう)は、こうじゃ。諒されよ。」
十四郎は作業にはやくも汗をかいているようだ。
「風と、申されましても。」
「見たい。」
「ああ……?」
自分の肌をみたいという。ならば仕方がない、と思うと同時に、誇らしいような喜びと不安が同時に押し寄せてくる。
ついに裸に剥かれた。腕で前を隠そうと、あやめはエビのように躰を丸く曲げる。やわらかな腰の線が薄暗い中に浮かんだ。
「御寮人殿。」
「はい……。」
答えたあやめの唇が、また塞がれた。温かい。
やわらかく、しずかにのしかかった男の肌の温もりに、あやめは溜息をもらした。あたうるかぎり強く抱き着いた。
裸の肌に、十四郎の麻の着物があたる。
「ああ、脱いで。あなた様も、お脱ぎになって……」
あやめはせがんだ。十四郎も固くしまった肉体をあらわにする。
素肌がぴったりと触れ合うと、それだけで、激しい感覚がつきあがった。深く落ち着く気持ちと、それとは裏腹な、切羽詰まって何かを求める気持ちが、あやめのなかで渦巻いた。
(このひとがいとおしい……!もっと近づきたい。)
(けれども、こわい……。きっと、痛い。おそろしい。)
(こうなってしまったら、あとはどうなる? どうする?)
(そんなところを? 厭、へんじゃ、くすぐったい。)
(助けて、助けて。)
(ああ、こんなに溢れている。大丈夫だろう。これなら、入ってきて下される……)
(ややこができたら、どうする?)
(よい。十四郎さまのお子ではないか。わたくしが一人ででも、育てられる。)
(いいや、決して、わたくしは、ひとりにはならない。させはしない!)
男の舌が胸からおりて、腹へ、腰にまで及んだ。あやめはまた反りあがる。
十四郎は無言である。指を女の叢に移した。
(恥ずかしいっ。)
あやめは死にたいほどの羞恥に耐えた。
躰のなかに、他人の指が入ってくる。生まれて初めての異様な感覚に、ただただ固く目をつぶる。
息が漏れた。やや深いところで、男の指が何かを探るように動き、浅く引いて、また深く入った。自分が裏返されるような気がした。咽喉がつまった。
(ああ? 厭、やめて、助けて、助けて。)
女の肉が開き、水分があとからあとから沁みだした。
(濡れている。こんなに濡れている。なんで……これほど?)
仰臥した女の両肩を抑え、十四郎は、長く伸びた女の腹の上に躰を移動させた。
「御曹司さま……。」
あやめは目を開き、恥じらって伏せたが、それでもねだっているのがわかったのだろう。ややつきだした唇に、男の唇が重なった。はげしく押しつける。
(胸、胸を、お願い……。)
男の手は下に伸びるが、あやめは硬く尖ってしまった乳首をなんとかしてほしい。口づけたまま。男の固い胸に押しつけようとする。
十四郎の手が気づいて、乳房にあてた手が乳首にも触れたとき、もどかしい快感に全身が震えた。
(これなら、平気?)
(されど、やはり、おそろしい。)
十四郎は姿勢を決めたらしい。あやめの腿が開かされた。
(この格好で……)
十四郎の見下ろす視線を、下半身に覚える。
(見られている? 恥ずかしい。恥ずかしい。)
(また溢れて……)
(熱い。躰中が火照る。)
(ああ、もうすぐ、入ってこられる。)
十四郎の肉の先が叢を撫でた。
(……あ、あ、とうとう!)
あやめの躰が硬直した。
十四郎が力を込めた。
(あ、痛い、いたいっ、いたいっ。)
あやめの躰は反射的にずり上がった。無意識に、突き立てられる肉の剣先から逃れようとする。十四郎の重い体躯が抑えているのに、背中を擦って逃れる。
十四郎は追う。あやめの躰は、緊張して固まりながら、上へずり上がって、逃げる。
あやめの眉の間に、深く皺が刻まれる。額にはいつの間にか、脂汗が浮いていた。歯が鳴る。躰の奥に侵入される未知の痛みと恐怖に耐えられない。
十四郎は困惑の表情だ。自分が組み敷いている女へのいとおしさに狂いそうなのに、どうしてもあやめの中に入りきることができない。固いところに突き当たろうとすると、逃げられてしまう。
あやめの強く閉じて脹れた瞼から涙が流れ出しているのを、十四郎は見た。痛みと怖れが、納屋の御寮人を子どものように泣かせているのだろう。
ずり上がった末、とうとうあやめの頭が倉の壁にまで届いてしまったとき、十四郎はあきらめた。先端だけ入り込んだ己の肉を離し、あやめを抱き起した。
「ごめんなさいませ、……お許しくださいませ。ごめんなさいませ。」
あやめはすがる目で、涙を光らせている。侘びの言葉を何度となく口にする。
「よいのだ。こちらこそ、相済まない。苦しうござったな? すまぬ。」
あやめは首を振る。申し訳ありませぬ、と繰り返す。裸の躰を隠すのも忘れて、泣いている。
十四郎は、ここはいつもの軽口だろう、と思ったのか、冗談をいった。
「よいのだ。よいのだ。だが、……どうも今晩は、拙者も、まともに眠れそうにござらぬなあ。」
あやめは釣りこまれて笑わない。裸の肩がびくりと震えた。
(そうだ、十四郎様はまだ、何も終わっていない。それなのに、こんなところで済まされてしまっては……)
すまなさに、あやめは身悶えする思いだ。
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