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2.父の愛妾

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「まあまあ皆さま、この度は主人の葬儀に来てくれてありがとうございます。こちらは私の息子です。今後ともよろしくお願いしますね」

「………………??」

 父の葬儀に参列してくれた関係諸侯や王宮の使者もさぞ困ったことでしょう。
 身分も序列も関係なく参列者を集めて同時に挨拶するというマナーも何もあった物ではない挨拶を知らない平民の女がしてきたのですから。
 それはもはや無礼だとかそういう次元の話ではないので、怒り出す人がいないのが唯一の救いです。
 参列者の皆さまには後で個別のフォローが必要ですね。
 まったく、仕事を増やさないでほしいです。
 さっきから喪主でもないくせに出しゃばっている平民の女は名をアリーシャと言い、父の愛妾です。
 彼女こそが父が死んでくれて助かった原因なのです。
 彼女は無位無官な上に無職の平民なので貴族である私や、屋敷で働く使用人たちですら本来は気を遣う必要など無い人物なのですが、困ったことに生前父は彼女を溺愛していました。
 父は彼女の我がままをすべて叶え、彼女のやることをすべて許しました。
 つまり彼女の言葉は父の言葉であり、彼女は屋敷内で絶対の地位を欲しいままにしていたのです。
 その息子のアレックスは父の血を継いでいるとあってはもはや逆らえる人はいません。
 同じく父の血を継いでいる貴族の私であっても、最後に父が出てくるとあれば何も物申すことはできませんでした。
 その結果アリーシャとアレックスは好き勝手やりたい放題です。
 もはやこの500年以上続くと言われているモーリス伯爵家の歴史も終わりかと思われた頃、父は心臓の病に倒れたのです。
 ようやく、と言いたくなるのは仕方ありません。
 権力の後ろ盾である父さえいなくなってくれれば、アリーシャはただの平民の女ですし、アレックスもただのスケベ野郎です。
 誰が力を持っているのかという貴族の感覚がわからない彼女たちは未だ自分たちがこの屋敷の権力の中枢であると勘違いしているようですね。
 アリーシャは自分がこの葬儀を主催しているかのように振舞っていますが、全く貴族の礼儀作法を勉強していないせいで場違いな平民の女としか認識されていません。
 さすがに平民であっても葬儀にド派手なドレスで出たらどう思われるのかぐらいはわかってもいいと思うのですがね。

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