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5.魔力値を上げる方法

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「レベルというものはありませんが、それに近い現象なのでしょうかね」

「やはり魔獣を倒すと魔力値が上がるのですか?」

「そうです。理論的にはまだ未解明の現象なのですが、魔獣を倒すことの多い騎士や冒険者の方の魔力値は少しずつ上がっていくそうです」

 ゲームのレベルは敵を倒して経験値を手に入れることで上がる。
 この世界はレベルではなく魔力値なので、手に入れるのは経験値ではなく魔力なのだろうか。
 いや、さきほどからのラズリーさんの説明からいえば魔力値は魔力を内包できる最大値であって内包している魔力そのものというわけではないような気がする。
 そうでなければ魔力値というのは使ったら無くなってしまうはずだ。
 だとしたら殺した魔獣から魔力を手に入れても魔力が回復するだけで最大値が上がることはない。
 ならば手に入るのはなんだというのか。

「魂、と言われていますね」

「魂、ですか」

「ええ。正確には魂の欠片ですかね。魔力値が増えるのは騎士や冒険者だけでなく、処刑執行人や狩人などの魔獣だけでなくすべての命を奪う職業の人たちなんです」

「すみません、そもそも動物と魔獣は違うものなのですか?」

「生物学上は同じ生き物ですね。ですが、魔力値が50以上の動物は人間にとって脅威となりますので区別しているのです」

 魔力値が高ければそれだけ身体能力が高くなる。
 ただでさえ危険な野生動物の魔力値が高ければ人間の脅威となるのは必然だ。
 魔力値は鑑定で見ることができるはずだから、野生動物を見かけたらまず鑑定をするように心がけよう。
 そして魔力値が50以上だったら、というか12よりも高かったら俺には脅威なんだけど。
 普通の野生動物でも見かけたら逃げたほうがいいだろう。

「魔獣と動物の違いはわかりました。つまりは、人や動物なんかの生き物の命を奪うと魂の欠片だかなんだかが手に入って魔力値が上がると」

「そうです。でも人は殺さないようにしてくださいね。異世界人の方であってもしかるべき裁きを下さなければいけなくなりますから」

「は、はい。気をつけます」

 今の言い方、ラズリーさんはもしかしたら高い地位にある人なのではないだろうか。
 そもそも王城にそんなに地位の低い人が入ってこられるとは思えない。
 偉い人だったらファミリーネームとかがあるのだろうが、名乗ってもらってない。
 鑑定を使ってみたいが、俺は鑑定をされて恥ずかしいと感じた。
 自分がされて嫌なことは人にするべきではないだろう。
 
「魔力は毎日のように魔獣を狩っている冒険者の方で大体1年に5くらい増えるようです。ですから、イズミ様もそれほど悲観する必要は無いと思います。身を守る上では確かに強さは重要かもしれませんが、お金があるのですから人を雇えばいいのですよ」

「そうですね」

 異世界に来て金で人を雇って守ってもらわなければならないとは、巻き込まれた一般人は悲しいな。
 神から与えられた力で無双とかしてみたかったな。
 おっさんが何言ってんだろうな。






 ラズリーさんの話は面白くて時間があっという間に過ぎてしまう。
 すでに時刻は夜だ。
 夕方まででラズリーさんの授業は終わり、それからは自由時間となる。
 海外の高級ホテルのような部屋で寝るまでのんびりだ。
 部屋は掃除が行き届いていてベッドはふかふかで居心地がいい。
 頭の薄い初老の人からはいつまでもいてくれて構わないと言われているが、正直それほど長居する気はない。
 最初は働かずに毎日好きなことができるなどと喜んでいたが、そんなにやることがないことに気がついた。
 分野によっては意外に科学技術の進んでいるこの世界だが、電子の分野ではそれほど進んでいない。
 パソコンもないしスマホもない。
 豆電球すらない。
 そんなものを発明しなくても魔法で灯りを灯すことのできるこの世界の人は、豆電球を発明しようとも思わないのだ。
 魔力というクリーンなエネルギーがあるおかげで電気も必要ない。
 電子機器はさすがに魔法技術で同じことをしようと思えば難しいかもしれないが、おそらくいずれは魔力を用いた同じようなものが発明されることだろう。
 だが今はパソコンやスマホにあたる魔法技術の産物は存在しない。
 とにかく娯楽が少ないのだ。
 俺が暇をつぶせそうなものが本くらいしかない。
 他に娯楽は何があるのかと聞けば、舞台演芸や大道芸、歌謡ショーなどなど。
 明治かな。
 文明開化の途上なのだと感じた。
 熟成された文明の中から召喚された俺達には少し大げさに感じるものばかりだ。
 結果今の俺には本を読むかトレーニングするしかやることはない。
 ラズリーさんからこの世界のことについて大まかに聞くことができたら、俺は王城を出て行くつもりだ。
 そのためにも、まずは自分の力を把握しなければならない。
 魔力値だけを見るならば俺は雑魚だ。
 この世界の人間の4分の1以下の魔力値しか持たない脆弱なもやしだ。
 だが、俺にもプライドがある。
 サバゲーだけは誰にも負けまいと毎日訓練を積んだ小さなプライドが。
 正規軍人とまではいかないまでも、予備役くらいの能力はあるはずなのだ。
 元自衛隊員のサバゲープレイヤーに大会で弾を当てたことだってある。
 せめて自分の身くらいは守れるだけの力を身につけてやろうと思った。
 その鍵となるのはやはり固有スキルである【お前の代わりはいくらでもいるインスタントアバター】だろう。

「インスタントアバター発動」

 俺は軽く腰を落として右腕を前に突き出した中二病丸出しのポーズでスキルを発動した。
 信じられるか?35歳なんだぜ俺。
 恥ずかしげもなく伸ばされた右腕からは何かしらのエネルギーが放出されるということもなく、何の前兆もなく突然俺の前にもうひとりの俺が現われた。
 今着ている服までコピーされて全く同じ服を着た俺だ。
 見慣れた自分の顔だ、別に何も思うことはない。

「お前、俺か?」

「………………」

 俺は何も答えない。
 自動で動くわけではないのだろうか。
 動かしてみようと思うと、不思議と自然に分身の身体を動かすことができた。

「あ、あー」

 声も出る。
 思考もできる。
 しかし意思は一つだ。
 なんとも経験したことのない不思議な感覚だな。
 痛みはどうだろうか。
 俺は自分の分身を軽く殴ってみる。

「いてっ」

 頬に軽い痛みが走り、分身は跡形もなく消えてしまった。

「このくらいで攻撃とみなされるのか。微妙だな」

 肉の盾に使えると思ったが、痛みもフィードバックされるし攻撃を1発受けたら消えてしまうのでは使い難い。
 俺はもう一度分身を呼び出す。
 別にスキル名を口に出したりしなくてもスキルは発動した。
 やはりなんの前兆もなく分身は現われる。
 痛みの感覚を切断すると念じる。
 俺は軽く分身に触れてみた。
 何も感じない。
 どうやら感覚の共有は切断できるようだが、痛みだけを切断するような器用なことはできないらしい。
 だが感覚を切断できるのなら色々と無茶もできる。
 使い道によっては恐ろしいスキルかもしれない。


 
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