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2.挙兵

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 ワシは領地に戻り、愛馬ブケファラスのもとを訪れる。
 相変わらずの様子でふてぶてしい鳴き声を返してくれる愛馬。
 元気そうでなによりじゃ。
 アレキサンダー大王に憧れておった幼い頃にその愛馬からとって名をつけた馬だ。
 父が買ってきた馬だがとんでもない暴れ馬で、ワシ以外には誰も乗ることができなんだ。
 アレキサンダー大王の愛馬ブケファラスも王子イスカンダル以外を乗せなかったことで有名な馬じゃ。
 ちょうどよいからこの名前にしたが、今となっては少し恥ずかしいかもしれぬな。
 この馬はもうワシと同じで老年に差し掛かっておる。
 空を駆けることのできる天馬のこやつはワシよりは長生きするだろうが、若い頃よりは速く走れないだろう。

「最後の戦になるやもしれぬな、ブケファラスよ」

「ぶるるっ」

 若い頃と変わらぬ雄々しき鳴き声で答えたブケファラスにワシは優しくブラシをかけてやった。
 これから王都まで早駆けじゃ、水も飼い葉も目いっぱい食らっておけ。





 傷だらけの板金鎧を身に着け派手な兜を被ればまるで時間が巻き戻ったような錯覚に陥る。
 しかしそれが錯覚でしかないことはよくわかっておる。
 なにせこれから弓ひくのはかつての盟主である王家だ。
 関係ない王都の民も巻き込むかもしれん。
 ワシは後世に大悪人として名を残すやもしれぬ。
 しかし此度のことを見過ごすわけにはいかぬ。
 そんなことをすれば王家とワシら貴族との間に大きな禍根を残すこととなり、いずれは此度よりも大きな戦へと発展するやもしれぬ。
 いや、本当はそんなことはどうでもいいんじゃ。
 ただワシの孫娘を酷い目に遭わせたあいつらをぶっ飛ばしたい。
 ただそれだけじゃ。
 これはすべてワシのエゴ。
 私情から引き起こした戦じゃ。
 なんの大義もない。

「しかし、集まるもんじゃのう。よほど今の王家は人望がないとみえる」

 王都の城壁の前にはワシの派兵を聞きつけて同じく兵を出した貴族が集まっておった。
 全てワシと仲の良い貴族じゃ。
 まあ乱世を共に戦った戦友ばかりじゃな。
 奴らには此度の王子とその取り巻きの仕打ちを手紙で伝えるように家宰に言づけてあった。
 ワシが兵をあげて王都を目指すことまでは言っておらなんだが、長い付き合いの奴らならそれだけでわかったのだろう。
 
「よく集まってくれたな主ら」

「はっ、閣下の心中お察しいたします」

「我らの姫であらせられるエリカ様に暴力を振るったうえに涙を流させたのです。それだけで王家は滅亡に値します」

「王都は堅牢じゃし、王家は強いぞ。落とせるかのう?」

「王都の守備兵など戦も知らぬ若造共です。なにも正面からぶつからずとも少しビビらせてやればすぐに開門しますよ」

 なるほどのう。
 その作戦はありじゃのう。

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