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60.思わぬ再会

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「え、管理官が呼んでるんですか?」

「ああ、なんかお前を連れて来いって」

 僕と管理官が話したのは鉱山に来た最初の日だけであとは用があればザイードさんを通して指示が出ていたのに、直接呼び出すなんて珍しい。
 僕は奴隷牢まで呼びに来たザイードさんの後ろに付いて、鉱山管理事務所に向かう。
 鉱山管理事務所は鉱山の外にあって、鉱山の中で事故があっても巻き込まれないようになっている。
 職員の人たちや管理官が暮らしている宿舎なんかも併設されていて、結構大きな建物だ。
 事務所に来るのは初めてだからついキョロキョロしてしまう。
 
「おい、こっちだぞ」

 もう少し色々見ていきたいのを堪えて、僕は小走りでザイードさんを追った。
 ザイードさんは事務所を抜けて、一番奥の部屋に向かう。
 全体的に小汚い鉱山管理事務所だけれど、その部屋の扉だけは綺麗に磨かれていて艶のある飴色の木目が光っていた。
 土にまみれた鉱山にあってはその部屋は異質といえるだろう。
 扉に打ち付けられた鏡面仕上げの金属プレートには綺麗な字で『貴賓室』と書かれていた。
 要するにVIPルームなわけだけど、今現在この鉱山内にあってVIP待遇される人物なんて管理官と共にやってきたという件のお貴族様しかいないわけで。
 僕は軽く身構え、深呼吸して緊張をほぐす。
 ザイードさんもやはり普段通りとはいかないようで、扉の前で深く息を吐くとぐっと背筋を伸ばしてコンコンと扉をノックした。

『入れ』

 ん?
 入室を促すその声は、どこかで聞いたことがあるような気もするけれどやっぱり聞いたことが無いような気もする声だった。

「し、失礼します」

 僕が悩んでいる間に、ザイードさんはギクシャクと慣れない様子で扉を開けてしまう。
 そして扉を開けたそこに居たのはリグリット様、ロクサス様、クリスティーナ様、ミランダ様のお貴族様冒険者4人組だった。
 なるほど。
 聞いたことのあるようなないような声だと思ったら、リグリット様が遅めの声変わりをされたらしい。
 背もぐっと伸びて僕なんかあっという間に追い抜かれてしまっている。
 ロクサス様なんて原型が分からないほどの細マッチョに変貌しているじゃないか。
 イケメン美女軍団め、爆ぜろ。
 
「久しぶりだな、クロード」

「は、はあ……」

 圧倒的イケメン感を前に、僕はどうしゃべったらいいのか分からなくなる。
 オーク戦後に自己紹介したときにはそれなりに打ち解け合えたように僕は感じたのだけれど、あのときは皆さんまだ子供の面影を残しておられたから僕もまだ話すことができた。
 しかし今はどうだろうか。
 たった1年かそこらで、美男美女へと変貌なされた。
 リグリット様にいたっては王者の風格すら漂わせている。
 14かそこらで貴賓室のソファーに腰掛けて、ノックした相手に『入れ』って言えるか?
 イケメンすぎる。
 それも会長のように親しみやすいイケメンではなくて、女の子からも遠巻きに見学されるレベルのイケメンだ。
 
「我が領の鉱山に『毛竜』なる特別奴隷が強制労働させられていると聞いて、まさかと思って来てみれば……。いったい何があった。僕とお前の仲だ、全て話せ」

 おお、それはありがたい。
 僕っぽい奴隷の存在に気がついてまさかお貴族様が来てくれるとは。
 でも毛竜についてはそっとしておいていただけると……。
 そんでもって僕とリグリット様はいったいどういう仲なんでしょうね。
 僕はリグリット様に言われたとおりに、犯罪奴隷となった経緯を話した。
 
「なるほど、スタークか。以前から色々と疑惑のあった商人だな。現在もファルマ商会会頭を中心に複数の人間が訴えを起こしていて、審議中だったはずだ」

 おお、ファルマ商会。
 会長の実家や。
 被害者の会みたいなのが本当に発足している。
 僕たちがここから出られる日も近いかもしれない。
 
「まあいい。そういうことならお前だけは僕の権限で即刻解放とする」

 ふぁっ!!
 そんなんええんかいな。
 気がつかなかったけれど貴賓室内には管理官もひっそりとたたずんでいて、あっという間に僕の首輪を外して釈放されてしまった。
 なんなんこれ、怖いんだけど。
 僕は戸惑いながらも言葉をさがし、リグリット様にまずは感謝を伝える。
 しかし僕だけ解放されるというのもなかなか座りが悪いもの。
 僕は会長の実家が起こしたという訴えについて聞いてみる。

「あの、ファルマ商会の訴えって勝算はどれほどあるのでしょうか」

「どうだろうな。かなりの人数が被害を訴えているから、多分信憑性の高い訴えということにはなると思うが」

 勝てる保証はないけれど、勝ち目は一応あるということかな。
 その訴えの結果を見て、会長を買うか決めるか。
 それまで待つにしても、このまま鉱山を離れるのは少し心配だな。
 いつも寝るとき4人で交代しながら見張っていたものが、3人になるわけだから寝られる時間が少なくなる。
 過酷な鉱山労働では睡眠不足がどんな事故に繋がるか分からない。
 会長とリリー姉さんは特別奴隷だからそこまできつい労働は無いけれど、ミゲル君は毎日毎日かなり過酷な肉体労働をしなければならないからね。
 僕はダメ元で管理官にしばらく今と同じ生活をさせてもらえないか申し出てみた。
 期間はリリー姉さんが解放される日まで。
 
「ああ、お前がいいなら俺は助かるよ。特別奴隷は代わりを見つけるのに時間がかかるからな」

 管理官は少しだけほっとした顔で快諾してくれた。
 僕も希望が聞き入れられてほっとする。
 このまま僕だけ解放されても、なかなかすっきりした気分で過ごせはしなかっただろうから。
 管理官は職員用の宿舎や食堂を使っていいし給料も払うと言ってくれたけれど、僕はすべて断った。
 多分僕を解放したことで僕を買うときにかかった費用が損になってしまっているだろうから、僕は働いて返そうと思ったのだ。
 リグリット様はそんなことは気にしなくてもいいと言ってくれたけれど、その損失を負うべきなのはスタークであって伯爵領の会計ではない。
 僕はいつかスタークにぎゃふんと言わせてやるつもりなので、これはスタークに対する貸しなのだ。
 いつか絶対に返してもらうぞ。


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