上 下
30 / 159

30.ブラックキューブ

しおりを挟む
まえがき
 以前召喚術スキルはレベル2にならないと送還することもできないという記述が出てきたと思いますが、良く考えたら召喚術スキルはエクストラスキルなのでレベルはありませんでした。修正します。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
                以後本編
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あれから10日ほど、僕は休むことなく狂ったようにオークを狩りまくった。
 全くオークが見つからない日もあれば、縄張りに入って5分で3匹見つけたこともあった。
 街まで2往復した日もあった。
 そんな努力の甲斐あって、僕は今日念願のスキルを購入する。

「おじさん、これお願いします」

「あいよ」

 スキル屋の店主に金貨を50枚渡す。
 ガラスケースの中から店主が出してくれたのは【ブラックキューブlv1】のスキル。
 これぞ異世界というスキルだ。
 レベルと同数の黒い箱を出し、物を収納しておけるスキル。
 迷宮の深部に潜るような高ランクの冒険者には必須のスキルだ。
 このスキルの鑑定証には、どんなに大きな物でも入るとあるが本当なのだろうか。

「おじさん、どんなものでもって家とかでも入るの?」

「このスキルを買った奴にはみんなに説明しているんだが、ブラックキューブには明確に入れられる物の基準がある」

「え?でもなんでもって書いてあるよ」

「まあ聞け。ブラックキューブに物を入れるのには3つの条件がある。一つ目の条件は生物を入れることはできないということ。生物は入れるとたちまち死ぬ。何でかは知らねえがな。そんで二つ目がひとつの箱に入るのは一つの物だけというもの。当然気になるのはどこまでが一つの物として認識されるかだ。たくさんの物を入れた箱や袋は一つの物なのか気になるよな。答えは袋はダメだが箱は入るだ。正確には箱の蓋を釘などでしっかりと開かないように固定すれば入る。どうやら外側を壊さないと中の物を取り出せない構造の物ならひとつの物として認識されるらしい」

「ふーん。じゃあ全ての入り口に板を打ち付けて開かないようにすれば、家も入るの?」

「話を最後まで聞けよ。条件の三つ目は箱には必ず自分で持ち上げて入れなければならないというものだ。持ち上げられないものは入れることができない。小さな小屋くらいなら浮遊スキルを使えば持ち上げられるかもしれないが、大きな家は無理ということだ」

 大きな家は無理か。
 異世界に行ったら大きな家を持ち歩くのが夢だったんだけどな。
 まあいい、僕には黒巻貝がある。
 あれも立派な家だ。
 僕はスキルオーブを大事に仕舞ってスキル屋を出る。
 しかしこのスキル、多くの物を入れようと思ったら蓋を釘で打ち付けられる木の箱か何かが必要になるってことか。
 市場に行って買っておこう。
 僕は絶対にスられないように首からかけた金貨袋の中にスキルオーブを入れて市場に向かった。
 はたして木箱っていうのはどこに売ってるものなのだろうか。
 とりあえず以前木材を買った店に向かってみる。

「こんにちは」

「はい、いらっしゃい」

「木箱ってありますか?釘で蓋できるやつ」

「ああ、あるよ」

 あるそうなので僕はその木箱を4つばかり購入する。
 ひとつ銅貨50枚、まあこんなものか。
 大きさは1辺1メートルくらい。
 けっこうでかい。
 僕は1列に並べて髪ロープで繋ぎ、浮遊スキルで浮かせて引っぱって歩く。
 電車ごっこみたいでちょっと恥ずかしい。
 僕は市場を抜け、宿に戻ろうとするが前方が騒がしいことに気付き立ち止まる。

「道を空けよ!!」

 前方から揃いの鎧を身につけた兵士がぞろぞろ歩いてくるのが見えたので僕も道を空ける。
 なにかあったのかな。
 兵士はぞろぞろと市場を通り抜け、見覚えのある路地に入っていく。
 僕は嫌な予感がしたけれど、巻き込まれないために近づくのはやめた。

「エルフの露店商!ご禁制の品を扱った罪で捕縛する!!神妙にせよ!!!」

「ちょっ、なによあんたたち!!あたしの商品に触るんじゃないわよ!!!」

 なにやら聞き覚えのある怒声が聞こえてくる。
 
「貴様暴れるな!!」

「うるっさいわね!!ぶっ飛ばすわよ!!!」

「ぐわっ、に、逃げたぞ!!追え!!」

 路地からはドカンドカンと何かが爆発するような音と兵士の悲鳴が断続的に聞こえてくる。
 宿に戻ることにしよう。
 



 その日の晩。
 コンコンと扉をノックする音に起こされた。
 僕は眠気を堪えて扉を開ける。

「や、やっほー……」

 そこにはエルフの露店商シルキーさんが立っていた。
 僕は扉をそっと閉じた。

「ちょ、ちょっとなんで閉めるのよ!!」

 シルキーさんが扉をバンバン叩くのでしょうがなくもう一度開く。

「今何時だと思ってるんですか?近所の迷惑考えてください」

「ご、ごめん。でも、今晩中にあんたに会っておきたかったのよ……」

 シルキーさんはめずらしく真面目な顔をして僕をじっと見つめる。
 
「昼間、兵士に追いかけられてましたよね。いったい今度はどんな商品を仕入れたんですか?」

「別になんてことのないスキルオーブよ……」

 シルキーさんはひとつのスキルオーブを取り出して僕に手渡す。

スキルの名称・・・・【召喚術(ガルーダ)】
スキルの詳細・・・・エクストラスキル。ガルーダを召喚することができる。

 僕は溜息を一つこぼす。
 ガルーダはまごうことなきSランクの魔物だ。
 大きな鷹のような魔物で、低位のドラゴンよりも厄介だとされている。

「シルキーさん、このまえの僕の話聞いてました?」

「なんでよ!ドラゴンじゃないわよ!?」

「いや、ドラゴンがダメなんじゃなくて、危険なスキルがダメなんです。ガルーダなんて召喚したら大変なことになりますよ」

「う、うう……」

「はあ、これも僕が買い取ります」

「あ、ありがとう」

 僕は金貨を1枚シルキーさんに渡す。
 僕の金銭感覚もおかしくなったものだ。

「それで、これからどうするんですか?」

「この国を出るわ。今日は別れのあいさつに来たの。一応あんたが一番のお得意様だからね」

 お得意様っていうか僕以外に客がいるのか?

「他の商品はどうなりました?」

「ああ、兵士が来たとき全部アイテムボックスの中に突っ込んだから無事よ」

 アイテムボックスだと!?
 僕が黒い箱を出せるちんけな収納スキルを手に入れるのにひいこら言ってたというのに、エルフは優雅にアイテムボックスですか。
 まあひがんでもしょうがない。
 それに僕はこのポンコツエルフのことがなぜだか嫌いになれなかった。

「僕が他の商品も全部買いますよ」

「え?いいの?」

「他国に逃げるにもお金がいるでしょ」

「ありがとう」

 シルキーさんはそう言ってアイテムボックスから商品を取り出して僕の部屋に並べ始めた。
 やっぱりガラクタばかりだな。
 僕はスキルオーブだけをポケットに入れ、それ以外を昼間買った木箱に詰めていく。
 最後に釘でしっかりと蓋を開かないようにして、ブラックキューブスキルを発動する。
 虚空から黒い箱が現れた。
 1辺が30センチほどの箱で、一見すると1辺1メートルの木箱なんか絶対に入らない大きさだ。
 さらに黒い箱はどの面にも開口部のようなものは無く、どこから入れていいのか分からない。
 僕は木箱を浮遊スキルで浮かせて持ち上げると、黒い箱に近づけてみた。
 木箱が黒い箱に少し触れたところで木箱が黒い箱に吸い込まれて消えた。
 スキルの力だとは分かっているけれども、なんとも不思議な現象だ。
 僕は4つの木箱すべてにシルキーさんの商品を詰め、ブラックキューブに収納した。
 ブラックキューブにも【スキル効果10倍】スキルは有効に働き、僕はスキルレベル1にして10個の黒箱を出すことができた。
 このスキルは本当にチートだよ。

「商品代金は、金貨10枚でいいですか?」

「え、そんなにくれるの?仕入れ原価金貨2枚もしなかった商品よ?」

「残りは貸しにしておいてください。いつか回収しに行くんでその時までお元気で」

「ありがとう。その時までにあんたの興味を引きそうなスキルオーブを仕入れておくわ」

 シルキーさんはそう言うと、すっと闇に消えた。
 僕の気配察知能力では、もうどちらの方向に行ったのかさえ分からない。
 本当に、なんで行商なんてやってるのかな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします! 感想待ってます! まずは一読だけでも!! ───────  なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。    しかし、そんなオレの平凡もここまで。  ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。  そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。  使えるものは全て使う。  こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。  そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。  そしていつの日か、彼は……。  カクヨムにも連載中  小説家になろうにも連載中

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...