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9.【重力魔法】の可能性

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 荷物を軽くするスキル。
 それも魔法だ。
 重さを司るなにかを操る魔法が使えるようになるスキルだと僕は思った。
 重さを司るもの、それはなにか。
 重力だ。
 つまりこのスキルは【重力魔法lv1】だ。
 古今東西重力使いは強いと決まっている。
 それこそチートレベルに。
 だから僕はこのスキルオーブを急いで手に入れたんだ。
 お貴族冒険者様に切り札となりえるものを売ってまで。
 僕はスキルオーブを握り、古代語で『解放』と唱える。
 それがスキルを取得するためのコマンドだ。
 スキルオーブは一瞬眩く光り、僕の中に吸い込まれる。
 これで、僕もチートスキルマスターだ。
 あ、やっぱりダサいんで今のなしで。
 とにかく使ってみないことにはスキルの良し悪しは分からない。
 僕は目の前のテーブルに向けてスキルを発動する。
 ん?特になにか起こらない。
 光らないし、重力っぽいぶーんという音もしないし、黒い力場が展開されるわけでもない。
 僕はテーブルを持ち上げてみる。
 うーんなんか、軽くなっている……のかな。
 スキルを解除し、再度テーブルを持ち上げてみる。
 微妙にさっきより重い……ような気もする。
 微妙だな。
 これが重力魔法だという証明にはなっていない気がする。
 今度は重くしてみようかな。
 僕はもう一度、今度は重くするイメージでスキルを発動してみる。
 うん?今度は発動しなかった気がする。
 発動してもしなくても何かエフェクトが出るわけではないので術者の感覚頼りなのだけれど、僕の感覚が正しければ今のは発動していない。
 もしかしたら重力魔法ではないのかも。
 荷重魔法とかそういう微妙なやつの可能性も。
 いやでも重力魔法の可能性を捨てきれない。
 だって重力魔法はチートだから。
 チートであってほしい。
 銀貨10枚コーナーはどれもこれも大器晩成で、スキルレベルが低いうちは大したことができないものが多いんだよな。
 これもそれであってほしい。
 僕はもやもやしながら眠りについた。
 淫夢を見た。





 宿の娘さんが僕のことを好きになって夜僕のベッドに潜り込んでくるんだもんな。
 参ったよ、夢だけど。
 朝娘さんの顔をまともに見れなかった。
 いやこれはいつものことなんだけど。 
 僕の泊まっている安宿は40歳くらいのふくよかなおばさんと20歳くらいの可愛らしい娘さんが2人で営んでいるんだけど、少し狭いけれど個室の部屋に安く泊まれるので僕は定宿にしているんだ。 
 食堂で僕がいつも黒パンと塩スープしか頼まないから裏で黒パンマンとか呼ばれてるんだろうな。
 そう思いつつも今日も黒パンと塩スープを頼む。
 お金がもったいないからね。
 もう少ししたら【味覚操作lv1】のスキルオーブを買うつもりだから。
 そうしたらこの塩スープも芳醇なコクと香りのコンソメスープに早代わりするし、パンは固さはどうにもならないけどこの苦すっぱい味だけはどうにかできるはず。
 レベル1だからあまり期待しすぎるのも良くないかもしれないけど。
 さて、今日は宿の娘さんに顔を気持ち悪いと言われたショックからゴブリン狩りはお休みする予定なんだけれども、何をして過ごそうか。
 そういえば僕は3年以上もこの街に住んでいながら、冒険者ギルドと宿屋とスキル屋以外あまりこの街を知らないな。
 今更だけど街を散策しようかな。
 僕は塩スープを飲み干して宿を出た。




 ただいま街を散策しております。
 ええ、そうです、ひとりです。
 ひとりで街を散策しております。
 これぞお一人様の楽しみ方だね。
 泣いてない。
 とりあえず侘しい心を慰めるために人の多いところに向かいます。
 人が多いっていったら、やっぱり市場かな。
 この街は領主である伯爵様の考えで露店を出す手順が簡略化されていて、更にあえて商人に対する税金を安くしてるんだって。
 そうしたら商人がいっぱい来て、街が栄えた。
 織田信長の楽市楽座みたいな政策なんだと思う。
 というわけで、この街の市場は大変にぎわっている。
 定期的に兵士の人が見回りをしているので治安もそれほど悪くない。
 がめつい商人にぼったくられないようにすることだけ気をつけておけばいい。
 あと一応スリにも気をつけておこう。
 スリは治安の良かった日本でも存在していたくらいだ。
 かくいう僕も田舎から出てきてすぐの頃は何度か財布をスラれて野宿するはめになった。
 兵士に言っても財布はしっかり持っとけって言われて終わり。
 銅貨数枚しか入ってなかった財布だったのでスリの方もしけた財布だと思ったかも知れないけれど、僕にとっては一晩宿に泊まってご飯を食べて銅貨1枚貯金できる額だったんだよ。
 幸いなことに銅貨を貯めていた袋は大事に仕舞っていたおかげでスラれたことは無い。
 アレがスラれていたら僕は発狂していたところだ。
 僕は一応のためお金を分けていくつかの袋に入れ、分散しておく。
 前世で修学旅行に行くときに親に言われていた方法だ。
 財布を分けることによってリスクを分散することができる。
 その度に僕は都会の人はこんな面倒くさいことを毎日やっているのかと感心したものだ。
 だけどあれは別に都会人がみんなやっているというわけではなかった。
 田舎から出てきたようなおのぼりさんがスリやひったくりに狙われやすいから気をつけておきなさいというお母さんの親心だったんだ。
 まあ修学旅行の話はどうでもいい。
 どうしてもひとりだとどうでもいいことばかり考えてしまう。
 どこか露店でも冷やかして露店商との会話でも楽しもうか。
 僕は女の人がやっている露店を探す。
 あたりまえでしょ。
 誰が好き好んでむさ苦しいメンズとの会話なんて楽しむんだ。
 露店商なんておっさんばかりだし。
 おっさんは苦手だ。
 答えづらい下ネタばかりぶち込んでくるから。
 かといって女の人の下ネタも苦手なんだけど。
 結局なんて答えていいのか分からないから。
 できれば下ネタとか言わなそうな清純そうなお嬢さんがやってる露店がいいかな。
 僕はおのぼりさん丸出しでキョロキョロと露店商を見渡す。
 やっぱり女の人のやってる露店自体があまり多くないかな。
 国民的美少女コンテストに出場するような女の人のやってる露店なんていうのは夢幻だろうか。
 気付けば僕は市場を通り過ぎ、怪しげな裏路地に入り込んでしまっていた。
 なんか妖しい雰囲気の路地だ。
 怖いので戻ろう。
 僕が踵を返そうとしたその時、僕の背中に声をかけた人がいた。
 
「そこのあなた。待ってください」

 女の人の声だ。
 僕は女の人に話しかけられるのが苦手である。
 僕は聞こえなかったふりをして歩き去ろうとする。

「ちょっ、絶対聞こえてるでしょ!待ちなさいよ!!」

 僕は積極的な女性が苦手である。
 僕は聞こえなかったふりをして歩き去ろうとする。

「待てぇ!!」

 僕の足元に火の玉が炸裂する。
 魔法だ。

「ひっ……」

 僕は暴力的な女性は……。

「待てって言ってるでしょう!」

 肩を掴まれた。
 怖い。
 僕は綺麗な女性が苦手である。
 その女の人は、絶世の美女といっても過言ではない容姿をしていた。


 
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