上 下
105 / 131

105.侍パーティ

しおりを挟む
 グツグツと煮える芋煮。
 その隣にはイノシシの内臓を八丁味噌ベースのたれで煮た未来の愛知県の名物料理、どて煮が煮込まれている。
 いい匂いがしてこの場でもできそうな料理のレシピを他にも色々と提供したおかげで、もはや芋煮会というよりもB級グルメイベントのような様相になってきた。
 すべて信長が作らせた料理だ。
 城の中の人たちを匂いで誘い出すだけならば芋煮の匂いだけでも十分だと思うのだが、信長は他にも珍しい料理があるのならばここで作れるだけすべて作れと命じた。
 作った料理は当然信長の元に持っていくわけだが、強烈に食欲をそそられる匂いに兵士たちが我慢できるはずもない。
 信長は兵士たちにも同じ料理を作って食べることを許可した。
 それからあちこちで大鍋で色々煮込まれ、串に刺さった色々な肉がタレを焦がしながら焼かれた。
 珍しいものでは五平餅なんていうものもある。
 未来では朝ドラで一躍有名になった料理だが、あれも中部地方から長野県南部のあたりの料理だ。
 確か発祥は江戸時代あたりだったはずだからこれも少し早まってしまったな。
 胡麻ベースのタレの焦げる匂いが食欲をそそる。
 これほどの食べ物の匂いに包まれながら味のしない干し飯を齧り、塩辛い梅干を口に頬張る気持ちというのはどれほどのものなのだろうか。
 俺だったら1日と正気を保っていられないだろう。
 俺と違って強靭な精神力を持つこの時代の人だが、未来の料理の匂いには勝てなかったようで坊主の首を槍の先に掲げた農民たちが城門を開いたのはそれから2日後のことだった。






 今回の戦にて、直接の戦功はあまりなかったものの勘九郎君をよく補佐したという理由から殿はまた少しだけ出世した。
 また領地はもらえなかったけれど今回は仕方が無いだろう。
 動員した兵力に対して奪い取った土地が少なすぎる。
 指揮官クラスの侍から順に褒美を与えていったら殿には一欠けらの領地も残ってないだろう。
 お給料が増えたことに満足しておこう。
 箱屋山内の利益もあって、今殿は生涯で経験したことのないレベルの金持ちだ。
 こういう時こそ詐欺などには気をつけなければならない。
 前みたいなことにならないようにね。

「えぇ、殿が試練の塔に挑戦するんですか?」

 詐欺はなかったが、殿が突然変なことを言い出した。
 織田軍の有志で、試練の塔の2階層以上の調査を行なうというのだ。
 まあいつかは1階層より上の調査は行なうとは思っていたが、まさか俺達にも関わりのあることだとは。

「ワシとお前、慶次郎、あと善住坊殿にも声をかけてほしい」

 善住坊さんは殿の家臣である俺の弟子ではあるが、殿の直接の家臣ではない。
 だから命令はできないのだが、善住坊さんは強いからね。
 一緒に来てくれたら心強いってことだろう。

「何組かに分かれて探索するようだが、ワシらと同じ組には他に森勝三殿と柴田権六殿が同行する予定だ」

 勝三君はともかく鬼柴田が一緒か。
 あの人怖いんだよね。
 まあ強さは折り紙つきだ。
 問題はチームプレイができるかどうかだ。
 1、2階層程度ならば個人の武勇で勝てない敵はいない。
 だが3階層からはそうはいかない。
 3階層からはゴブリンが武装し、集団行動を取る。
 こちらも集団行動ができなければ、最悪死ぬこともありえる。
 その代わりといってはなんだが、3階層からは金目の物が出る。
 2階層までは箱の中身はすべて食べ物だ。
 3階層に進み食えるわけでもない金目の物を手に入れるためには、命を賭けてもらわなければならない。
 もちろん1、2階層でも人によっては命がけだが、よほどのことがない限りは死ぬようなことは無いはずだ。
 だが3階層からはそうはいかない。
 俺はダンジョンに誘い込んで人を殺したいわけではないのだが、リスクも無く金目の物を渡すと今以上に世が乱れる可能性がある。
 だから残念だが、欲に目がくらんで身の丈に合わない階層に挑んだ人には一定数死んでもらわなければならないのだ。
 侍に3階層を見せて大丈夫なのか心配になった。





「いつぞやは世話になったなっ!!」

 お礼を言うだけなのに大声で言わないとダメなのかね。
 耳がキンキンするほどの大音量で俺に話しかけるのは柴田権六こと柴田勝家だ。
 大柄な身体に鋼のように鍛えられた筋肉を纏う初老の男。
 身体もでかけりゃ声もでかい。
 槍を持たせれば右に出る者なし。
 怪力無双の鬼柴田。
 嘘かホントか色々な逸話のある人物だ。
 その怪力はある程度本当のようで、肩に担ぐのは単管パイプのような太さの鉄槍。
 あれをダンジョンの中で振り回すつもりなのだろう。
 1、2階層ではオーバーキルが過ぎる。

「今日はよろしくお願いします」

「では参ろうぞ!」

 勝家以外は全員親しい友人知人家臣主君の関係であるこのパーティー。
 だが仕切るのはやはりこの中で一番位の高い勝家だ。
 個人の武勇だけではなく兵の指揮も上手だという定評のある勝家だが、果たしてダンジョン探索にそれが活かせるだろうか。
 勝家の得意な戦法は確か先陣切っての突進だったかな。
 大丈夫なんだろうか。

「むむ、この化け物めがっ!どぉぉりゃぁぁぁっ!!」

 最初のゴブリンとの戦闘、勝家の鉄槍の一振りでひき肉となるゴブリン。
 すごい力だけど、やっぱり個人プレーが基本だな。
 俺達何もやることないし。
 箱に入った米を回収して先に進む。
 3階層はまだまだ遠いな。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

異聞・鎮西八郎為朝伝 ― 日本史上最強の武将・源為朝は、なんと九尾の狐・玉藻前の息子であった!

Evelyn
歴史・時代
 源氏の嫡流・源為義と美貌の白拍子の間に生まれた八郎為朝は、史記や三国志に描かれた項羽、呂布や関羽をも凌ぐ無敵の武将! その生い立ちと生涯は?  鳥羽院の寵姫となった母に捨てられ、父に疎まれながらも、誠実無比の傅役・重季、若き日の法然上人や崇徳院、更には信頼できる仲間らとの出会いを通じて逞しく成長。  京の都での大暴れの末に源家を勘当されるが、そんな逆境はふふんと笑い飛ばし、放逐された地・九州を平らげ、威勢を轟かす。  やがて保元の乱が勃発。古今無類の武勇を示すも、不運な敗戦を経て尚のこと心機一転。  英雄神さながらに自らを奮い立て、この世を乱す元凶である母・玉藻、実はあまたの国々を滅ぼした伝説の大妖・九尾の狐との最後の対決に挑む。  平安最末期、激動の時代を舞台に、清盛、義朝をはじめ、天皇、上皇、著名な公卿や武士、高僧など歴史上の重要人物も多数登場。  海賊衆や陰陽師も入り乱れ、絢爛豪華な冒険に満ちた半生記です。  もちろん鬼若(誰でしょう?)、時葉(これも誰? 実は史上の有名人!)、白縫姫など、豪傑、美女も続々現れますよ。  お楽しみに 😄

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

婚約者は男で姫でした~とりかえあやかし奇譚~

あさの
ファンタジー
――――時は平安。 侍従の君は大内裏で今をときめく貴公子としての名をほしいままにしていた。 帝からの覚えもよく、若いながらに侍従の位を得、順風満帆の貴公子には、ひとつの秘密があった。 侍従の君の名は、範子(のりこ)。 彼女は男装の貴公子であった。 ある時、宿直の任に就いていた範子は、闇に紛れる不審な影を目撃する。 追い詰め、掴んだ袿を剥いだ先で、 「敦宣…!?」 「範子さま…」 思いもしない人物と出会うこととなる。 名を敦宣(あつのり)。 彼もまた、右大臣の末姫として暮らす女装の姫君であった。 ※エブリスタにも同じものを投稿しています。

ごめんね、でも好きなんだ

オムライス
BL
邪魔をしてごめん。でも、それでも、蓮が好きなんだ。 嫌われてもいい、好きになって欲しいなんて言わない、ただ隣に居させて。 自分の気持ちを隠すため、大好きで仕方がない蓮に、嫌な態度をとってしまう不器用な悠。蓮に嫌われてもそれでも好きで居続ける、切ない物語 めちゃめちゃ素人です。これが初めて書いた小説なので拙い文章ではございますが、暖かい目でご覧ください!!

【完結】婚約破棄?ってなんですの?

紫宛
恋愛
「相も変わらず、華やかさがないな」 と言われ、婚約破棄を宣言されました。 ですが……? 貴方様は、どちら様ですの? 私は、辺境伯様の元に嫁ぎますの。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

処理中です...