上 下
62 / 131

62.前総督の孫

しおりを挟む
 海岸に作った牢屋エリアへの入り口に、手足を縄で数珠繋ぎにした侵略者たちを運び込んでいくオーガたち。
 オーガたちはやはり少しやりすぎてしまい、数人が亡くなってしまった。
 死なば皆仏だ、前回の南蛮船を沈めたときに建てた首塚に一緒に供養した。
 これから人も増えていくと思うし、そろそろ本格的な墓地が必要だろうか。
 島民たちはこの時代らしく仏教や神を熱心に信仰しているから、お坊さんや神官なども呼びたい。
 しかし生臭くない宗教家っていうのはなかなか見つからないものだ。
 島民の誰かが寿命や事故、病気などで亡くなる前に見つけておかなければならないので頑張ってはみるけどね。
 俺は怪我を負っている人の治療を終えると、避難所に向かった。

「大将、終わりやしたか?」

「まあ大体は」

 兵力の4分の1程度は捕縛が完了、その他は現在ゴーストたちが食事を兼ねた無力化作業中だ。
 すでに島に上陸しようとしていた部隊はすべて無力化し終えたようで、ゴーストたちには敵船に向かってもらっている。
 もう二度と俺達には関わろうとは思わないように徹底的に怖がらせなければな。
 あまりしつこいようなら一度本国にお邪魔するのも必要かもしれない。
 たとえそれでスペインがアジアに来なくなってもどうせどっかの国が来るんだろうけど。
 結局、1国1国地道に追い返していくしかないということかな。
 たぶん今年領地をもらうであろう殿の領地運営にも現代人らしく少しくらいは口を出したいし、やることはいっぱいだな。

「そういえば俺、伝兵衛さんに用があって来たんだった」

「ワシにか?」

「そう。島に攻めてきた帝国人の中で2番目に偉い人が誰かっていうのと、その人の人となりなどを教えてほしい」

「それなら前の総督の孫だな。昨年死んだ前の総督はワシのような異邦人にも公平に接してくれるお方だった。今の総督とは大違いじゃな」

 伝兵衛さんの話によれば、前の総督の孫という人物はお祖父さんに似てそこそこの人格者であるらしい。
 人格者といって征服者であることには変わりないのだが、その中でもむちゃくちゃやる奴とそうでない奴がいるのだという。
 孫はそこそこ話の分かる人であるらしい。

「なるほど。わかった。ありがとう」

「いやいや、このくらいではまだまだ受けた恩が返しきれん。何かあればなんでも言ってくれ」

「帝国人をたくさん捕虜にしたから、まだまだやってもらわなければならないことはたくさんあるよ。最初の仕事として、これから捕虜のもとへ向かうので通訳お願いしてもいい?」

「わかった」

 俺は伝兵衛さんを引き連れて海岸の牢屋エリアに向かった。





「この人が前の総督の孫?」

「そうじゃ」

 その人物は俺と同年代くらいの青年だった。
 髪は黒いが日本人のような真っ黒というわけではなく、光が当たると茶色く見えるような黒。
 顔の彫りは深く、瞳は透き通った青。
 パイ〇ーツオブカ〇ビアンに出てきそうなイケメン船乗りだ。
 
「伝兵衛さん、今から俺の言うことを約して伝えてもらえるかな」

「わかった」

「まず、あなたをこれから解放します。船を1隻返しますからそれに乗ってフィリピンに帰ってください。もちろん一人じゃあ船を動かせないでしょうからあなたの指名する人物も一緒に解放しましょう。あ、総督だけはダメですけど。それで、フィリピンに帰ったら次に赴任してくる総督にこの島のことを包み隠さず報告してください。この島を攻めた結果どうなったのかも含めてね」

 伝兵衛さんは流暢なスペイン語で総督の孫だという青年に俺の言葉を伝えていく。
 青年はここから解放されると分かると静かに涙を流した。
 良心が痛むからやめて欲しいな。
 侵略してきたのはそっちなのに、これでは俺が悪者みたいじゃないか。
 まあ善良な人はこんなところに閉じ込めていたらそのうち俺の良心を苛んでいただろうからさっさと出て行ってくれていいさ。
 俺の良心の毒となる善人を全員引き連れていってくれると嬉しいな。
 人間牧場に閉じ込めるのはできるならば傲慢で自己中心的な現総督のような人間ばかりがいい。

「#$%&$%……」

「かたじけないと申しておる。この島のことは必ず帝国本国にもメキシコの副王にも伝えると」

「できればこの島に興味を持たないような伝え方にしてくれるとうれしい、と伝えて」

「了解した」

 伝兵衛さんが伝える俺の言葉に千切れんばかりに首を縦に振る青年。
 よほどオーガやゴーストが恐ろしかったのだろう。
 俺は牢の鍵を開け、青年を出す。
 他の人も出ようとしたので青年が指定する人だけ一緒に出し、それ以外は戻ってもらった。
 不満そうに鉄格子を掴む人を伝兵衛さんが牢屋の中に蹴り入れる。
 よほどこの人たちに酷い目に合わされたのだろう。
 理性的に通訳する伝兵衛さんからは信じられないほど声を荒らげてスペイン人たちに蹴りを入れる。
 気持ちは分かるけど捕虜を虐待するのは俺の方針とはちょっと違うので、あまり伝兵衛さんを牢屋エリアに近づけないほうがいいかもしれない。
 牢は窮屈にならないように数十人ずつの房に分かれているので、何箇所もの牢を回って青年の指名する人物を解放して回っていく。
 解放された人たちは青年がきっちり言い含めているようで、逃げようとする素振りは無い。
 ゴーストが無力化したスペイン人たちがオーガによってどんどん運ばれてきている状況で、逃げようとするのも無謀かもしれないけどね。
 
「ところで山田殿」

「なにかな伝兵衛さん」

「あ、あの地獄の鬼のようなものや、悪霊のようなものは、お主が?」

「ちゃんと使役しているから危険は無いよ」

「そ、そうか……」

 黒いモヤのような姿のゴーストが纏わりつき、ぐったりとしたスペイン人が牢内で呻き声を上げる。
 前方からは気絶したスペイン人を数人束にして担いでくるオーガ。
 オーガは俺とすれ違い様にペコリと会釈していった。
 相変わらず真面目な奴らだ。
 伝兵衛さんはそのペコリという動きにもビクリと反応している。
 俺だけは知ってるから、君らが真面目で仕事熱心な良い奴だってこと。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

身体強化って、何気にチートじゃないですか!?

ルーグイウル
ファンタジー
 病弱で寝たきりの少年「立原隆人」はある日他界する。そんな彼の意志に残ったのは『もっと強い体が欲しい』。       そんな彼の意志と強靭な魂は世界の壁を越え異世界へとたどり着く。でも目覚めたのは真っ暗なダンジョンの奥地で…?  これは異世界で新たな肉体を得た立原隆人-リュートがパワーレベリングして得たぶっ飛んだレベルとチートっぽいスキルをひっさげアヴァロンを王道ルートまっしぐら、テンプレート通りに謳歌する物語。  初投稿作品です。つたない文章だと思いますが温かい目で見ていただけたらと思います。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

処理中です...