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6.置き去り
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最近では拠点の近くの森は枯れ枝などを拾い尽くしてしまって少し離れなければ薪となる乾いた木を拾うことができなくなっている。
【剛力】のスキルを持つゴリマッチョ里中さんならば倒木などを一人で担ぎ上げて拠点まで運ぶことができるのだろうが、俺の力ではそんなことは不可能だ。
あとは最初の頃に女性陣がトイレとして利用していた方角の森は未だに男は立ち入り禁止となっているので薪を探すことはできない。
拠点内にトイレができてから2週間くらいは経っているのでもう何もかも土に返っていると思うのだが、ただでさえ立場の弱い俺が女性陣のあれこれに口を出すのは鬼門だ。
大人しく小枝のたくさん落ちているところまで歩いて拾うことにする。
俺が両手に抱えて持つことのできる枝の量などたかが知れているので土壁の前と森を何度も往復して薪を集めていった。
2時間ほどそうしていただろうか。
そろそろ日暮れだ。
さすがに夜の森は危険なのでこのくらいにしておこう。
肝心の薪も土壁の横にうず高く積みあがっている。
これだけあればどんな豪快な使い方をしても大丈夫だろう。
いい仕事をしたなと額の汗を拭った俺だったが、ふいに違和感に気が付く。
「なんでこの時間なのにこんなに静かなんだ?」
いつもだったらこの時間、ハーレムパーティが帰ってきて騒いでいるはずだ。
それなのに今日は誰の声もしない。
いや、今に始まったことではない。
いつから、誰の声もしなかった?
普段とは違って今日は土壁がある。
だから中の様子も見えないし声も聞こえなくて当然と無意識に思っていたが、2メートル程度の高さで拠点を囲んでいるだけの土壁に遮音性なんてあるわけがないのだ。
俺は何か嫌な予感を感じながらも、土壁に申し訳程度に立てかけられている木の門を開けて中の様子を窺う。
この世界に転移してから今日まで、感じたことのないくらいの静寂だ。
可能性は二つ。
ひとつは物音一つ立てることなく人を捕食できるような危険な魔物が拠点内に侵入し、全員が殺されるか囚われたという可能性。
そしてもう一つは、誠に遺憾なことに俺だけをこの拠点に取り残して他のメンバーが町なりなんなりを目指して移動を開始したという可能性だ。
まあ答えはもう分かっているようなものだがな。
ニヤニヤと気持ち悪い笑いを浮かべていたチャラ男大学生2人組、妙に説教が短かったお局OL。
思い出してみれば陰キャ高校生が昨日異世界の町についての話をしていたり、女性陣がこの世界の化粧品について話していたりもした。
もうずいぶん前から、町を目指して移動するということは決まっていたのかもしれない。
知らされていなかったのは、俺だけだった。
「はは、きついなぁ……」
陰キャ高校生3人組が持っていたラノベのように、ダンジョンの落とし穴に突き落とされたわけでもない。
無理やり捕まって奴隷として売られたわけでもない。
罠に嵌められて、窮地に陥ったわけでもない。
ただ、置いて行かれただけ。
それも生産職が作ってくれた立派な拠点も丸々残っている。
だが、やはり仲間外れにされるのは辛いし、一人薄暗い森の中に置いていかれたのは不安だった。
「いや、まだ完全に置いていかれたと決まったわけじゃない」
俺は一縷の望みにかけて拠点内を見て回ることにした。
最初は一番気やすい関係だった気がする陰キャ高校生3人組が暮らしていた竪穴式住居だ。
「織田さん?」
俺は一応声をかけてから織田君の住居にお邪魔する。
中は当然のようにもぬけの殻。
やはり、いないか。
次は木下君の住居。
そこも荷物が綺麗に片付けられていた。
松平君の家も当然綺麗だった。
松平君は他の2人と違って生産職なので部屋には色々な素材が置いてなければおかしい。
アイテムボックスは標準装備が基本なのにと口癖のように言っていたが、この世界ではそうじゃない。
この集団の中でアイテムを収納するスキルを持っているのは金田さんのみ。
松平君の部屋に物がないという状況は金田さんが彼の物を収納して持って行ったからだろう。
そんなことをする理由は明白だ。
「そうだよな……」
俺は陰キャ高校生3人組に勝手にシンパシーを感じていたが、よく考えたら親しいわけでもなんでもない。
織田君とか木下君とか気安く呼んでいるのは心の中だけで、実際に呼ぶときはさん付けだ。
彼らが俺に同情することも無いだろう。
町に行けば獣人やエルフに会えるかもしれないからと喜々として計画に賛同したんだろうな。
「薄情者どもめ」
「大体なんなんだよあの陽キャハーレム」
「人数増えて今や男一人に女6人じゃねえか」
「全員性格ブス!」
俺の中に沈殿した澱のような不満を大声で吐き出していく。
それは段々とただの悪口になっていった。
「チャラ男てめーらふざけんな!闇金ウ〇ジマくんに酷い目に遭わされろ!!」
「お局、社会人としての常識とか異世界に持ち込んでんじゃねー!」
「筋肉馬鹿!」
「チャラ男大学生に食われてんじゃねーよJCクソ〇ッチ!」
悪口叫ぶの楽しー。
もう俺のテンションは爆上げだった。
俺は女性陣が使っていた住居を開けて普段なら口にするのも憚られるような卑猥なことを叫びまくった。
途中から服も脱ぎ捨て全裸になった。
当然のように女子トイレや女風呂も開けて叫んだ。
なんだか大切なものを失った気がした。
しかしまあ、気分は晴れたのでよしとする。
【剛力】のスキルを持つゴリマッチョ里中さんならば倒木などを一人で担ぎ上げて拠点まで運ぶことができるのだろうが、俺の力ではそんなことは不可能だ。
あとは最初の頃に女性陣がトイレとして利用していた方角の森は未だに男は立ち入り禁止となっているので薪を探すことはできない。
拠点内にトイレができてから2週間くらいは経っているのでもう何もかも土に返っていると思うのだが、ただでさえ立場の弱い俺が女性陣のあれこれに口を出すのは鬼門だ。
大人しく小枝のたくさん落ちているところまで歩いて拾うことにする。
俺が両手に抱えて持つことのできる枝の量などたかが知れているので土壁の前と森を何度も往復して薪を集めていった。
2時間ほどそうしていただろうか。
そろそろ日暮れだ。
さすがに夜の森は危険なのでこのくらいにしておこう。
肝心の薪も土壁の横にうず高く積みあがっている。
これだけあればどんな豪快な使い方をしても大丈夫だろう。
いい仕事をしたなと額の汗を拭った俺だったが、ふいに違和感に気が付く。
「なんでこの時間なのにこんなに静かなんだ?」
いつもだったらこの時間、ハーレムパーティが帰ってきて騒いでいるはずだ。
それなのに今日は誰の声もしない。
いや、今に始まったことではない。
いつから、誰の声もしなかった?
普段とは違って今日は土壁がある。
だから中の様子も見えないし声も聞こえなくて当然と無意識に思っていたが、2メートル程度の高さで拠点を囲んでいるだけの土壁に遮音性なんてあるわけがないのだ。
俺は何か嫌な予感を感じながらも、土壁に申し訳程度に立てかけられている木の門を開けて中の様子を窺う。
この世界に転移してから今日まで、感じたことのないくらいの静寂だ。
可能性は二つ。
ひとつは物音一つ立てることなく人を捕食できるような危険な魔物が拠点内に侵入し、全員が殺されるか囚われたという可能性。
そしてもう一つは、誠に遺憾なことに俺だけをこの拠点に取り残して他のメンバーが町なりなんなりを目指して移動を開始したという可能性だ。
まあ答えはもう分かっているようなものだがな。
ニヤニヤと気持ち悪い笑いを浮かべていたチャラ男大学生2人組、妙に説教が短かったお局OL。
思い出してみれば陰キャ高校生が昨日異世界の町についての話をしていたり、女性陣がこの世界の化粧品について話していたりもした。
もうずいぶん前から、町を目指して移動するということは決まっていたのかもしれない。
知らされていなかったのは、俺だけだった。
「はは、きついなぁ……」
陰キャ高校生3人組が持っていたラノベのように、ダンジョンの落とし穴に突き落とされたわけでもない。
無理やり捕まって奴隷として売られたわけでもない。
罠に嵌められて、窮地に陥ったわけでもない。
ただ、置いて行かれただけ。
それも生産職が作ってくれた立派な拠点も丸々残っている。
だが、やはり仲間外れにされるのは辛いし、一人薄暗い森の中に置いていかれたのは不安だった。
「いや、まだ完全に置いていかれたと決まったわけじゃない」
俺は一縷の望みにかけて拠点内を見て回ることにした。
最初は一番気やすい関係だった気がする陰キャ高校生3人組が暮らしていた竪穴式住居だ。
「織田さん?」
俺は一応声をかけてから織田君の住居にお邪魔する。
中は当然のようにもぬけの殻。
やはり、いないか。
次は木下君の住居。
そこも荷物が綺麗に片付けられていた。
松平君の家も当然綺麗だった。
松平君は他の2人と違って生産職なので部屋には色々な素材が置いてなければおかしい。
アイテムボックスは標準装備が基本なのにと口癖のように言っていたが、この世界ではそうじゃない。
この集団の中でアイテムを収納するスキルを持っているのは金田さんのみ。
松平君の部屋に物がないという状況は金田さんが彼の物を収納して持って行ったからだろう。
そんなことをする理由は明白だ。
「そうだよな……」
俺は陰キャ高校生3人組に勝手にシンパシーを感じていたが、よく考えたら親しいわけでもなんでもない。
織田君とか木下君とか気安く呼んでいるのは心の中だけで、実際に呼ぶときはさん付けだ。
彼らが俺に同情することも無いだろう。
町に行けば獣人やエルフに会えるかもしれないからと喜々として計画に賛同したんだろうな。
「薄情者どもめ」
「大体なんなんだよあの陽キャハーレム」
「人数増えて今や男一人に女6人じゃねえか」
「全員性格ブス!」
俺の中に沈殿した澱のような不満を大声で吐き出していく。
それは段々とただの悪口になっていった。
「チャラ男てめーらふざけんな!闇金ウ〇ジマくんに酷い目に遭わされろ!!」
「お局、社会人としての常識とか異世界に持ち込んでんじゃねー!」
「筋肉馬鹿!」
「チャラ男大学生に食われてんじゃねーよJCクソ〇ッチ!」
悪口叫ぶの楽しー。
もう俺のテンションは爆上げだった。
俺は女性陣が使っていた住居を開けて普段なら口にするのも憚られるような卑猥なことを叫びまくった。
途中から服も脱ぎ捨て全裸になった。
当然のように女子トイレや女風呂も開けて叫んだ。
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