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4話

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「先生、どんどん燃えてます」

「ああ…」

 確かにどんどん燃えている。
 しかし全然熱くない。
 肉が焼け、朽ち果てていく。
 着ている衣服には焦げ跡一つないが、俺の肉体だけが青い炎に焼かれていく。
 全く痛みや熱を感じさせることのない青い炎によって俺の身体はあっという間に骨になった。

「吉井さん、俺の身体、どうなってる……?」

「先生、生きてるんですか?全部骨になってますけど…」

 やっぱりか。
 服の袖から伸びる俺の手は理科室に置いてある骨格標本のように真っ白な骨だ。
 真っ白な骨には黒いモヤのようなものが纏わりついており、焼け朽ちた肉の代わりを果たしているようだ。
 俺はゆっくりと立ち上がり、脱衣所まで歩く。
 洗面台の鏡に映った俺の姿は衝撃的だった。
 一言で言い表すならば服を着て歩く骸骨そのもの。
 着ていたシャツをめくると、がらんどうになった肋骨の内側や細くなったウェスト、スカスカのはずの大腿骨の周りで、肉の代わりに黒いモヤが服を繋ぎとめている。
 真っ白な骨と、纏わり付く黒いモヤ、そして眼窩の奥に怪しく光る青い炎。
 それはまさに物語の中の存在、生ける屍、歩く骨、アンデットのようだ。
 
「吉井さん、これなにがどうなってんのかな…」

「物語などでよくあるのは、不老不死=アンデットというパターンですかね…」

「その場合不老不死になった者はどうなるの?」

「人類の敵になりますね」

 ダメじゃん。
 ヴァチカンとか、エクソシストとか出てきて討伐されそうだ。

「先生、とにかく今はこの青い本を読んでみるべきだと思います」

 吉井さんは心なしか少し楽しそうだ。
 可愛いな。
 容姿だけはいいからな彼女は。
 ちゃんと擬態しとけ。
 まあ彼女の言うことももっともなので俺は青い本を開き、読んでみる。


 ”この本を最初に開いたあなたは、今頃アンデットになっていることでしょう。この本には、最初に開いた人間をアンデットにする呪いがかけられています。黒魔術によって不老不死になる方法には自身がアンデットになることが必須になります。おそらく最初は骸骨のような姿になるでしょうが安心してください、きちんと手順を踏んでステップアップしていけば人の姿を取り戻すことができます。次のページからはその具体的な方法について記していきます”

 
 はぁ、38歳にしてアンデットになってしまうとはな。
 だが、この本に書いてあることが本当なら人の姿に戻ることは可能なようだ。
 早くステップアップしないとまともに生活することもままならない。
 頑張らなくちゃな、エクソシストに注意しながらだが。

「先生、その本私も読んでも大丈夫ですかね?」

 吉井さんは青い本に興味津々のようだ。
 呪いは最初に開いた者がアンデットになるというものだと書いてあるので問題ないだろう。
 というか問題があってもアンデットになるくらいだろう。
 骸骨仲間が欲しいから問題があって欲しいくらいだ。
 俺が青い本を差し出すと、吉井さんは貪るように青い本を読んでいる。

「おお、おお、これが……。先生、読めないんですけど……」

 吉井さんが持つ青い本を覗き込むと、確かに読むことができないヘンテコ文字で書かれている。
 試しに吉井さんから本を受け取ってみると、言語が変わり日本語になる。
 
「これ先生にしか読めないみたいですね。私には今も意味不明な言語に見えています」

 この本は俺にしか読めない。
 ちょっと優越感。
 しかし同時に骸骨仲間ができることはないという寂寥感。

「先生、早く読んで内容を教えてください」

 吉井さんに急かされるままに俺は青い本を読んでいく。


 ”これからこの本を通してあなたは『黒魔術』というものを学んでいくわけでありますが、人にはそれぞれ適性というものがあります。あなたが黒魔術に向いているかどうかは、今のあなたの姿で簡単に知ることができます。白い骨だけの姿ならば才能は小、白い骨に黒い闇が纏わりついていれば才能は中、白い骨に黒い闇が纏わりつき、さらに眼窩の奥に青い炎が浮かんでいれば才能は大となります”

「俺は黒魔術の才能があるんだって」

「さすが先生です!!」

 さす先いただきました。
 もっとうっとりして言えばいいのに。
 俺は興奮してちょっと距離が近くなっている吉井さんにドキドキしながらページをめくっていく。
 要約すれば、黒魔術というのはこの俺の骨に纏わりついている黒いモヤを操る術で、黒いモヤはマイナスのエネルギーなので生者には絶対に極めることはできない。
 だから一回死んでアンデットになって極めようという話だった。
 何じゃそりゃ、俺は一回死んでるのかい。
 これ『不老不死にいたる方法』の本じゃなくて『黒魔術を極める方法(副産物として不老不死)』じゃないか。
 高次元生命体による叡智の書詐欺だ。 
 というかさらっと読んじゃったけど、俺本当に不老不死になっちゃったんだな。
 きっと吉井さんとかが死んでしまっても、ずっと生きてるんだろうな。
 まあ大都会東京に生きてたらみんな孤独みたいなものだから、今までとそれほど変わらないだろうけど。
 寂しくなったら一晩の愛をお金で買えばいいんだよ。
 俺は高田馬場の80分12000円コースの愛が好きかな。
 東京の夜は愛で満ちているからね。
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