4 / 8
4話
しおりを挟む
「先生、どんどん燃えてます」
「ああ…」
確かにどんどん燃えている。
しかし全然熱くない。
肉が焼け、朽ち果てていく。
着ている衣服には焦げ跡一つないが、俺の肉体だけが青い炎に焼かれていく。
全く痛みや熱を感じさせることのない青い炎によって俺の身体はあっという間に骨になった。
「吉井さん、俺の身体、どうなってる……?」
「先生、生きてるんですか?全部骨になってますけど…」
やっぱりか。
服の袖から伸びる俺の手は理科室に置いてある骨格標本のように真っ白な骨だ。
真っ白な骨には黒いモヤのようなものが纏わりついており、焼け朽ちた肉の代わりを果たしているようだ。
俺はゆっくりと立ち上がり、脱衣所まで歩く。
洗面台の鏡に映った俺の姿は衝撃的だった。
一言で言い表すならば服を着て歩く骸骨そのもの。
着ていたシャツをめくると、がらんどうになった肋骨の内側や細くなったウェスト、スカスカのはずの大腿骨の周りで、肉の代わりに黒いモヤが服を繋ぎとめている。
真っ白な骨と、纏わり付く黒いモヤ、そして眼窩の奥に怪しく光る青い炎。
それはまさに物語の中の存在、生ける屍、歩く骨、アンデットのようだ。
「吉井さん、これなにがどうなってんのかな…」
「物語などでよくあるのは、不老不死=アンデットというパターンですかね…」
「その場合不老不死になった者はどうなるの?」
「人類の敵になりますね」
ダメじゃん。
ヴァチカンとか、エクソシストとか出てきて討伐されそうだ。
「先生、とにかく今はこの青い本を読んでみるべきだと思います」
吉井さんは心なしか少し楽しそうだ。
可愛いな。
容姿だけはいいからな彼女は。
ちゃんと擬態しとけ。
まあ彼女の言うことももっともなので俺は青い本を開き、読んでみる。
”この本を最初に開いたあなたは、今頃アンデットになっていることでしょう。この本には、最初に開いた人間をアンデットにする呪いがかけられています。黒魔術によって不老不死になる方法には自身がアンデットになることが必須になります。おそらく最初は骸骨のような姿になるでしょうが安心してください、きちんと手順を踏んでステップアップしていけば人の姿を取り戻すことができます。次のページからはその具体的な方法について記していきます”
はぁ、38歳にしてアンデットになってしまうとはな。
だが、この本に書いてあることが本当なら人の姿に戻ることは可能なようだ。
早くステップアップしないとまともに生活することもままならない。
頑張らなくちゃな、エクソシストに注意しながらだが。
「先生、その本私も読んでも大丈夫ですかね?」
吉井さんは青い本に興味津々のようだ。
呪いは最初に開いた者がアンデットになるというものだと書いてあるので問題ないだろう。
というか問題があってもアンデットになるくらいだろう。
骸骨仲間が欲しいから問題があって欲しいくらいだ。
俺が青い本を差し出すと、吉井さんは貪るように青い本を読んでいる。
「おお、おお、これが……。先生、読めないんですけど……」
吉井さんが持つ青い本を覗き込むと、確かに読むことができないヘンテコ文字で書かれている。
試しに吉井さんから本を受け取ってみると、言語が変わり日本語になる。
「これ先生にしか読めないみたいですね。私には今も意味不明な言語に見えています」
この本は俺にしか読めない。
ちょっと優越感。
しかし同時に骸骨仲間ができることはないという寂寥感。
「先生、早く読んで内容を教えてください」
吉井さんに急かされるままに俺は青い本を読んでいく。
”これからこの本を通してあなたは『黒魔術』というものを学んでいくわけでありますが、人にはそれぞれ適性というものがあります。あなたが黒魔術に向いているかどうかは、今のあなたの姿で簡単に知ることができます。白い骨だけの姿ならば才能は小、白い骨に黒い闇が纏わりついていれば才能は中、白い骨に黒い闇が纏わりつき、さらに眼窩の奥に青い炎が浮かんでいれば才能は大となります”
「俺は黒魔術の才能があるんだって」
「さすが先生です!!」
さす先いただきました。
もっとうっとりして言えばいいのに。
俺は興奮してちょっと距離が近くなっている吉井さんにドキドキしながらページをめくっていく。
要約すれば、黒魔術というのはこの俺の骨に纏わりついている黒いモヤを操る術で、黒いモヤはマイナスのエネルギーなので生者には絶対に極めることはできない。
だから一回死んでアンデットになって極めようという話だった。
何じゃそりゃ、俺は一回死んでるのかい。
これ『不老不死にいたる方法』の本じゃなくて『黒魔術を極める方法(副産物として不老不死)』じゃないか。
高次元生命体による叡智の書詐欺だ。
というかさらっと読んじゃったけど、俺本当に不老不死になっちゃったんだな。
きっと吉井さんとかが死んでしまっても、ずっと生きてるんだろうな。
まあ大都会東京に生きてたらみんな孤独みたいなものだから、今までとそれほど変わらないだろうけど。
寂しくなったら一晩の愛をお金で買えばいいんだよ。
俺は高田馬場の80分12000円コースの愛が好きかな。
東京の夜は愛で満ちているからね。
「ああ…」
確かにどんどん燃えている。
しかし全然熱くない。
肉が焼け、朽ち果てていく。
着ている衣服には焦げ跡一つないが、俺の肉体だけが青い炎に焼かれていく。
全く痛みや熱を感じさせることのない青い炎によって俺の身体はあっという間に骨になった。
「吉井さん、俺の身体、どうなってる……?」
「先生、生きてるんですか?全部骨になってますけど…」
やっぱりか。
服の袖から伸びる俺の手は理科室に置いてある骨格標本のように真っ白な骨だ。
真っ白な骨には黒いモヤのようなものが纏わりついており、焼け朽ちた肉の代わりを果たしているようだ。
俺はゆっくりと立ち上がり、脱衣所まで歩く。
洗面台の鏡に映った俺の姿は衝撃的だった。
一言で言い表すならば服を着て歩く骸骨そのもの。
着ていたシャツをめくると、がらんどうになった肋骨の内側や細くなったウェスト、スカスカのはずの大腿骨の周りで、肉の代わりに黒いモヤが服を繋ぎとめている。
真っ白な骨と、纏わり付く黒いモヤ、そして眼窩の奥に怪しく光る青い炎。
それはまさに物語の中の存在、生ける屍、歩く骨、アンデットのようだ。
「吉井さん、これなにがどうなってんのかな…」
「物語などでよくあるのは、不老不死=アンデットというパターンですかね…」
「その場合不老不死になった者はどうなるの?」
「人類の敵になりますね」
ダメじゃん。
ヴァチカンとか、エクソシストとか出てきて討伐されそうだ。
「先生、とにかく今はこの青い本を読んでみるべきだと思います」
吉井さんは心なしか少し楽しそうだ。
可愛いな。
容姿だけはいいからな彼女は。
ちゃんと擬態しとけ。
まあ彼女の言うことももっともなので俺は青い本を開き、読んでみる。
”この本を最初に開いたあなたは、今頃アンデットになっていることでしょう。この本には、最初に開いた人間をアンデットにする呪いがかけられています。黒魔術によって不老不死になる方法には自身がアンデットになることが必須になります。おそらく最初は骸骨のような姿になるでしょうが安心してください、きちんと手順を踏んでステップアップしていけば人の姿を取り戻すことができます。次のページからはその具体的な方法について記していきます”
はぁ、38歳にしてアンデットになってしまうとはな。
だが、この本に書いてあることが本当なら人の姿に戻ることは可能なようだ。
早くステップアップしないとまともに生活することもままならない。
頑張らなくちゃな、エクソシストに注意しながらだが。
「先生、その本私も読んでも大丈夫ですかね?」
吉井さんは青い本に興味津々のようだ。
呪いは最初に開いた者がアンデットになるというものだと書いてあるので問題ないだろう。
というか問題があってもアンデットになるくらいだろう。
骸骨仲間が欲しいから問題があって欲しいくらいだ。
俺が青い本を差し出すと、吉井さんは貪るように青い本を読んでいる。
「おお、おお、これが……。先生、読めないんですけど……」
吉井さんが持つ青い本を覗き込むと、確かに読むことができないヘンテコ文字で書かれている。
試しに吉井さんから本を受け取ってみると、言語が変わり日本語になる。
「これ先生にしか読めないみたいですね。私には今も意味不明な言語に見えています」
この本は俺にしか読めない。
ちょっと優越感。
しかし同時に骸骨仲間ができることはないという寂寥感。
「先生、早く読んで内容を教えてください」
吉井さんに急かされるままに俺は青い本を読んでいく。
”これからこの本を通してあなたは『黒魔術』というものを学んでいくわけでありますが、人にはそれぞれ適性というものがあります。あなたが黒魔術に向いているかどうかは、今のあなたの姿で簡単に知ることができます。白い骨だけの姿ならば才能は小、白い骨に黒い闇が纏わりついていれば才能は中、白い骨に黒い闇が纏わりつき、さらに眼窩の奥に青い炎が浮かんでいれば才能は大となります”
「俺は黒魔術の才能があるんだって」
「さすが先生です!!」
さす先いただきました。
もっとうっとりして言えばいいのに。
俺は興奮してちょっと距離が近くなっている吉井さんにドキドキしながらページをめくっていく。
要約すれば、黒魔術というのはこの俺の骨に纏わりついている黒いモヤを操る術で、黒いモヤはマイナスのエネルギーなので生者には絶対に極めることはできない。
だから一回死んでアンデットになって極めようという話だった。
何じゃそりゃ、俺は一回死んでるのかい。
これ『不老不死にいたる方法』の本じゃなくて『黒魔術を極める方法(副産物として不老不死)』じゃないか。
高次元生命体による叡智の書詐欺だ。
というかさらっと読んじゃったけど、俺本当に不老不死になっちゃったんだな。
きっと吉井さんとかが死んでしまっても、ずっと生きてるんだろうな。
まあ大都会東京に生きてたらみんな孤独みたいなものだから、今までとそれほど変わらないだろうけど。
寂しくなったら一晩の愛をお金で買えばいいんだよ。
俺は高田馬場の80分12000円コースの愛が好きかな。
東京の夜は愛で満ちているからね。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
超能力者一家の日常
ウララ
キャラ文芸
『暗闇の何でも屋』
それはとあるサイトの名前
そこには「対価を払えばどんな依頼も引き受ける」と書かれていた。
だがそのサイトの知名度は無いに等しいほどだった。
それもそのはず、何故なら従業員は皆本来あるはずの無い能力者の一家なのだから。
これはそんな能力者一家のお話である。
校外でツーきゃん(校外でツーリングキャンプ)
秋葉 幾三
キャラ文芸
学校生活、放課後とかソロキャン好きの少年と引っ込み思案の少女の出会いから始まる物語とか。
「カクヨム」でも掲載してます。(https://kakuyomu.jp/works/1177354055272742317)
「小説家になろう」サイトでも簡単な挿絵付きで載せてます、(https://ncode.syosetu.com/n9260gs/)
hondaバイクが出てきます、ご興味ある方は(https://www.honda.co.jp/motor/?from=navi_footer)へ。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる