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番外編・16

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 エイナルがあらためて丁寧に頭を下げてきた。

「必ずやお二人のお命をお守りいたします」

「わかりました。私はエイナルのことを信じますわ」

 ソフィアがそう言うと、エイナルは顔を上げた。彼は、見たこともない柔らかな微笑みを浮かべていた。彼がその表情のままイーサンに視線を向けてきたので、驚きつつも顔を引き締めて大きく頷いた。

「……私もエイナル殿を信じて任せたいと思う。話は通しておく」

「ご助力感謝いたします」

 こうして、エイナルの元で少人数の新しい部隊が組織された。
 いずれ叔父がシーラと起こす反乱を鎮圧するために活躍する部隊だ。

「ご安心くださいませ。あんな腹黒女の相手は私に全てお任せくださればよいのです。どうぞお二人はこれまで通り健やかにお過ごしくださいませ」

 切々と語るエイナルに、ソフィアは眉をひそめる。

「あなた、もしかして血なまぐさいことを全て被ろうとしているの?」

 ソフィアの言葉にイーサンはハッとする。
 反乱を起こそうとしている者たちを相手にするのだ。血を流さずに済めば良いが、そううまくはいかないだろう。

「――っそれは駄目だ!」

 イーサンが慌てて声を上げると、エイナルは怪訝そうな表情をする。

「私は今回の件をきちんと受け止める義務がある。頼りない領主であることは自覚しているが、だからといって蚊帳の外はいけない」

 イーサンのこの発言には、隣にいるソフィアも驚いた顔をしていた。

「あらまあ。イーサン様はてっきり、お姉さまが怖くて全てをエイナルに任せるおつもりなのかと思いましたわ」

 当たり前のようにソフィアが言うので、イーサンは衝撃を受ける。

「……うう、私はそんなに無責任なつもりはないぞ?」

「そうですよ奥さま。旦那さまは狂暴なモンスター相手に一人で突っ込んでいく方ですからねえ」

 エイナルが嫌味っぽく言うと、ソフィアが手をぽんと叩いた。

「そう言われてみればそうね。考えてみたら、モンスターは怖くないのに私は怖かったのですねえ?」

 ジトっとした目でソフィアに見つめられる。
 イーサンは何も言えなくなってしまい、背中を丸めて小さくなった。

「そりゃ、考えようによってはモンスターなんかより人間の方が怖いですからねえ。旦那さまは間違っていないですよ」

 あははと、エイナルが大きく口を開けて笑い転げると、ソフィアがパンと手を叩いた。

「冗談はさておき……」

 ソフィアは真面目な表情を浮かべてエイナルを真っ直ぐに見つめる。
 すると、エイナルはすぐに姿勢を正した。

「私だってイーサン様と同じ気持ちです。お姉さまのことはきちんと受け止めたいの」

 真摯な態度で語りかけるソフィアに、エイナルは目を伏せた。

「…………私があなたには清らかでいて欲しいのですよ」

「それは単なる理想の押し付けよ。いいわね、事の次第は詳細にイーサン様と私に報告するのよ」

「私からも十分にお願いしたい。私はいつでも矢面に立つつもりだ」

 エイナルは目を伏せたまま、恭しく頭を下げた。

「……かしこまりました。お望みのままに」

 エイナルはその場からすっと姿を消してしまった。
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