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番外編・3
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「おや、素直ですねえ。そういう素直さはとてもよろしいのではないかと思います」
「……その、貴殿らはどうしてそう自信たっぷりで高圧的な態度なのだ? 私はただ……」
「ほう、高圧的ときましたか。そりゃそうですよ。私は自分に自信を持てるだけの努力をして、きちんと成果を出しておりますからね」
さらりと言ってのけるエイナルに、イーサンは開いた口が塞がらない。
イーサンがぼんやりとしていると、エイナルがくすくすと笑いだす。
「いやあ、冗談ですよ。この土地の方々は随分と我らのことを馬鹿にした態度をお取りになるのでね。これくらい強気にいかないと舐められると思っていただけです」
「――っな、そうなのか?」
「本当に素直な方ですねえ。ええ、そうですよ」
エイナルはそう言ってから口の端を上げてにやりと笑う。
「どうせソフィア様のことを、平民を父に持つ下賤な血筋の女だと馬鹿にしているのでしょう。我ら一門のことも同様の理由でね」
エイナルの言葉に、イーサンはすぐに反論ができなかった。それはイーサン自身がそう思っていたからではなく、そんなことを考えもしていなかったからだ。
「まあ、師匠も生まれを気にしていらっしゃるから、こんな政略結婚の話に乗っかってしまったのでしょうけれどね。平民の婿養子ってのは王宮内のお立場でいろいろとご苦労がおありのようですから……」
あの方は政治ってのが苦手なのですよねと、エイナルはイーサンの胸の内に気がつかずに話を続けている。
ソフィアの実家は魔術の大家だ。
他の貴族家とは違い、一族の当主は生まれや性別に関係なく、魔術の実力で選ばれるという決まりがある。
先代当主の一番弟子だった現当主が、娘婿として爵位と一門の当主としての地位を継いだというのは有名な話だ。
ソフィアの父である現当主は、平民の生まれだが魔術の才能で王都にある魔術省の長官にまで上り詰めた実力者なのだ。
「……あ、いや。私はそんなことは、考えたこともなかった。ただ素晴らしい方だなと、尊敬を申し上げるだけで……」
「………………ほう、そうなのですか?」
イーサンが素直に胸の内を告げると、エイナルが値踏みするように見つめてくる。
「ふーん、そうなのですね」
エイナルが何を考えているのかさっぱりわからない。
彼は手にしているペンで机の上をトントンと叩いている。イーサンはその音にいちいちびくついてしまうので、不安でたまらなくなってくる。
「まあ、あなたがそうでなくても周りは違うでしょう? 辺境伯家に平民の血筋を入れたくないと騒いでいらっしゃる保守派のお身内の方がいらっしゃるじゃないですか」
「わ、私は本当に長官殿の生まれなんて気にしたことがなかった。もちろん、ソフィアが平民の娘だなんて考えたこともない。…………だが、もしかしてそれでは駄目だったのか?」
ソフィアが、みんな私のことを馬鹿にすると言っていたのは、そういう意味も含まれていたのだろうか。彼女が誰にも負けたくないと何事にも全力で取り組むのは、彼女の境遇が関係しているのか。
「そもそもこの結婚話を持ってきたのは叔父上だ。身内が結婚に不満を持っているだなんてことは……」
そこまで言葉を口にして、何かおかしいことに気が付いた。
イーサンが目を見開いてエイナルを見ると、大きなため息をついて頭を抱えていた。
「ああ、こんな場所に来るんじゃなかったっすわ。マジで面倒くせえ……」
「……その、貴殿らはどうしてそう自信たっぷりで高圧的な態度なのだ? 私はただ……」
「ほう、高圧的ときましたか。そりゃそうですよ。私は自分に自信を持てるだけの努力をして、きちんと成果を出しておりますからね」
さらりと言ってのけるエイナルに、イーサンは開いた口が塞がらない。
イーサンがぼんやりとしていると、エイナルがくすくすと笑いだす。
「いやあ、冗談ですよ。この土地の方々は随分と我らのことを馬鹿にした態度をお取りになるのでね。これくらい強気にいかないと舐められると思っていただけです」
「――っな、そうなのか?」
「本当に素直な方ですねえ。ええ、そうですよ」
エイナルはそう言ってから口の端を上げてにやりと笑う。
「どうせソフィア様のことを、平民を父に持つ下賤な血筋の女だと馬鹿にしているのでしょう。我ら一門のことも同様の理由でね」
エイナルの言葉に、イーサンはすぐに反論ができなかった。それはイーサン自身がそう思っていたからではなく、そんなことを考えもしていなかったからだ。
「まあ、師匠も生まれを気にしていらっしゃるから、こんな政略結婚の話に乗っかってしまったのでしょうけれどね。平民の婿養子ってのは王宮内のお立場でいろいろとご苦労がおありのようですから……」
あの方は政治ってのが苦手なのですよねと、エイナルはイーサンの胸の内に気がつかずに話を続けている。
ソフィアの実家は魔術の大家だ。
他の貴族家とは違い、一族の当主は生まれや性別に関係なく、魔術の実力で選ばれるという決まりがある。
先代当主の一番弟子だった現当主が、娘婿として爵位と一門の当主としての地位を継いだというのは有名な話だ。
ソフィアの父である現当主は、平民の生まれだが魔術の才能で王都にある魔術省の長官にまで上り詰めた実力者なのだ。
「……あ、いや。私はそんなことは、考えたこともなかった。ただ素晴らしい方だなと、尊敬を申し上げるだけで……」
「………………ほう、そうなのですか?」
イーサンが素直に胸の内を告げると、エイナルが値踏みするように見つめてくる。
「ふーん、そうなのですね」
エイナルが何を考えているのかさっぱりわからない。
彼は手にしているペンで机の上をトントンと叩いている。イーサンはその音にいちいちびくついてしまうので、不安でたまらなくなってくる。
「まあ、あなたがそうでなくても周りは違うでしょう? 辺境伯家に平民の血筋を入れたくないと騒いでいらっしゃる保守派のお身内の方がいらっしゃるじゃないですか」
「わ、私は本当に長官殿の生まれなんて気にしたことがなかった。もちろん、ソフィアが平民の娘だなんて考えたこともない。…………だが、もしかしてそれでは駄目だったのか?」
ソフィアが、みんな私のことを馬鹿にすると言っていたのは、そういう意味も含まれていたのだろうか。彼女が誰にも負けたくないと何事にも全力で取り組むのは、彼女の境遇が関係しているのか。
「そもそもこの結婚話を持ってきたのは叔父上だ。身内が結婚に不満を持っているだなんてことは……」
そこまで言葉を口にして、何かおかしいことに気が付いた。
イーサンが目を見開いてエイナルを見ると、大きなため息をついて頭を抱えていた。
「ああ、こんな場所に来るんじゃなかったっすわ。マジで面倒くせえ……」
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