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ソフィアは必死になって止めてくるルイースを振り切って、とある部屋の扉を勢いよく開いた。
「ねえ、ちょっと話を聞きたいのだけどいいかしら?」
やってきたのは使用人の休憩室だ。
そこでは辺境伯家の使用人たちが、お茶菓子を囲みながら談笑しているところだった。
「――っ奥さま?」
「ええええ、なんでこんなところに⁉」
ソフィアが室内に入ると、一同が慌てながら勢いよく立ちあがる。
「あ、いいのよ。座っていてちょうだい。少し話を聞かせてもらいたいだけだから」
皆が混乱しているのを無視して、ソフィアは休憩室にある椅子にさっさと腰かけた。
「あなたたちも座ってちょうだいな。休憩中なのでしょう? だったら私のことを奥さま扱いしなくていいわ」
ソフィアが椅子に座るように言うと、皆が元いた場所におそるおそる腰かける。
「あら、美味しそうなお菓子ね。私もいただいていいかしら?」
「ああ、駄目です! お口にあいませんわ」
「まあ、どうして? こんなにおいしそうなのに」
ソフィアがテーブルの中央にあった菓子に手を伸ばすと、一人の使用人が慌てて止めた。
「……あの、実はそれ私の手作りなんです。奥さまに口にしていただくようなものではないので……」
「まあ、手作りなの! 素敵じゃない。是非いただきたいわ」
ソフィアがテーブルの上に身を乗り出して菓子をねだると、彼女はしぶしぶ了承してくれた。
「んー、とってもおいしい。あなた調理場に入ってもやっていけるわね」
ソフィアが頬を押さえながら言うと、菓子を作ったという使用人の顔がぱあっと輝いた。
「あ、ありがとうございます!」
「ねえ、たまにでいいから私にも作ってくれると嬉しいわ。すごく気に入っちゃった」
それからソフィアは菓子についてあれこれと尋ねる。すると、褒められたことがよほど嬉しかったのか、その使用人は気軽に接してくれるようになった。
「あ、ところでね。実はあなたたちに聞きたいことがあるの」
「はい、何でしょう?」
打ち解けてきたかというタイミングを見計らって、ソフィアは使用人たちに質問をした。
「旦那さまの女性関係について聞きたいのよ」
ソフィアがそう口にすると、使用人たちの表情が変わった。
「私がこの屋敷に来る前に旦那さまと関係を持っていた女性を知らない? たとえばあなた達の誰かに手を出したとか……」
ソフィアの質問に室内にいた者たちが一斉に首を横に振る。
「旦那さまはそういった不誠実なことはなさいません!」
「貴族の方の中には、そういったことをなさる方がおられるのは存じあげておりますが……」
「旦那さまに限っては絶対にありません!」
あまりに必死になって否定するので、疑わしく思ったソフィアは頬を膨らませる。
「本当に? 私に気を遣わなくていいのよ。愛人の一人や二人は覚悟しているもの。というより、姉の代打で嫁いだ私はある意味で愛人のようなものだしね」
あっけらかんとしたソフィアの物言いに、使用人たちは口をあんぐりと大きく開けている。
使用人たちは少しのあいだ互いの顔を見合せた後に、ゆっくりと話だした。
「……んー、本当にあまり女性の噂がない方なんですよ」
「お仕事ばかりの方ですしね」
「いつもご一緒にいるのは直属の部下の方ばかりで……」
使用人たちの言葉を聞いて、ソフィアははっとした顔をして尋ねた。
「――っまさか、旦那さまは男性がお好きな方なの?」
ソフィアの言葉に使用人たちは再び一斉に首を横に振る。
「い、いえいえ。女性が恋愛対象のはずです!」
「そうですわ。だって、いっときは舞台女優の方と」
「――っあ、アンタ馬鹿! 何を言ってんのよ」
舞台女優と口ばしった者を、残りの使用人たちが慌てて止める。
しかし、ソフィアは聞き逃さなかった。
「舞台女優? その話を詳しく聞かせて」
ソフィアが机に手をついて立ち上がりながら尋ねると、使用人たちは諦めたように大きく溜め息をついた。
そこへ休憩室の扉が勢いよく開いてエラがやってきた。
「奥さま! 今度はなにごとですか⁉」
「旦那さまが関係を持っていたっていう舞台女優の方の話を聞こうと思ったのよ。エラは何か知らない?」
ソフィアがそう言うと、エラの顔が真っ赤になっていく。エラはぷるぷると身体を震わせながら、室内の者を順番に睨みつけていく。
「いい加減になさいませ!」
エラはそう叫ぶと、ソフィアの首根っこを掴んで使用人の休憩室から連れ出した。
「ねえ、ちょっと話を聞きたいのだけどいいかしら?」
やってきたのは使用人の休憩室だ。
そこでは辺境伯家の使用人たちが、お茶菓子を囲みながら談笑しているところだった。
「――っ奥さま?」
「ええええ、なんでこんなところに⁉」
ソフィアが室内に入ると、一同が慌てながら勢いよく立ちあがる。
「あ、いいのよ。座っていてちょうだい。少し話を聞かせてもらいたいだけだから」
皆が混乱しているのを無視して、ソフィアは休憩室にある椅子にさっさと腰かけた。
「あなたたちも座ってちょうだいな。休憩中なのでしょう? だったら私のことを奥さま扱いしなくていいわ」
ソフィアが椅子に座るように言うと、皆が元いた場所におそるおそる腰かける。
「あら、美味しそうなお菓子ね。私もいただいていいかしら?」
「ああ、駄目です! お口にあいませんわ」
「まあ、どうして? こんなにおいしそうなのに」
ソフィアがテーブルの中央にあった菓子に手を伸ばすと、一人の使用人が慌てて止めた。
「……あの、実はそれ私の手作りなんです。奥さまに口にしていただくようなものではないので……」
「まあ、手作りなの! 素敵じゃない。是非いただきたいわ」
ソフィアがテーブルの上に身を乗り出して菓子をねだると、彼女はしぶしぶ了承してくれた。
「んー、とってもおいしい。あなた調理場に入ってもやっていけるわね」
ソフィアが頬を押さえながら言うと、菓子を作ったという使用人の顔がぱあっと輝いた。
「あ、ありがとうございます!」
「ねえ、たまにでいいから私にも作ってくれると嬉しいわ。すごく気に入っちゃった」
それからソフィアは菓子についてあれこれと尋ねる。すると、褒められたことがよほど嬉しかったのか、その使用人は気軽に接してくれるようになった。
「あ、ところでね。実はあなたたちに聞きたいことがあるの」
「はい、何でしょう?」
打ち解けてきたかというタイミングを見計らって、ソフィアは使用人たちに質問をした。
「旦那さまの女性関係について聞きたいのよ」
ソフィアがそう口にすると、使用人たちの表情が変わった。
「私がこの屋敷に来る前に旦那さまと関係を持っていた女性を知らない? たとえばあなた達の誰かに手を出したとか……」
ソフィアの質問に室内にいた者たちが一斉に首を横に振る。
「旦那さまはそういった不誠実なことはなさいません!」
「貴族の方の中には、そういったことをなさる方がおられるのは存じあげておりますが……」
「旦那さまに限っては絶対にありません!」
あまりに必死になって否定するので、疑わしく思ったソフィアは頬を膨らませる。
「本当に? 私に気を遣わなくていいのよ。愛人の一人や二人は覚悟しているもの。というより、姉の代打で嫁いだ私はある意味で愛人のようなものだしね」
あっけらかんとしたソフィアの物言いに、使用人たちは口をあんぐりと大きく開けている。
使用人たちは少しのあいだ互いの顔を見合せた後に、ゆっくりと話だした。
「……んー、本当にあまり女性の噂がない方なんですよ」
「お仕事ばかりの方ですしね」
「いつもご一緒にいるのは直属の部下の方ばかりで……」
使用人たちの言葉を聞いて、ソフィアははっとした顔をして尋ねた。
「――っまさか、旦那さまは男性がお好きな方なの?」
ソフィアの言葉に使用人たちは再び一斉に首を横に振る。
「い、いえいえ。女性が恋愛対象のはずです!」
「そうですわ。だって、いっときは舞台女優の方と」
「――っあ、アンタ馬鹿! 何を言ってんのよ」
舞台女優と口ばしった者を、残りの使用人たちが慌てて止める。
しかし、ソフィアは聞き逃さなかった。
「舞台女優? その話を詳しく聞かせて」
ソフィアが机に手をついて立ち上がりながら尋ねると、使用人たちは諦めたように大きく溜め息をついた。
そこへ休憩室の扉が勢いよく開いてエラがやってきた。
「奥さま! 今度はなにごとですか⁉」
「旦那さまが関係を持っていたっていう舞台女優の方の話を聞こうと思ったのよ。エラは何か知らない?」
ソフィアがそう言うと、エラの顔が真っ赤になっていく。エラはぷるぷると身体を震わせながら、室内の者を順番に睨みつけていく。
「いい加減になさいませ!」
エラはそう叫ぶと、ソフィアの首根っこを掴んで使用人の休憩室から連れ出した。
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