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鍛冶屋
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「……そうね。たしかに十段階もあったし、どうしてそっちの鉱石の方がランクとして上なのかって疑問に思う部分があったわねえ」
ライラが現役で冒険者をしていた頃のランクは、下から銅・青銅・鉄・銀・金・白金・ミスリル・オパール・オリハルコン・アダマンタイトの十段階となっていた。
どうしてこれらの鉱石だけがランクの名称として扱われ、なおかつこの順番なのかと話題にされることがあったと思い出した。
しかも、ミスリル以上は実力にほとんど差はない。ただこなした依頼の数が増えればランクがあがる。分ける必要があったのかすら疑問だ。
そんなことを考えていたとき、ふと自身のかつての最終ランクが刻印されていた冒険者プレートを、組合に置き忘れてきたことに気がついた。
もう必要のないものなのでそのままでも構わない。しかし、組合での職員とのやり取りを考えると、きちんと回収した方がいいのかもしれないと思った。
「たしかになあ。あのランクの位置づけは俺も謎だったよ」
ライラがいつプレートを組合に取り行こうかと考えていると、マディスが口を開いた。
「鍛冶職人が集るとよくその話題になったな。その話を始めたら家に帰れなくなるほど白熱した議論になったもんだ」
マディスはどこか遠くを眺めながら諦めた顔をしてそう言った。その表情を見て、ライラはおもわず吹き出してしまった。
「あははは、そうだったわね! 飲み屋で鍛冶屋のおじさんがお弟子さんと言い争っていたことがあったっけ。ああ、懐かしい」
冒険者をしていた頃に住んでいた街での出来事を思い出す。懐かしい記憶に、ライラは大きく口を開けて笑う。
すると、マディスがライラを見ながら口の端を上げてにやりと笑った。
「なんだ。そうやって普通に笑えるじゃねえか」
「……何よ、どういう意味?」
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべて見つめてくるマディスに、ライラは眉をひそめる。
「いやなに、お淑やかにしているつもりだったのだろうが、お前の笑い方は嫌味ったらしいんだよ。かなりいけ好かない奴になっていたぞ」
「なによそれ。いつ私がいけ好かない奴になっていたっていうの?」
「あはははは! なんだ、自覚なしか。それはまずいぞ」
ライラの返答を聞いて、マディスが声を上げて笑いだした。マディスはライラの頭に手を置いてがしがしと撫でまわす。
「ちょっとやめてよ! いきなり何なの?」
「話し方も今の方が自然だぞ。無理して取り繕うのはやめておけ」
マディスに指摘され、ライラは侯爵家の花嫁修行で矯正される前の口調に戻っていることに気づいた。
「……べ、別に取り繕っているわけじゃ、ないわよ!」
「あーはいはい。いいんじゃないか?」
「あの、だから違くて……。別に、これはね」
「あとな、もう少し飯を食え。ガリガリすぎて気味が悪いから警戒しちまうんだよ」
ライラとマディスのやり取りを、ファルがはらはらした様子で見ている。イルシアはそんなファルも含めて、この場にいる全員を呆れたように眺めながら声を上げた。
「なあ、弓の確認はもうしなくていいのか?」
「――っそうね。さっさと済ませてしまおうかしら」
ライラはマディスから子ども扱いされたように感じ、不貞腐れながら彼の手を頭からどかした。すぐにマディスに背を向けると、そこからはひたすら的に向かって弓を引いた。
ライラが現役で冒険者をしていた頃のランクは、下から銅・青銅・鉄・銀・金・白金・ミスリル・オパール・オリハルコン・アダマンタイトの十段階となっていた。
どうしてこれらの鉱石だけがランクの名称として扱われ、なおかつこの順番なのかと話題にされることがあったと思い出した。
しかも、ミスリル以上は実力にほとんど差はない。ただこなした依頼の数が増えればランクがあがる。分ける必要があったのかすら疑問だ。
そんなことを考えていたとき、ふと自身のかつての最終ランクが刻印されていた冒険者プレートを、組合に置き忘れてきたことに気がついた。
もう必要のないものなのでそのままでも構わない。しかし、組合での職員とのやり取りを考えると、きちんと回収した方がいいのかもしれないと思った。
「たしかになあ。あのランクの位置づけは俺も謎だったよ」
ライラがいつプレートを組合に取り行こうかと考えていると、マディスが口を開いた。
「鍛冶職人が集るとよくその話題になったな。その話を始めたら家に帰れなくなるほど白熱した議論になったもんだ」
マディスはどこか遠くを眺めながら諦めた顔をしてそう言った。その表情を見て、ライラはおもわず吹き出してしまった。
「あははは、そうだったわね! 飲み屋で鍛冶屋のおじさんがお弟子さんと言い争っていたことがあったっけ。ああ、懐かしい」
冒険者をしていた頃に住んでいた街での出来事を思い出す。懐かしい記憶に、ライラは大きく口を開けて笑う。
すると、マディスがライラを見ながら口の端を上げてにやりと笑った。
「なんだ。そうやって普通に笑えるじゃねえか」
「……何よ、どういう意味?」
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべて見つめてくるマディスに、ライラは眉をひそめる。
「いやなに、お淑やかにしているつもりだったのだろうが、お前の笑い方は嫌味ったらしいんだよ。かなりいけ好かない奴になっていたぞ」
「なによそれ。いつ私がいけ好かない奴になっていたっていうの?」
「あはははは! なんだ、自覚なしか。それはまずいぞ」
ライラの返答を聞いて、マディスが声を上げて笑いだした。マディスはライラの頭に手を置いてがしがしと撫でまわす。
「ちょっとやめてよ! いきなり何なの?」
「話し方も今の方が自然だぞ。無理して取り繕うのはやめておけ」
マディスに指摘され、ライラは侯爵家の花嫁修行で矯正される前の口調に戻っていることに気づいた。
「……べ、別に取り繕っているわけじゃ、ないわよ!」
「あーはいはい。いいんじゃないか?」
「あの、だから違くて……。別に、これはね」
「あとな、もう少し飯を食え。ガリガリすぎて気味が悪いから警戒しちまうんだよ」
ライラとマディスのやり取りを、ファルがはらはらした様子で見ている。イルシアはそんなファルも含めて、この場にいる全員を呆れたように眺めながら声を上げた。
「なあ、弓の確認はもうしなくていいのか?」
「――っそうね。さっさと済ませてしまおうかしら」
ライラはマディスから子ども扱いされたように感じ、不貞腐れながら彼の手を頭からどかした。すぐにマディスに背を向けると、そこからはひたすら的に向かって弓を引いた。
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