上 下
3 / 8

3話 幼馴染(前編)

しおりを挟む
 「おっはよー!蒼汰!」

 登校中、後ろから聞き覚えのある声が聞こえて来て、突如俺の頭に強く叩かれたような衝撃を受ける。

 「なんだ…響かよ、ていうかいきなり頭強く叩くなよ、お前のせいで頭バカになるだろ」

 「いっつもボーっとしてる蒼汰が悪いでしょ」

 こいつは俺の幼馴染の筧響だ、小さい時からずっとこいつと遊んだりしていた。
 そして今じゃもう俺たちは中学生だ。

 「そういえば蒼汰は部活何入るの?」

 急に響にそう聞かれ、俺は間をおいて質問に答える。

 「そうだなー、特に決まってはいないがとりあえず何かしらスポーツはやるだろうな」

 「じゃあさ、蒼汰は小学校でバスケしてたから、バスケ部でいいんじゃない?」

 「いやいや、俺身長そこまで高くないし無理だろ、そういうお前は何入るんだ?」

 響に問うと、逆に響から俺に聞いてきた。

 「さて蒼汰に問題!私は一体何の部活に入ったのでしょーか!」

 響はまるでクイズのように俺に問う。

 「はあ!?お前もう部活入ったのかよ!」

 「いいから当ててみなって」

 俺は響が入ったと思われる部活名を脳内で浮かび上がらせる。

 女子バスケ…それともバレーボールか?たぶんそれのどっちかだろう…。

 「どう?わかった?」

 響は俺の顔を覗き込み、反応を窺っている。

 「じゃあ…正攻法で、女バス(女子バスケットボールの略)」

 俺がそう言った瞬間、響は腕と腕とをクロスさせてバッテン印を作って俺に「ブッブー!」と言う。

 「残念!女バスじゃないよ!」

 「んじゃあ何入ったんだよ…」

 俺が響に聞くと、響は答えた。

 「弓道部」

 「そうか、弓道…は?」

 想像したのとは違う答えに俺は一瞬耳を疑った。

 「おっおま、きゅっ弓道!?お前が!?」

 驚く俺の様子に響は「うん」と頷く。

 「てか…響…弓道やってないよな?」

 俺の問いに響はまたも「うん」と頷く。

 「いやまさかな、響が弓道部なんて想像つかねえな」

 「なにそれ!?そんなに意外なことなの!?」

 弓道部に入部したのには驚いたが、それ以外は特に変わりなくいつも通りの登校だった。

 
 ―半年前

 「最初はお前を幼馴染にしか見てなかったけど、俺、だんだん…響のことが好きになったんだ」

 小学校卒業間近の時期に俺は校舎裏に響を呼び出し、思いを伝えていた、あのときが俺にとって初めての告白だった。

 「響!お前が好きだ!俺と…付き合ってくれ!」

 俺は頭を下げて響に告白する、静観な時間が流れる中、響からの返事を待つ、しかし、俺の片思いが実ることはなかった。

 「ごめん蒼汰、私…蒼太とは付き合えない」

 響の答えに俺はショックを受けたが、平静を装い、顔を上げる。

 「…そうか、響、ありがとな、俺の気持ち聞いてくれて…」

 「私こそ、私なんかのこと好きになってくれて、ありがとう、蒼汰」

 「最後にその…もし良ければだけど、付き合えない理由…教えてくれないか?」

 「え?」

 響は少し戸惑うような様子を見せ、俺は焦った。

 「もちろん言いたくなければ言わなくても大丈夫だ!俺は気持ちを伝えられただけでも充分だし―」

 長年、響を思い続けた気持ちはこの日で幕を閉じた、だか同時に、響の口から衝撃の事実を知ることになった。

 「実は…女子しか…好きになれない…」

 「……え?」

 「その…私…女の子しか好きになれないの…だから…異性を恋愛対象として見れない…」

 響のその言葉に俺の脳内で衝撃が走った、あの響が同性を好きだという事実をこの日初めて知った。

 「やっぱり変だよね、私なんかが同性を好きだなんて、気持ち悪いよね?」

 あまりの驚きにしばらく全身動けず、何か喋ろうとしても口が思い通りに動かせない。

 「ねえ…何か言ってよ…蒼汰」

 響の言葉に俺はハッとする。
 そして、俺は響に言った。

 「ごめん、少しびっくりしただけだ、それより響、ありがとな、俺に秘密を打ち明けてくれて、ほんとは言いたくなかったはずなのに…」

 俺がそう言うと、響は少し驚くような様子を見せる、そして、響がひと呼吸して俺に言う。

 「ううん、聞いてくれてありがとう、あと…蒼汰、今まで隠しててごめん」

 響の言葉に対し俺は「謝んなくていいって」と返す、そして俺はもう一つ気になることがあったので、それを響に質問した。

 「どうして秘密を俺には明かしてくれたんだ?」

 俺の問いに響は間を置いた後答える。

 「蒼汰だから秘密を打ち明けられたんだよ、私…蒼汰のことを一番に信用してるから、それに…」

 響はさらに続けて言う。

 「私にとって蒼汰は、”幼馴染”でもあるし、”親友”でもあるから…」

 響の言った言葉に俺は途端に胸が痛くなった、胸を抑えないようなんとか平静を装う。
 だが同時に、”幼馴染”という肩書きから脱却できないことへの悔しさが込み上がった。

 
 ―現在

 「じゃあ私クラスここだから、また放課後」

 「おう、またな」

 響が教室に入っていくのを見届けた後、俺は自分のクラスの教室へと向かった。

 
 ―4限目終了

 昼休みとなり、俺は先日響から借りてた国語のノートを返しに響のいる教室へと向かう。
 教室に入ると、窓際前の席の方に響とその友達の七瀬、斉木がいた、俺が響を呼ぶと、響は俺の方を向いてこっちに近づいて来た。

 「蒼汰、どうしたの?」

 「借りてたノートを返しに来たんだよ、昨日はマジで助かった、ありがとう」

 「私のノートが役に立ったなら良かったよ」

 満面の笑みで俺にそう言い、「じゃあ」と言ってそのまま席に戻っていった。
 戻った響は七瀬と斉木とで楽しそうに話していた。
 
 この様子だと響も学校生活を楽しんでいるようだ、まあ…響のあの性格なら誰とでも仲良くなれるしな。
 
 俺は教室を出ようとすると、もう一つの出入り口付近に教室内を覗く一人の男子生徒がいた。

 「お前…何やってんだ?」

 俺は彼に声を掛けると、その生徒は一瞬ビクッとし、ゆっくり俺の方に顔を向けた。
 顔を見た瞬間、俺はつい「あっ」という声を上げてしまった。

 「お前確か…三井とかいう奴だったな、ここで何してんだ?」

 教室内を覗いていた生徒は俺と同じクラスの三井雄助だった。

 「あえっと…その…」

 「黙ってないでなんか言えよ」

 俺の問いに何も答えず、三井はそそくさとその場を去っていった。

 「なんだったんだあいつ…」

 跡を追おうとしたが、その瞬間昼休みが終わるチャイムが鳴り響き、俺は追うのを諦めて自分のクラスに戻った。

 
 ―5限終了後

 「んで、お前は一体何をしていたんだ?」

 授業が終わった後、俺は真っ先に隣の席の男子生徒…三井雄助を問い詰めた。

 「はあ…どうしてよりによって隣の人…しかも筧さんの友人にばれるんだろう…」

 三井はばれてしまった恥ずかしさか、手で顔を覆って俺との視線を合わせないようにしている、万が一こいつに疚しいことがあれば先生に相談しよう。

 「休み時間10分しかないから早く答えてくれないか、場合によっちゃあこのことを先生に言わなきゃならなくなる」

 「せ、先生!?そ、そ、それは、お、お、大袈裟じゃないかな!?」

 「怪しい行動してたお前が悪いじゃねえかよ」

 「ぬうう…なんも言えない…」

 俺の警告(脅迫)が効いたのか、三井は観念したように俺に事情を話した。

 
 ―3分後

 三井から聞いた話では、彼は響の友達である七瀬真由のことが好きであり、七瀬が斉木と付き合い始めてからはこうしてついつい七瀬さんの様子を見に来るようになったという、つまり…。

 「七瀬のストーカーというわけか…」

 「待って待って!僕は別にストーカーしてるわけじゃないよ!たぶん…」(※小声で会話しております)

 「ストーカーしてる奴の常套句だなそれ」

 俺のその一言に三井はシュン…となる、まさか俺の隣の席の奴が響の友人のストーカーだったとは、思いもしない。

 俺もこいつみたいにならないように気をつけよう…。

 「あのう、僕が言うのもあれだけど、あまり哀れんだ目で見てくるのやめてくれない?僕自身が惨めに思えてきちゃうから…」

 「わかったわかった、その代わり、お前もそのストーカー癖を治せよ、これがもし七瀬本人に知れたら社会的に死ぬからなお前」

 「わかった…次からは気をつけるよ」

 「気をつけるのは、ストーカー行為をやらないようにじゃなく、”ばれないようにだからな”」

 「は?……それはどういう…」

 俺はポッケからスマホ出し、三井に連絡先交換するか尋ねた。

 「何かと縁だ、良ければ俺と連絡先交換しないか?困った時に色々助け合えば、お互いがウィンウィンになる場合があるし」

 俺の提案に三井は戸惑い考え込む、そりゃあ当然だ、いきなりこんなこと言われちゃあ警戒するのもわかる。

 「まさかとは思いますが、ストーカーしてたことを誰かに言わない代わりに…僕に何かさせる気なんですか?」

 三井の問いに俺は「そうだ」と答える、俺の意図をすぐ理解できたのか、三井はその場で「うん」と頷いた。
 
 「要求はなんですか?」

 三井の問いに対し、俺は要求内容を三井に耳打ちした。

 「時間はかかるが…俺が智哉と七瀬とを別れさせてやる、もちろんその後のお前と七瀬との仲は俺がうまく取り持つ、その代わり…」

 「その代わり…?」

 俺は続けて三井に耳打ちで伝える。

 「お前たしか響と同じ弓道部だったな」
 
 「響?筧さんのことですか?筧さんが何か?」

 俺はさらに三井に詰め寄って要求を言う。

 「筧響に関すること…些細なことでも何でもいい、何かわかったら俺に伝えろ」

 俺の要求に三井は静かに「わかった」と答え、残り少ない休み時間が終わる前に三井と連絡先を交換した
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

処理中です...