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1章 転生後の日常―崩壊まで
4話 崩れゆく日常
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―デリング先生宅に向かう二日前
昨日家庭教師としていつものようにカルラに勉強を教えにいき、その後終了の鐘が鳴り俺は「今日はここまでにしとくか」と言うと、「門まで送る」とカルラが言い出し、俺はカルラと一緒に城の門まで歩く。
門にたどり着き、俺はカルラに「じゃあまた」と言って自宅に帰ろうとした瞬間、突如カルラが「ちょっと待って」と俺に声を掛けた。
「どうした?カルラ」
「えっと…その…」
カルラは俺に何か言いたげな様子で俺を見つめていた、カルラが話し始めるまでしばらく待つと、カルラは一旦深呼吸し、そしてゆっくり口を開いた。
「私、昨日お見合いしたの」
カルラから発した想定外なその言葉に俺は少々驚き動揺する。
しかし俺は冷静に戻り「そうか」と応える。
「カルラはもうお見合いできる年齢だもんな、お見合い相手の人どうだった?」
俺がそう聞くと、カルラは不機嫌そうな表情で俺に言った。
「カイザーお兄さまは、今の聞いてなんとも思ってないの?」
「えっと、それはどう意味で?」
カルラのいきなりの問いに俺は戸惑いながらも受け応える。
「今日のお見合い相手、バウマン家公爵の嫡男、ブルーノ・バウマンで、父上の主君の息子にあたるんだけど、その人上から目線な上に態度がでかくていやだったの、『俺のような公爵の跡継ぎと結婚できること、感謝しろ』だってさ、あんなのと婚姻を結ぶくらいなら、いっそ死んだ方がマシだわ」
「相変わらず刺々しい発言だな、それで、結局お見合いはどうなったんだ?」
俺の問いにカルラは満面の笑みで俺に言った。
「もちろん断ったわ、ついでに『誰があなたのような家柄しか取り柄のない人と結婚しますか』て言ってやったわ」
カルラは両腕をいっぱいに広げて高らかに言う。
俺は「ははは……」と苦笑するしかなかった。
「こんなこと言うのもあれだけど、いくら嫌な相手でも公爵の息子だぞ、恨まれたりしたら後々ヤバいだろ」
「だって嫌だったもん、お見合いの後父上に怒られたけど、あんな人二度とごめんだわ」
カルラはもう13歳と成長につれて見た目も体つきも少し大人びていて美人だが、まだカルラが小さかった頃の無邪気な子供っぽさな面影は残っていた。
「せめてカイザーお兄さまのような人だったら、一生添い遂げられるのに……」
「えっ…!?」
カルラの言葉に俺は混乱し、冷静さを失いそうになる。
カルラも自身の言ったことに気づいたのか、カルラは顔を赤面させ、顔を覆い隠した。
「カ、カルラ、い、今の、どういう―」
「なし!今のなし!」
カルラは片手で顔を隠しながらもう片方の手でストップのジェスチャーをして発言を遮る。
「……」
「……急に黙らないでよ」
その後しばらく静寂の空気が流れたが、数分が経つと、カルラの方から俺に話しかけてきた。
「この際だからはっきり言うわ、私、カイザーお兄さまのことが…」
俺は聞き逃さまいと耳に全神経を集中させた。
「好きなの…大好きなの…ずっと前から…カイザーお兄さまのことが…」
カルラの告白に俺は驚きのあまり全身が固まってしまう、それでも最後までカルラの決死の告白を全て聞く。
「だから…私は…誰でもない…ただ一人…カイザーお兄さまと一緒に添い遂げたい…それが私の気持ち」
声を震わせながら俺にそう言い、最後の方では俺に視線を向けず俯いてしまっていた。
カルラ……。
俺はカルラに近づき、俯いているカルラに頭をポンっとおいて撫でる。
よしよしすると、カルラは撫でられる犬のように目を閉じてキュッとした表情になった。
「ちょっ!いきなりなんで撫でるの!?そこは普通…告白の返事とかでしょ!?」
「ごめん、なんか撫でたくなった、悪い」
「もう…せっかく勇気だして告白したのに…」
頬を膨らませながら拗ねるカルラに俺はついフッと噴き出してしまった。
反応がおもしろかったのもあるが、同時にカルラのことをすごく可愛く思えてしまったからだ。
「カルラ、俺なんかのこと好きになってくれてありがとな」
そう言うとカルラはパアっと満面の笑みを浮かべ、そして何か吹っ切れたのか、俺の方に倒れるように寄りかかり泣いた。
カルラが泣くところを見るのは久々だった。
「やっと言えた…やっと…気持ち伝えられた…」
カルラは涙を浮かべて俺にそう言った。
そのときのカルラの表情は前世も含めて今まで見た中で一番綺麗だった。
「カルラ、せっかく告白してくれたとこ悪いんだが、返事もう少し待ってくれないか?」
俺にはすぐ即答できる自信がなかった、俺は農民の父と元侍女の母との間に生まれたいわゆる下級市民だ、家庭教師という役職で多少の地位は獲得できたものの、まだ伯爵の娘と婚姻を結べる立場にないのだ。
「もしかして、身分のこと気にしてるの?」
しかし、カルラには俺の真意がお見通しのようだ。
カルラはさらに俺に詰め寄って聞いて来る。
「俺はカルラとアルベルトの家庭教師で、カルラは伯爵のお嬢様、立場が違う」
俺がそう言っても、カルラは引き下がらなかった。
「立場が違えば、たとえ愛する人でも愛しちゃだめなんですか?私はそうは思わない」
カルラはさらに続けて言う。
「人を好きになるのに身分も立場も関係ない、私はただ、カイザーお兄さま…いえ…カイザー・バシュ、あなたを心から愛してます、誰よりも…」
俺は…まさか”再び”こんなにも愛されることが二度目の人生で起こるとは思いもしなかった。
もう二度と、愛する人を作らないと転生してすぐに決意したのに、俺が人を…一人の女性をまたこうして愛してしまうのは60年ぶりだな。
かつての光景と今の光景とが重なり、俺も一瞬涙を浮かべそうになった。
それでも俺は涙を浮かべるのを抑え、カルラの方に視線を向ける。
「カルラの気持ち、よくわかった、でも、やっぱり考える時間がほしい、近く、必ず返事するから、もう少し待ってくれないか?」
カルラは両手を後ろに移して「どうしよっかな~」と踊るように回って考え込む。
そして、カルラは回るのを止め、俺の顔をじっと見つめながら言った。
「いいよ、カイザーお兄さまからの返事…待ってるから」
―三日後
「そろそろ着くころじゃないかカイザー、やっぱり自分の家が一番だわ」
「そうだな」
早朝からデリング先生の家を出て、かなり時間が経ち、もう日が降りようとしていた。
着いた時には日はもう完全に落ちているだろう。
「あ、そうそう、カイザー、ちゃんとカルラに返事、しろよな」
「わかってるよアルベルト、俺も、覚悟決めたから」
「おう、俺も応援してるからさ、カルラの相手がカイザーなら反対しねえし」
帰ったらカルラに告白の返事をしよう、俺も、カルラと幸せになりたい。
俺はこの15年の人生で初めて転生の機会をくれた女神に感謝した。
こんな俺にも、これから愛する人と幸せになれるのだから、たとえどんな困難が待ち受けようと、カルラ、そして親友のアルベルトがいれば何も怖くない。
「そういや、なんか煙臭いな」
アルベルトがそう呟いた次の瞬間、馬車を運転していた御者が突如俺たちに大声で言った。
「アルベルト御一行様!大変です!町全体が火事に見舞われてます!」
御者のその言葉に俺とアルベルトの間で戦慄が走った。
俺は馬車の窓から町の方角を見ると、そこは火の海に包まれていた。
あまりの光景に俺は唖然とする。
「火事だと!馬鹿な!今すぐに迎え!早く!」
アルベルトが必死の形相で御者に言うと、馬車の速度が上がった。
「父上…母上…カルラ…無事でいてくれ」
アルベルトがこんなに焦るの見るのは初めてだった、そして俺もアルベルトと同じく焦りの気持ちでいっぱいだった。
「なんだよ…これ…」
俺は目の前にある光景に絶句した。
町があちこちに焼け、住居の原型をも留めていない、各方向から悲鳴も聞こえる。
「おい…カイザー…あれ」
隣にいるアルベルトがとある方向に向けて指さす。
指さした方向には、フューラー家の城が大火災に見舞われ、所々に城の一部が崩れ落ちていく。
「一体…何が…?」
「カイザー!隠れろ!ほらあんたも!」
アルベルトが突如俺と御者を草村に引っ張り、身を隠す。
すると、火の手から鎧を着た兵士たちがぞろぞろと現れた。
その兵士たちに俺は見覚えがあった。
銀で覆われた鎧に王国の紋章が付いている兵士たち……間違いない、あれは王国直属の兵士たちだ。
しかしなぜだ?王国兵は有事の時か国内の反乱鎮圧の時しか出動しないはず。
「なんでこんなところに王国兵が?まさか…あいつらが町を?」
「わからない、でも、ただの火災ではないってことだけはわかる、まだ様子を見よう」
俺はアルベルトにそう言い、しばらく様子を見ることにした。
兵士らは、まだ生き残っていた町の人々を一人…また一人と無惨に殺していった、まるで、殺すことを楽しんでるかのように、同じ人間とは思えない所業を躊躇もなくやっていた。
近くに二人の兵士が何やら話していたので、俺は二人の兵士の会話に聞き耳を立てる。
兵士たちの会話の内容に俺の中で衝撃が走った。
「つい今さっきフューラー家のお嬢様が見つかったみたいだぜ、当主も奥方も処刑されたから、お嬢様も処刑される感じか?」
「多分そうなるだろうな、それにしてもかわいそうだな、たしかまだ13になったばかりの女子だそうだ」
兵士のその言葉に俺は草村から飛び出そうとしたところをアルベルトに「落ち着け」と言われ静止される。
「でも!」
「カイザーの気持ちは俺が一番わかってる、だから今は落ち着―」
アルベルトが何か言いかけた途端、火の手の奥の方から兵士の掛け声が響いた。
「フューラー家当主の長女!カルラ・フューラーの首打ち取ったぞー!!」
それを聞いた瞬間、俺の視界が真っ暗になった。
兵士が言ったことがどうしても信じられなかった、昨日まではいつも俺たちに笑顔を見せていたあのカルラが死んだなんて……。
隣ではアルベルトも兵士の掛け声を聞いたようだった。
アルベルトはその場で声を上げぬよう耐えながらも泣き崩れ、強く握る拳から血がにじみ出ている。
カルラを打ち取った合図から数分と経つと、役目を終えたように次々に町から兵士たちがぞろぞろと退散していった。
兵士の群れの中には、三つの長い槍の刃先に何かか刺さったままになっていた。
それが何かを目で凝視する。
だがその後、刺さったままになっていたものを見ようとした自分を後悔した。
刺さったままになっていたそれは、アルベルトの父…当主と母、そして……カルラの三人の生首だった。
”無事帰ってきてね、カイザーお兄様”
デリング先生宅に向かう直前に言われた言葉、その時それがまさかカルラの最後の言葉になるとは夢にも思わなかった。
あの後俺たちは、隣町まで馬車で向かったが、隣町までの距離がまだあったので、途中で野宿することになった。
「あの…どうぞ、アルベルト様、カイザー様」
馬車の御者…バティスト・エルベは即席で作ったスープを俺たちに手渡した。
だが、槍の刃先に刺さったカルラたちの首を見てしまった俺たちに食欲なんて湧かなかった。
カルラを失った悲しみに俺の中には後悔と王国への恨みしか残っていなかった。
そして、アルベルトも同じだった。
「どうしてだ?どうして父上も母上もカルラも殺されなくちゃいけねえんだ?それに…町の皆もだ、おかしいだろ…」
町の人々やカルラとその両親が殺された光景を再び思い出し、俺は憤る気持ちになる。
おそらく俺の両親もすでに殺されてるだろう、最後に両親に会ったのは、出かける前の家の玄関で見送りしてくれたのが最後だった。
これは、俺が前世で犯した罪に対する天罰なのか?だとしても、カルラたちには関係ないだろ、もし本当に俺への天罰なら、どうしてカルラたちも巻き込んだ?なぜだ?俺はただ…みんなと幸せに暮らしただけなのに…それだけの罪を俺は犯したというのか?
俺はふと女神の言葉を思い出す。
『”二度目の人生で真っ当に生きる”それが神である私があなたに与えた試練です』
むしろ、俺がこの世界で真っ当に生きようとしてるのを邪魔してるだけじゃないか。
女神が本当に望んでるのはなんだ?俺が絶望するところを見ることか?だとしたら悪趣味だな。
「あのう、こんな時になんですが、日が出ましたらそのまま隣町へ向かいますか?」
馬車の御者のバティストが俺とアルベルトに尋ねられ、俺はアルベルトと今後の行先を考え込む。
そして、俺は一つの行先が思い浮び、それをアルベルトとバティストに伝えた。
「もう一度デリング先生の自宅に戻るのはどうかな?」
俺の提案にアルベルトと御者のバティストも頷く、デリング先生なら俺たちを助けてくれるかもしれない。
「ああ、カイザーの言う通り、それが一番かもしれないな、デリング先生ならこの状況わかってくれるかもしれないし、それに…デリング先生は前に王族の教育係を務めたことがあるから、何か知ってるかもしれないしな」
「ああ、あと一応王都を通らないで行こう、遠回りになるが、もしかしたら俺たちは王国兵に追われる対象かもしれないしな、もちろんあなたも」
そう言って俺はバティストの方に視線を向けた。
「うええ!?私もですか!?ああでも…たしかに私もフューラー家直属の馬車使いだし…フューラー家に仕えてからもう5年も経つから、反逆者も同然か……」
今置かれてる状況に余程応えたのか、バティストはシュンッ…となり、顔が下向きになって落ち込む。
「俺たちがこの国の反逆者なのは腑に落ちないな…」
「まあ今となっちゃあどうしようもない、今はこれからのことを考えようぜ、そうとなればちゃっちゃとバティストが作ってくれたスープでも飲むか」
アルベルトは無理な作り笑いをしながら俺たちにそう言った。
そうだよな、つらいのは俺だけじゃない、アルベルトもつらいはずだよな。
こうして俺とアルベルトは、バティストが作ったスープを飲み、明日に向けて準備を始めた。
昨日家庭教師としていつものようにカルラに勉強を教えにいき、その後終了の鐘が鳴り俺は「今日はここまでにしとくか」と言うと、「門まで送る」とカルラが言い出し、俺はカルラと一緒に城の門まで歩く。
門にたどり着き、俺はカルラに「じゃあまた」と言って自宅に帰ろうとした瞬間、突如カルラが「ちょっと待って」と俺に声を掛けた。
「どうした?カルラ」
「えっと…その…」
カルラは俺に何か言いたげな様子で俺を見つめていた、カルラが話し始めるまでしばらく待つと、カルラは一旦深呼吸し、そしてゆっくり口を開いた。
「私、昨日お見合いしたの」
カルラから発した想定外なその言葉に俺は少々驚き動揺する。
しかし俺は冷静に戻り「そうか」と応える。
「カルラはもうお見合いできる年齢だもんな、お見合い相手の人どうだった?」
俺がそう聞くと、カルラは不機嫌そうな表情で俺に言った。
「カイザーお兄さまは、今の聞いてなんとも思ってないの?」
「えっと、それはどう意味で?」
カルラのいきなりの問いに俺は戸惑いながらも受け応える。
「今日のお見合い相手、バウマン家公爵の嫡男、ブルーノ・バウマンで、父上の主君の息子にあたるんだけど、その人上から目線な上に態度がでかくていやだったの、『俺のような公爵の跡継ぎと結婚できること、感謝しろ』だってさ、あんなのと婚姻を結ぶくらいなら、いっそ死んだ方がマシだわ」
「相変わらず刺々しい発言だな、それで、結局お見合いはどうなったんだ?」
俺の問いにカルラは満面の笑みで俺に言った。
「もちろん断ったわ、ついでに『誰があなたのような家柄しか取り柄のない人と結婚しますか』て言ってやったわ」
カルラは両腕をいっぱいに広げて高らかに言う。
俺は「ははは……」と苦笑するしかなかった。
「こんなこと言うのもあれだけど、いくら嫌な相手でも公爵の息子だぞ、恨まれたりしたら後々ヤバいだろ」
「だって嫌だったもん、お見合いの後父上に怒られたけど、あんな人二度とごめんだわ」
カルラはもう13歳と成長につれて見た目も体つきも少し大人びていて美人だが、まだカルラが小さかった頃の無邪気な子供っぽさな面影は残っていた。
「せめてカイザーお兄さまのような人だったら、一生添い遂げられるのに……」
「えっ…!?」
カルラの言葉に俺は混乱し、冷静さを失いそうになる。
カルラも自身の言ったことに気づいたのか、カルラは顔を赤面させ、顔を覆い隠した。
「カ、カルラ、い、今の、どういう―」
「なし!今のなし!」
カルラは片手で顔を隠しながらもう片方の手でストップのジェスチャーをして発言を遮る。
「……」
「……急に黙らないでよ」
その後しばらく静寂の空気が流れたが、数分が経つと、カルラの方から俺に話しかけてきた。
「この際だからはっきり言うわ、私、カイザーお兄さまのことが…」
俺は聞き逃さまいと耳に全神経を集中させた。
「好きなの…大好きなの…ずっと前から…カイザーお兄さまのことが…」
カルラの告白に俺は驚きのあまり全身が固まってしまう、それでも最後までカルラの決死の告白を全て聞く。
「だから…私は…誰でもない…ただ一人…カイザーお兄さまと一緒に添い遂げたい…それが私の気持ち」
声を震わせながら俺にそう言い、最後の方では俺に視線を向けず俯いてしまっていた。
カルラ……。
俺はカルラに近づき、俯いているカルラに頭をポンっとおいて撫でる。
よしよしすると、カルラは撫でられる犬のように目を閉じてキュッとした表情になった。
「ちょっ!いきなりなんで撫でるの!?そこは普通…告白の返事とかでしょ!?」
「ごめん、なんか撫でたくなった、悪い」
「もう…せっかく勇気だして告白したのに…」
頬を膨らませながら拗ねるカルラに俺はついフッと噴き出してしまった。
反応がおもしろかったのもあるが、同時にカルラのことをすごく可愛く思えてしまったからだ。
「カルラ、俺なんかのこと好きになってくれてありがとな」
そう言うとカルラはパアっと満面の笑みを浮かべ、そして何か吹っ切れたのか、俺の方に倒れるように寄りかかり泣いた。
カルラが泣くところを見るのは久々だった。
「やっと言えた…やっと…気持ち伝えられた…」
カルラは涙を浮かべて俺にそう言った。
そのときのカルラの表情は前世も含めて今まで見た中で一番綺麗だった。
「カルラ、せっかく告白してくれたとこ悪いんだが、返事もう少し待ってくれないか?」
俺にはすぐ即答できる自信がなかった、俺は農民の父と元侍女の母との間に生まれたいわゆる下級市民だ、家庭教師という役職で多少の地位は獲得できたものの、まだ伯爵の娘と婚姻を結べる立場にないのだ。
「もしかして、身分のこと気にしてるの?」
しかし、カルラには俺の真意がお見通しのようだ。
カルラはさらに俺に詰め寄って聞いて来る。
「俺はカルラとアルベルトの家庭教師で、カルラは伯爵のお嬢様、立場が違う」
俺がそう言っても、カルラは引き下がらなかった。
「立場が違えば、たとえ愛する人でも愛しちゃだめなんですか?私はそうは思わない」
カルラはさらに続けて言う。
「人を好きになるのに身分も立場も関係ない、私はただ、カイザーお兄さま…いえ…カイザー・バシュ、あなたを心から愛してます、誰よりも…」
俺は…まさか”再び”こんなにも愛されることが二度目の人生で起こるとは思いもしなかった。
もう二度と、愛する人を作らないと転生してすぐに決意したのに、俺が人を…一人の女性をまたこうして愛してしまうのは60年ぶりだな。
かつての光景と今の光景とが重なり、俺も一瞬涙を浮かべそうになった。
それでも俺は涙を浮かべるのを抑え、カルラの方に視線を向ける。
「カルラの気持ち、よくわかった、でも、やっぱり考える時間がほしい、近く、必ず返事するから、もう少し待ってくれないか?」
カルラは両手を後ろに移して「どうしよっかな~」と踊るように回って考え込む。
そして、カルラは回るのを止め、俺の顔をじっと見つめながら言った。
「いいよ、カイザーお兄さまからの返事…待ってるから」
―三日後
「そろそろ着くころじゃないかカイザー、やっぱり自分の家が一番だわ」
「そうだな」
早朝からデリング先生の家を出て、かなり時間が経ち、もう日が降りようとしていた。
着いた時には日はもう完全に落ちているだろう。
「あ、そうそう、カイザー、ちゃんとカルラに返事、しろよな」
「わかってるよアルベルト、俺も、覚悟決めたから」
「おう、俺も応援してるからさ、カルラの相手がカイザーなら反対しねえし」
帰ったらカルラに告白の返事をしよう、俺も、カルラと幸せになりたい。
俺はこの15年の人生で初めて転生の機会をくれた女神に感謝した。
こんな俺にも、これから愛する人と幸せになれるのだから、たとえどんな困難が待ち受けようと、カルラ、そして親友のアルベルトがいれば何も怖くない。
「そういや、なんか煙臭いな」
アルベルトがそう呟いた次の瞬間、馬車を運転していた御者が突如俺たちに大声で言った。
「アルベルト御一行様!大変です!町全体が火事に見舞われてます!」
御者のその言葉に俺とアルベルトの間で戦慄が走った。
俺は馬車の窓から町の方角を見ると、そこは火の海に包まれていた。
あまりの光景に俺は唖然とする。
「火事だと!馬鹿な!今すぐに迎え!早く!」
アルベルトが必死の形相で御者に言うと、馬車の速度が上がった。
「父上…母上…カルラ…無事でいてくれ」
アルベルトがこんなに焦るの見るのは初めてだった、そして俺もアルベルトと同じく焦りの気持ちでいっぱいだった。
「なんだよ…これ…」
俺は目の前にある光景に絶句した。
町があちこちに焼け、住居の原型をも留めていない、各方向から悲鳴も聞こえる。
「おい…カイザー…あれ」
隣にいるアルベルトがとある方向に向けて指さす。
指さした方向には、フューラー家の城が大火災に見舞われ、所々に城の一部が崩れ落ちていく。
「一体…何が…?」
「カイザー!隠れろ!ほらあんたも!」
アルベルトが突如俺と御者を草村に引っ張り、身を隠す。
すると、火の手から鎧を着た兵士たちがぞろぞろと現れた。
その兵士たちに俺は見覚えがあった。
銀で覆われた鎧に王国の紋章が付いている兵士たち……間違いない、あれは王国直属の兵士たちだ。
しかしなぜだ?王国兵は有事の時か国内の反乱鎮圧の時しか出動しないはず。
「なんでこんなところに王国兵が?まさか…あいつらが町を?」
「わからない、でも、ただの火災ではないってことだけはわかる、まだ様子を見よう」
俺はアルベルトにそう言い、しばらく様子を見ることにした。
兵士らは、まだ生き残っていた町の人々を一人…また一人と無惨に殺していった、まるで、殺すことを楽しんでるかのように、同じ人間とは思えない所業を躊躇もなくやっていた。
近くに二人の兵士が何やら話していたので、俺は二人の兵士の会話に聞き耳を立てる。
兵士たちの会話の内容に俺の中で衝撃が走った。
「つい今さっきフューラー家のお嬢様が見つかったみたいだぜ、当主も奥方も処刑されたから、お嬢様も処刑される感じか?」
「多分そうなるだろうな、それにしてもかわいそうだな、たしかまだ13になったばかりの女子だそうだ」
兵士のその言葉に俺は草村から飛び出そうとしたところをアルベルトに「落ち着け」と言われ静止される。
「でも!」
「カイザーの気持ちは俺が一番わかってる、だから今は落ち着―」
アルベルトが何か言いかけた途端、火の手の奥の方から兵士の掛け声が響いた。
「フューラー家当主の長女!カルラ・フューラーの首打ち取ったぞー!!」
それを聞いた瞬間、俺の視界が真っ暗になった。
兵士が言ったことがどうしても信じられなかった、昨日まではいつも俺たちに笑顔を見せていたあのカルラが死んだなんて……。
隣ではアルベルトも兵士の掛け声を聞いたようだった。
アルベルトはその場で声を上げぬよう耐えながらも泣き崩れ、強く握る拳から血がにじみ出ている。
カルラを打ち取った合図から数分と経つと、役目を終えたように次々に町から兵士たちがぞろぞろと退散していった。
兵士の群れの中には、三つの長い槍の刃先に何かか刺さったままになっていた。
それが何かを目で凝視する。
だがその後、刺さったままになっていたものを見ようとした自分を後悔した。
刺さったままになっていたそれは、アルベルトの父…当主と母、そして……カルラの三人の生首だった。
”無事帰ってきてね、カイザーお兄様”
デリング先生宅に向かう直前に言われた言葉、その時それがまさかカルラの最後の言葉になるとは夢にも思わなかった。
あの後俺たちは、隣町まで馬車で向かったが、隣町までの距離がまだあったので、途中で野宿することになった。
「あの…どうぞ、アルベルト様、カイザー様」
馬車の御者…バティスト・エルベは即席で作ったスープを俺たちに手渡した。
だが、槍の刃先に刺さったカルラたちの首を見てしまった俺たちに食欲なんて湧かなかった。
カルラを失った悲しみに俺の中には後悔と王国への恨みしか残っていなかった。
そして、アルベルトも同じだった。
「どうしてだ?どうして父上も母上もカルラも殺されなくちゃいけねえんだ?それに…町の皆もだ、おかしいだろ…」
町の人々やカルラとその両親が殺された光景を再び思い出し、俺は憤る気持ちになる。
おそらく俺の両親もすでに殺されてるだろう、最後に両親に会ったのは、出かける前の家の玄関で見送りしてくれたのが最後だった。
これは、俺が前世で犯した罪に対する天罰なのか?だとしても、カルラたちには関係ないだろ、もし本当に俺への天罰なら、どうしてカルラたちも巻き込んだ?なぜだ?俺はただ…みんなと幸せに暮らしただけなのに…それだけの罪を俺は犯したというのか?
俺はふと女神の言葉を思い出す。
『”二度目の人生で真っ当に生きる”それが神である私があなたに与えた試練です』
むしろ、俺がこの世界で真っ当に生きようとしてるのを邪魔してるだけじゃないか。
女神が本当に望んでるのはなんだ?俺が絶望するところを見ることか?だとしたら悪趣味だな。
「あのう、こんな時になんですが、日が出ましたらそのまま隣町へ向かいますか?」
馬車の御者のバティストが俺とアルベルトに尋ねられ、俺はアルベルトと今後の行先を考え込む。
そして、俺は一つの行先が思い浮び、それをアルベルトとバティストに伝えた。
「もう一度デリング先生の自宅に戻るのはどうかな?」
俺の提案にアルベルトと御者のバティストも頷く、デリング先生なら俺たちを助けてくれるかもしれない。
「ああ、カイザーの言う通り、それが一番かもしれないな、デリング先生ならこの状況わかってくれるかもしれないし、それに…デリング先生は前に王族の教育係を務めたことがあるから、何か知ってるかもしれないしな」
「ああ、あと一応王都を通らないで行こう、遠回りになるが、もしかしたら俺たちは王国兵に追われる対象かもしれないしな、もちろんあなたも」
そう言って俺はバティストの方に視線を向けた。
「うええ!?私もですか!?ああでも…たしかに私もフューラー家直属の馬車使いだし…フューラー家に仕えてからもう5年も経つから、反逆者も同然か……」
今置かれてる状況に余程応えたのか、バティストはシュンッ…となり、顔が下向きになって落ち込む。
「俺たちがこの国の反逆者なのは腑に落ちないな…」
「まあ今となっちゃあどうしようもない、今はこれからのことを考えようぜ、そうとなればちゃっちゃとバティストが作ってくれたスープでも飲むか」
アルベルトは無理な作り笑いをしながら俺たちにそう言った。
そうだよな、つらいのは俺だけじゃない、アルベルトもつらいはずだよな。
こうして俺とアルベルトは、バティストが作ったスープを飲み、明日に向けて準備を始めた。
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前世の彼は両親に《悪魔の子》と忌み嫌われた末、殺された。
だがそれも、1度や2度のことではない。
彼は幾つもの前世を持ち、その全てで《悪魔の子》として殺された。
なぜ自分が《悪魔の子》と呼ばれるのかは分からない。
次の転生があるかもわからない。
そして何より、殺されたくない。
だから少年は決意する。
今度は自分が奪う側に、虐げる側になる、と。
レイヴァンには産まれた時から人ならざる者《レギオン》へと変異する力が備わっていた。
異形の化け物へと姿を変え、数多の命を《喰らう》ことでどこまでも成長する。
これを極めることができれば、死の運命を回避できるかもしれない。
とたえその為に、数多の命を奪うことになろうとも。
そしてレイヴァンは成長と共にその邪悪な本性を開花させていく。
―どうやって死にたい?どうやって殺されたい?―
ランタンの中でしか生きられない悪意の権化。
新たに召し抱えられた黒衣の騎士。
美しくも不気味な大公家の双子の令嬢。
どこまでも純粋な金色の獅子。
黄昏の空に憧れる双頭の鷲。
レイヴァンの命を狙う聖典の騎士団。
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2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
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小説家になろうで執筆中の作品です。
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