プロポーズの夜に~交際ゼロ日婚~

さとう涼

文字の大きさ
上 下
2 / 7

プロポーズの夜に~交際ゼロ日婚~(2)

しおりを挟む
 ところで、これからどうしよう。わたしは裸なのに、彼の動きは止まったままで、再開する様子はない。
 仕方なく、腕を伸ばして手さぐりでベッドの下をあさる。

「なにやってんだよ?」
「とりあえず、服を着ようかと……」

 そのとき、ちょうどショーツが指にひっかかった。
 あったと、その満足げな顔がまずかったのかもしれない。

「なにがおかしいんだよ?」

 わたしはそういうつもりじゃなかったのに……。
 そういう意味じゃなくて、ただ単にさがしあてられたという達成感からくるものだったのだけれど。

「そんなに帰りたいか? なら帰れよ」

 わたしがショーツを手にしていることに気がつき、救いようのないことを言う。

「ちょっと、なにもそこまで言うことないじゃない」

 彼はわたしの上から退いて、隣にゴロンと寝転んだ。
 完全にふて寝だ。

「ほんとに帰っちゃうよ?」

 薄手のブランケットを身体にかけながら半分意地悪のつもりで言って、とりあえずショーツを手のなかにしっかりとおさめる。すると、「そうはいくかよ」と起き上がった彼がわたしの手のなかにあるショーツを遠くに放り投げた。
 うわっ、サイテーだ、この男。

「なんだよ、その目は」
「……いや、なんかもういいや」

 怒る気にもならない。くしゃっと情けなく転がる自分のショーツを見て、すっかり気が抜けてしまった。

「それよりお腹減らない? なにか食べようよ」

 ムードなんてこれっぽっちも残っていない。今さらなのでそう提案する。
 すると彼は少し考える素振りを見せて、こう言った。

「男は空腹のほうが、性欲が増して強くなるんだよ」
「だからこのまま続けるっていうこと?」
「ああ、悪いかよ」

 なんだかなあ。そんなふうに威張られても。それこそこっちは性欲なんてすっかり失せてしまったんだけれど。
 まるで男としての本能なんだぞと動物的に抱かれるみたいで抵抗がある。
 それに彼とこういう言い合いも初めてで、この先の未来をともにすると決めたのに、最初からこんな感じで大丈夫なのかと急に不安が襲った。

「ねえ? わたしのこと、ほんとに好き?」

 よほど不安そうに見えたのだろうか。彼は一瞬ハッとした表情を見せる。

「どうでもいい女にプロポーズするわけないだろう。だいたい、好きとか、そんな軽い言葉では言い表せないよ。九年前に初めて出会って、会わない間も再会してからも、おまえのこと忘れられなかったよ」
「え……」

 深い愛情のこもったセリフに身体の芯から熱くなる。
 彼が生きてきた二十六年間のうち、九年という歳月にわたしがいられたのだと考えたら、胸がいっぱいになって言葉にならない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~

さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、 自分が特別な存在だと錯覚できる…… ◇◇◇ 『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。 主人公は大学生→社会人となりました! ※先に『恋い焦がれて』をお読みください。 ※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください! ※女性視点・男性視点の交互に話が進みます

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

元妻

Rollman
恋愛
元妻との画像が見つかり、そして元妻とまた出会うことに。

禁断

wawabubu
恋愛
妹ののり子が悪いのだ。ああ、ぼくはなんてことを。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...