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伯爵令嬢、エマ・ケリー
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「ああ……」
きちんと言葉にされたアランは脱力したよう背を丸め、強く目を瞑り。まるで神にでも感謝をするかのように組んだ両手を額に当てた。
「アラン」
名を呼ばれ横を見上げると、申し訳なさそうに笑うエマが唇を震わせたまま、
「待たせてごめん」
と言うから。
アランはもう夢じゃないと胸がいっぱいになって破顔した。
「まったくだ……馬鹿エマ」
その表情が何よりも好きだという気持ちを物語っているので思わず見惚れてしまう。
だがいつもの口調で、ふん、と顔を背けた。
「何よ……ほんと無神経ね。せっかく素直な気持ちで伝えた挙句に謝ったのに」
それを仕方のないやつ、とアランが組んだ両手を解いてエマの頬に指を伸ばし滑らせた。
手のひらで覆い自身の方へ向かせるよう誘導する。
視線が繋がるとエマが呆れたような目付きで、
「慣れた手つき」
なんて頬を少し膨らませるから笑ってしまう。
「馬鹿だな」と宥めるように白状した。
「何度エマに触れることを、俺が夢見たと思う?」
「は、はずかしげもなく貴方……っ!」
やはり情緒もないので、はいはい、と手を離し、そろそろ戻ろうと立ち上がったアランがジャケットを掴み背もたれにかけた。
それを恥ずかしそうに視線を逸らすので、
「……まだ寒いかもな」
とため息混じりで地面に膝をつくと、エマに靴を履かせてやる。
向かい合わせに立ち上がらせて目を離さない自分に、今度は不思議そうに見上げているので、無防備だよなと思ってしまう。
両手でジャケットを広げると、
「やはりもう少し着ていた方が良い」
羽織らせる仕草で、頭上から被せて素早くジャケットの上衿を掴んだまま引き寄せる。
思いもよらなかったエマはされるがまま、足をもたつかせてまたアランの爪先を踏んでしまう。
「あっ!」
目線を下げようとした時、アランが屈んで下から顔を近付け、掬うような触れるだけの口付けをした。
それは本当に一瞬の出来事で。
呆然と固まり上がった肩に何食わぬ顔でまたジャケットが掛けられる。
少し乱れた髪をアランに苦笑しながら撫でられていると、はっと我に返ったエマがまた顔を真っ赤にさせ目を釣りあげた。
「こんなところでっ」
「顔、隠してやっただろう?」
「そういう問題ではないじゃない!」
「エマが可愛いのが悪い」
「かっ、かわ……!」
両の下衿を手繰り、ばくばくと煩い胸を乱暴に隠す。
そのすべてがたまらないとばかりにアランが飽きずにまた囁いた。
「いつだってエマは可愛いな」
「でも可愛げがないって、言ってたじゃない」
「それは俺の気持ちに気付かずに他の男とワインを空けたりするからだろう? おろしたてのシャツに水までかけて」
「回りくどいのよっ!」
その台詞に少し哀愁を含んだ笑みでアランが言う。
「まあ、あの時に言っても。聞き入れてはくれないと分かっていたからな」
「あ……ごめんなさい」
(そうだわ。あの時は反発ばかりしていたから。私がずっと待たせていたのよね……忘れてはいけないわ)
エマが視線を落とした。「それでも」とアランが晴れやかな声で手を差し出す。
「これほど満たされた気持ちでエマの隣りに居られるのだから。あれくらいは些細な時間だ」
「アラン……」
手を受けたエマも彼の優しい言葉に頷き、二人は穏やかな雰囲気を纏いながらテラスを後にした。
きちんと言葉にされたアランは脱力したよう背を丸め、強く目を瞑り。まるで神にでも感謝をするかのように組んだ両手を額に当てた。
「アラン」
名を呼ばれ横を見上げると、申し訳なさそうに笑うエマが唇を震わせたまま、
「待たせてごめん」
と言うから。
アランはもう夢じゃないと胸がいっぱいになって破顔した。
「まったくだ……馬鹿エマ」
その表情が何よりも好きだという気持ちを物語っているので思わず見惚れてしまう。
だがいつもの口調で、ふん、と顔を背けた。
「何よ……ほんと無神経ね。せっかく素直な気持ちで伝えた挙句に謝ったのに」
それを仕方のないやつ、とアランが組んだ両手を解いてエマの頬に指を伸ばし滑らせた。
手のひらで覆い自身の方へ向かせるよう誘導する。
視線が繋がるとエマが呆れたような目付きで、
「慣れた手つき」
なんて頬を少し膨らませるから笑ってしまう。
「馬鹿だな」と宥めるように白状した。
「何度エマに触れることを、俺が夢見たと思う?」
「は、はずかしげもなく貴方……っ!」
やはり情緒もないので、はいはい、と手を離し、そろそろ戻ろうと立ち上がったアランがジャケットを掴み背もたれにかけた。
それを恥ずかしそうに視線を逸らすので、
「……まだ寒いかもな」
とため息混じりで地面に膝をつくと、エマに靴を履かせてやる。
向かい合わせに立ち上がらせて目を離さない自分に、今度は不思議そうに見上げているので、無防備だよなと思ってしまう。
両手でジャケットを広げると、
「やはりもう少し着ていた方が良い」
羽織らせる仕草で、頭上から被せて素早くジャケットの上衿を掴んだまま引き寄せる。
思いもよらなかったエマはされるがまま、足をもたつかせてまたアランの爪先を踏んでしまう。
「あっ!」
目線を下げようとした時、アランが屈んで下から顔を近付け、掬うような触れるだけの口付けをした。
それは本当に一瞬の出来事で。
呆然と固まり上がった肩に何食わぬ顔でまたジャケットが掛けられる。
少し乱れた髪をアランに苦笑しながら撫でられていると、はっと我に返ったエマがまた顔を真っ赤にさせ目を釣りあげた。
「こんなところでっ」
「顔、隠してやっただろう?」
「そういう問題ではないじゃない!」
「エマが可愛いのが悪い」
「かっ、かわ……!」
両の下衿を手繰り、ばくばくと煩い胸を乱暴に隠す。
そのすべてがたまらないとばかりにアランが飽きずにまた囁いた。
「いつだってエマは可愛いな」
「でも可愛げがないって、言ってたじゃない」
「それは俺の気持ちに気付かずに他の男とワインを空けたりするからだろう? おろしたてのシャツに水までかけて」
「回りくどいのよっ!」
その台詞に少し哀愁を含んだ笑みでアランが言う。
「まあ、あの時に言っても。聞き入れてはくれないと分かっていたからな」
「あ……ごめんなさい」
(そうだわ。あの時は反発ばかりしていたから。私がずっと待たせていたのよね……忘れてはいけないわ)
エマが視線を落とした。「それでも」とアランが晴れやかな声で手を差し出す。
「これほど満たされた気持ちでエマの隣りに居られるのだから。あれくらいは些細な時間だ」
「アラン……」
手を受けたエマも彼の優しい言葉に頷き、二人は穏やかな雰囲気を纏いながらテラスを後にした。
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