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性悪な聖女と社交界の花

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「婚期を……」

「花の頂点は夢を見させなければならないわ。女の幸せを捨てて、女の象徴であり続ける……皮肉でしょう、とても滑稽で、頓珍漢で。それでいて高潔で尊い唯一無二の存在なの」


貴族女性の幸せが結婚と世継ぎを産むことだ、と教え込まれてきたウィロウにはあまりにも非現実的な話だと感じた。


「それではまるで……」

「聖女のような存在でしょう?」


面白そうにレイラが顔を覗く。
月の女神も嫉妬するほどの美貌を持つ「聖女」、当時から持つウィロウの二つ名が、こんなところにまで届いていたのだ。


「ねえ、もう一度聞くわ。ずっとあの無能にいたぶられてるつもり? 助けてあげようか?」


今度はおちゃらけている様子ではない。
手の甲が、ベルベットにも似た滑らかで光沢感のある、美しい白金の髪を背に送りながら。
試すような、挑発するような目付きでそんなことを聞く。


「いいえ……結構で御座います。ほんの些細なことですので」


境遇を救って貰って何だと言うのだ。
自身を満たすのは自身でしかない。またこの貴族社会で信じられるものこそ己のみ。
この女の存在に縋ることは、ぬるま湯に浸かり慢心して、寝首を搔かれる行為に等しいと思う。
掬い上げるような視線が拒絶を更に示していた。


「やっぱり。私の目に狂いはなかったようね」


初めてレイラが立ち上がり、デスクの前にやって来きてそれに腰掛けると、足を緩く組んで身体のみ横にしてから、ドレスの裾をゆっくり付け根まで託し上げる。開演する幕が引かれるように。
それを見せつけられたウィロウは慄いた。

皺が中心に寄り集まる、ボコボコと盛り上がった変色する皮膚、火傷の痕が、その付け根から膝上にまで走っているからだ。

しかし底知れぬ闇に染まる、そんな流し目が不気味なはずだというのに妙に艶やかで。
背後から差し込む陽光を背に、もう片方の手が髪を掻き上げている。
よく見れば、まるで包む窓枠が額縁にすら思えてきた。
そこから出てきた絵画のような美しさに心が震え、その痕もアート作品の一部として添えられた尊い物に感じる。

唯一無二の存在。
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