逃亡夫

ひろりん

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逃亡夫に追いかけ妻

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『大好きです。付き合ってください』
なあんて、、ベタな告白実践するやつはいる。
そう、私だ。
目の前にはカモがゆうがに湖をお散歩中。
横は墓地。
そんな中私はおっとーに告白した。
モテないから、自分で告白して幸せを掴みに行く。これは鉄則なのだ。
私の23年間、目の前に幸せへ導いてくれる王子さま。
その名は、おっとー。

私は一目惚れだった。人生で初めての一目惚れ。
おっとーはその当時付き合ってた彼氏の友達。
どうにかおっとーのアドレスを手に入れ、毎日やり取りした。
別れたら遊んであげると言われたから、その日に別れた。
最初のデートは神戸。
何回もデートして、ついに告白の日を迎えたわけだ。
『それ、俺が先に言いたかった。』
おっとっっーーーっ!!!
エンダーティヤー!なんて頭でリトル私は舞踊っていた。
おっとーは優しさの塊だった。家族にも、彼女の私にも、周りの友達にも、レジの店員さんにも、犬にも。
優しさゆえ、おっとーはいろいろデート中に頼まれる。
『強力粉買ってきて。』
おっとー母からのtel
スーパーに行き、強力粉を購入。
『じゃっ!帰るわ』
おっとーは片道1時間かかる山奥(実家)へと消えていった。

おっとーは職場でも優しさを発揮する。そして、休日出勤、3時間の残業、夜中に仕事にいくこともある。断れないおっとー。
おっとーはいつも疲れていた。毎週のデートは寝てばかりのおっとー。
でも、一緒にいられればいい。私も一緒に寝たり、足のマッサージもした。
ある日おっとーは考え事をしながら仕事をしていた。
そして足に大ケガをおった。
3ヶ月おっとーは入院した。毎週通って、時々うなるおっとーの手を握った。
病院食がおいしくてメインのハンバーグを食べたこともいい思い出だ。

私達は7年の交際の末結婚した。
プロポーズはおっとーからだった。ブライダルフェアに行き、プロポーズを勝ち取った。
ああ、大好きなおっとーとこれから先も暮らしていけることに舞い上がった。
大好きなおっとー。婚姻届を出した時は涙が止まらなかった。

私は一人っ子だからと婿にきてくれたおっとー。
楽しい日々だった。同じ帰り道。デートはもうさよなら言わなくていい。
目の前にごはんを食べてくれるおっとー。
一緒に夜更かししてもまだいてくれる。
手を繋いで寝てくれる。大好きな大好きなおっとー。

平和な毎日。

だったはずなんだけど、
お父さんのお母さんが亡くなった。認知症のじいちゃんは私達に電話をかけた。それから5年間認知症のじいちゃんを介護する日々が始まった。
仕事から帰ってくると漏れた便を洗い、洗うとまた尿を漏らしてる。トイレの壁にはカピカピの便がこびりついていた。毎日、毎日。家に帰れば悪臭だ。私の母の毎日の叫び声、目の前の孫の名前もわからない、何回も鍵をあけては徘徊。近所の人んちに座り込み、ここはどこ?なあんて、すごいな。。認知症。菓子折りもって、謝りにいく。
警察にも何回いったかわからない。
もう家族は限界だった。
そんな時、父の妹が介護を代わるというので預けた。
その2ヶ月後じいちゃんは亡くなった。原因は老衰。
父は怒っていた。
『お前が殺したんだ!』
その半年後、父は台所で自殺した。
首を吊って。
第一発見者は私だった。
したたる尿、紫色になった顔、おもいっきりでた舌。
電話をかける手が震えた。
お母さんやおっとーは仕事で電話にでれなかった。
警察に電話した。
冷静な声に安心した。
首吊りの場合はロープを早めに切らないといけないらしい
椅子を持ってきて、キッチンバサミでロープを切った。
のしかかる父の体重。心臓のマッサージ。救急隊員がきてくれた。
病院についた。足が震えた。しばらく待って、
『手はほどこしましたが、、。』
目を見開いた父の顔は今でも忘れない
死亡の確認をして、後ろを振り返ると並ぶこわいおじさんたち。
私の家に向かい現場検証。カメラでいろいろ撮る。残ったロープを持って帰る。
そして、再び病院へ。
霊安室で父と2人。1時間。
おっとーが来てくれた。涙は出なかった。
こうなることはなんとなく想像してたかのように。母は現実を受け入れられない様子で、そのまま後は頼んだと残し、職場へ向かった。
葬式だ、納骨だ、遺品整理だ。全て私がした。

そして、父が亡くなってから2年が経った。
その頃からおっとーは外出するようになった。
行きつけの居酒屋を見つけ、実家の山奥に週1で帰る。
私はなにも言わなかった。おっとーの休日はおっとーのものだ。好きなことをさしてあげたい

私達に子どもはいない。できないんじゃない。妊活をしていないんだ。
山奥の人たちは子どもはー?なあんていつも聞いてくる度にイライラが募る。
それは山奥あるある儀式。
こどもは?こどもは?ハラスメント。
私は言い返すんだ。
『2人が楽しいので』

結婚生活3年目にもなればなにも言われなくなった。
確かに、子どものいる生活もいいのかもしれない。おっとーは多趣味だ。いや、自分の時間がないとイラつくおっとー。
バイクに、山奥の友人たちとの交流で忙しい日々を送っている。
山奥の行事は多い。
旧正月、夏、秋の墓掃除、迎え火に送り火、誰かの誕生日、木の伐採、祭り、焼き肉たべこんかーの誘い。牡蠣たべこんかーの誘い。
もうこれは行事?いや、食べものでつっているーー!
のこのこいく、おっとーと私。
おっとーの実家は好きだ。家族という感じでサザエさんみたいな。おっとーの家族もよくしてくれる。
兄嫁とも仲よしだ。
ただ、おっとーは帰る頻度が多いのだ。呼ばれてないのに帰る。もうこれはこの家にいたくないのではないかと思うほどだ。

おっとーは、昔から山奥が好きだ。
幼なじみは3人いる。昔からみんななかよしで、結婚しても集まっている。
そんなおっとーだが、きちんと夫婦行事もしてくれる。記念日には食事に行き、たまに旅行だっていく。
ただ、おっとーはなにか目的がないとデートを終了してしまうおっとー。
その名も『今日は直帰で』
なので、行事を詰め込まなければならない。私は必死だ。行きたいとこをリストアップし、おっとーに提案する。
おっとーは行きたいとこをきちんと連れていってくれる。
あの日も私は必死だった。

今日はデートだ。久々の遠出。温泉♪温泉♪おっとーは、温泉が大好きである。1日に3回入るときもある。温泉デートという名目でおっとーとのお泊まりに持ち込めた私。
この温泉いいかな?なんて、おっとーのご意見を伺い、周辺のカフェをスクショし、温泉をスクショし。よーし!おっとーとの温泉旅行準備万端!いざ!夢の国夫婦温泉旅へ!!

『明日は強い雨になるでしょう』
なーーーにーーーい??
そう、私達は雨夫婦。結婚式も新婚旅行も台風を呼び寄せた。
人生やっと快晴なのに、外は土砂降り。まー、仕方ない。宿は予約したし、ここで行かなきゃ全額支払い。
いく道はただひとつ行くしかない!

ま、、、前が見えない。
なんとか、宿にたどり着き、ゆっくり、ゆっくり。
横を見ると、おっとーは携帯でパワプロ。
重たい体重をおっとーの体に覆い被さり、就寝。
ああっ!晩ごはんたべてない。急いで温泉いき、雨の中、居酒屋へ
おっとーは、お酒に弱い。2杯くらい飲んで耳まで真っ赤になる。
からあげを持ち帰り、再びパワプロ。
こらーー!携帯触らず私を触れー!
なあんて心で叫びながら、感謝の気持ちを込めてマッサージ。
再び就寝。
朝、土砂ぶり。
『で、どこいくか決めた?』
『もちろん』
『じゃあ、行こうか。温泉』
なあんて会話をしながら土砂ぶりの中温泉いき、運良く家族風呂があり入浴。
『次は、カフェがいいなあー』
『お腹空いてないし、もう行きたいとこないなら帰ろう』
岐路についた。13:30
早すぎだろー!まあ、運転してくれてるし、いや、旅費やら居酒屋代やら出したよ?
夫婦は別財布なのである。

ありがとう。おっとー。

翌日

おっとー?どこー?

LINE『今日は外泊します』
おっとーは山奥にいった。
『晩ごはん一緒に食べるっていったじゃん。まあ、ゆっくりしてね。』
既読スルー

そんな時はいつもおっとーの枕を抱いて就寝。明日は何時に帰ってきてくれるかな。
大好き、大好きおっとー。

今日も明日も既読スルー。
だけど、めげない。だって、おっとーが大好きなんだ。
おっとーは、ツンデレだから2人のときだけ愛情を表してくれる。

おっとーの匂い、声全てが大好き。
ただ、大好きでもこんなにおっとーがいないと寂しくなるんだ。

私の歴代の元カレたちはいつまでも私を好きでいてくれた。
私の元カレは3人。その内、2人はまだ連絡をくれる。
その内の1人。イケメンくんは付き合いが長い。
学生の頃、文化祭で部活の部長同士だったイケメンくんと私。
アドレスを交換して文化祭が終わっても連絡を毎日していた。
2年付き合ったけど、別れた。それからも七夕祭りのように1年に1回イケメンくんから連絡がきていた。
おっとーが山奥に帰っていく度にイケメンくんで寂しさを埋めた。
話を聞いてもらったり、甘い言葉をささやいてもらった。
まだ、彼女のときはよかったんだ。深入りしてはいけない。
昔の記憶はおそろしく美化される。深みにはまっていくんだ。
イケメンくんは、おっとーがいても構わない人だった。イケメンくんは、私はイケメンくんがいつまでも好きと勘違い、自信家な人だった。
その自信が時として私を助けるのだった。
父が自殺した時、夢に出てきたイケメンくん。
夢の中で赤い服を着て、笑顔で手を差しのべてくれた。
夢の中での気持ちは現実に大きな影響を及ぼす。私からイケメンくんに電話をかけたのは何年ぶりだろうか。。
イケメンくんは、私の話を何時間も聞いてくれた。
『会わんといけんな』
翌日イケメンくんと会ってたわいもない話をした。
心が軽くなったのを覚えている
おっとーがかけてくれない言葉をいつもかけてくれる。おっとーが言わない、好きだよをたくさんくれる。
それは、麻薬だった。イケメン麻薬。
取り締まる人は誰もいませーーん。
イケメンくんはいつも沈んだ私にエネルギーをくれた。
私はイケメンくんと結婚すればよかったのかな。

ある日イケメンくんとホテルに入った。
初めて全身を見た。ああ、こうなってたんだなんて、イケメンくんは、ゆっくりと丁寧にしてくれた。鏡に映るイケメンくんの背中をみながら、私は蹴り飛ばした。
イケメンくんはどこにそんな力がと驚いていた。
その日以来イケメンくんとの連絡を絶った。

おっとー一途に夫婦をしている。
でも、時々隙間風が吹く。おっとーじゃ埋まらない、なにかを他で埋める。

出会い系に手を染める。今は無料でメッセージができる時代。
1日だけ、メッセージのやり取り。でも、楽しい。
かわいいねなんて、もう30超えてる私にメッセージをくれる。
似ているアナウンサーを言われて舞い上がる。
誉められたい、かわいいって言われたい、ありがとう、大好きだ。言葉をたくさん私にプレゼントしてほしい。
寂しい、寂しい。今日は誰が埋めてくれる?なんで、おっとーは誉めてくれないんだろう。
なんで、私ばかり。

おっとーがいない時は、寂しさが倍増する。おっとーはやりたいことがあるんだ。おっとーは、私といるときよりも山奥の方が楽しいんだ。
なあんていつもマイナス思考な私が覆い被さってくる。
幸せな夫婦なのに、幸せすぎて気づいてない。当たり前にあるこの生活はかけがえのないものなんだと。

おっとーの中に私はどれくらいいるのかと。考えたところでしょうがない。この日々を大切にしていこう。

逃亡夫に追いかけ妻
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みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.13 花雨

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