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第3章 秘めし小火と級友の絆編

64.火球と速さ

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「どりゃああああーーー!!!」


 ウッドランドが行った試合開始の合図とほぼ同時だったであろう。
 手から放られた風の球が、フルスイングしたホウキによって思いっきり叩きつけられたのだ。

 それは、これまでにない程に怒りを露わにした、ウィンによって繰り出されようとしている風の魔法であった。


「─────"ウィンド・ストライク"!!」


 しかし、ウィンからの先制攻撃を読んでいたのか、予め後ろに飛んでいたヒーティスは、艶のある臙脂色の前髪を手でそっと払う仕草をしながら、魔力を杖へと注ぐこむのだった。


「フッ!"ファイヤー・ボール"!!」


 ヒーティスが持つ如何にも高価そうな杖の先に、赤い炎の球が作られるや否や、それが勢いよく放たれる。
 そして、その彼が放った火の球が、向かってきた風の球にぶつかった瞬間、二人が居る場所の丁度中間の地点で小規模な爆発を引き起こしたのだ。

 それにより、ヒーティスに当てる気満々だったウィンの魔法はあっさりと無効化されてしまうのだった。


「だったら、もう一発ッ!……………"ウィンド・ストライク"!!」


 ウィンは、続け様に何発もの魔法をヒーティスに向けて放つのだが、その全てが一発目と同様に彼が迎撃のために放った火の魔法で、難なく相殺されてしまっていた。


「ムダだよ。君が何発魔法を撃とうが、私には届くことはないのさ」

「ムッキーーーー!ぜーったいに、当ててやるんだからぁ!!」

「諦めが悪いね。………だったら、君に見せてあげよう」


 ヒーティスはそう言うと、手に持っていた高価そうな杖をまるで新体操のバトンのようにクルクルと回し始める。
 やがて、魔法を放つ準備が整ったとでも言うように、杖の先を前に突き出すと赤く燃える炎の球が作られていくのだが、その球の中にキラキラと輝く金色の光が混じっているように見えたのだった。


「……………“フレイム・ボルト“!!」


 ヒーティスが、ウィンに狙いを定めると杖の先に留まっていた火球が勢いよく飛び出したのだ。


「フッフフフーン♪そんな魔法、アタシには効かないよーだ!」


 ウィンはこの時、ある事を思いついた。
 それは、ヒーティスによって放たれた火球をそのまま彼に打ち返すことで、動揺したところを一気に倒してやろうと考えたようだ。

 そして、愛用のホウキを両手でしっかりと握ると、まるで野球のバッティングのようなポーズを取ると、こちらに向かって一直線に飛んでくる火球に狙いを定めた次の瞬間であった。


「…………!?」


 なんと、突然目にも止まらぬ程に加速した火球が、あっという間にウィンの目の前まで迫っており、着弾するまで僅か一秒もなかったのだ。


「──────ちょ、速いッ!?」


 既に、ホウキで打ち返すタイミングを逃したウィンは、ギリギリではあったが上体を極限まで逸らしたことで飛んできた火球を避けることができたのだった。
 しかし、咄嗟のことだったのか上手く元の体勢に戻れずに、そのまま床にペタンと尻餅をついてしまっていたのだ。


「ほぅ。ハイスヴァルムの御曹司が、まさか“あの技“を使えるようになっていたとは意外だぜ」

「先生、ヒーティスが放った魔法について知っているのですか?」

「アレは、炎属性に光属性の特性の一つである"速さ"を掛け合わせた"合成魔法“だ。まぁ、見た感じその光属性は一割ぐらいだがな」

「えぇっ!?光属性の魔法って、相当珍しいんじゃ…………?」

「まぁ、その辺は"魔族侵攻"で活躍したハイスヴァルム家の"力"ってやつさ」






「……………イッタタタ。いきなり、あんな速い魔法が飛んでくるんだもん、ビックリしちゃった」


 ウィンは、お尻についた埃を払いながら立ち上がると焦げた臭いに気が付き、不意に後ろを振り返る。

 すると、彼女の上スレスレを通り過ぎた火球が直撃したのであろう後ろの壁には、まるでハンマーか何かで叩かれたかのような痛々しい大きな凹みと、真っ黒い焦げ目がしっかりと残されていたのだった。


「……………あぶない、あぶない。あんな攻撃食らったら、絶対アウトだったよ」

「私の"フレイム・ボルト"を、よく躱せたね。しかし、次はそうはいかない!!」


 ヒーティスは、杖をウィンに向けると再び魔力を込め始める。
 おそらく、彼が放とうとしているのは十中八九、先ほど後ろの壁を凹ませた上に黒い焦げ目をつけた、あの強力な魔法であろう。


「…………うわぁっ!!」


 今度は打った直後に加速したか、高速で飛んでくる火球に対して、ウィンは横に体ごとダイビングする形でなんとか避けることに成功していた。

 だが、無事に避けられたのも束の間。追い討ちをかけるように、体勢が崩れてしまっているウィンに対して高速の火球魔法が放たれるのだった。



「“フレイム・ボルト“!!」


 おそらく、今までで一番の威力であろう渾身の火球が、ウィンの足元に着弾した瞬間に大きな爆発を生み出した。

 さらに、それと同時に発生した爆煙が瞬く間に周囲に広がると、そのあまりの威力に驚いたのか会場中が一斉に響めいたのだった。




「よぉおーしッ!流石は、ヒーティスだ!まずは、一勝取り返したぞ!!」


 今し方起きた大きな爆発で、早くも勝ちを確信したのか、待機席から身を乗り出して喜んでいるスコルド。


「さぁ、次はいよいよ君の番だぞ、キンバーライト君。是非、君にもヒーティスと同じように圧倒的な勝利を─────」

「お言葉ですが」


突然、後ろの席に静かに座っていたリッドの凛とした声が、奮冷めやらぬままであったスコルドの言葉を遮る。


「まだ、勝負は着いていませんよ」

















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