上 下
53 / 72
第3章 秘めし小火と級友の絆編

53.特訓と謎の機械

しおりを挟む




「あ、ファイ!こっち、こっち~!!」


遠くの方で手を振るウィン。彼女の他にも、フリッドとクランも既に到着しており、今来たファイで7組のメンバーが全員揃ったことになる。

しかし、今日は土曜日であり当然授業はないため全員私服姿である。

したがって、集まったこの場所も学園ではなく、"自然区"の奥にある人気ひとけがあまりない公園の一つであった。


「じゃあ、アタシの"とっておき"の特訓場所へ、しゅっぱーつ!!」


そう言うと、ウィンは張り切って公園の中へと進んで行く。
ファイたちも、まだ午前中だと言うのにやけにテンションの高いウィンに圧倒されつつも、彼女の後に続くように公園の敷地内へと足を踏み入れるのであった。

公園と言う扱いにはなってはいるものの、そこはもうほぼ森であり、うっかり道を間違えようものなら遭難してしまうほど鬱蒼とした樹々がどこまでも広がっていた。

今日、この場所に来たのは森林浴をするためではない。
ここに来た目的は、ウィンが空を高く飛べるようなるための"特訓"なのである。


「しかし、こんな森にいい練習場所があるんですか?ここまで木が生い茂っていると、逆に飛ぶのに邪魔なのでは?」

「それがね~、この先に木が全くない広い空間があるの」

「へぇ、でもそんな穴場よく見つけたね」

「この前、迷子になりかけた時に見つけたんだ~!」

「………今、さらっと不安なこと言いませんでした?」

「大丈夫、大丈夫!もう、4回くらい来てるから流石に迷わないって~!!」

「………そうだと、いいんだけどね~………」

「………はぁ、なんだか無事に着けるのか心配になってきました」

「……………ふぁああ~~~……………」


自信満々に先頭を進むウィンの後をついていく3人であったが、ファイとフリッドはあからさまに不安でしかないと言う表情を浮かべているのに対して、クランだけは呑気にあくびをしているのだった。





「あ、見て見て!あそこだよ~!!」


それから、20分ほど歩いた頃だろうか。
不意に、ウィンがはしゃぐ様に前方に向けて指を差したのだ。
すると、その指差す先にあったのは小高い丘の上に大きな木が一本だけ立っているだけの、広々とした原っぱであった。


「よし、今日は迷わないでついたぞ~~!」

「って、やっぱりいつも迷ってたんじゃないですか!」

「もう、無事着いたんだし細かいこと言いっこなし!そんなことよりフリッド、"例の物"持ってきてくれた?」

「もちろん、持ってきましたよ。"コレ"のために必死に兄さんと交渉したんですから、感謝してくださいね」


フリッドは、背負っていたカバンから丸い二つの機械を取り出した。
その謎の丸い機械には、2つとも穴が空いており不思議な形をしていた。


「ウィン、コレを左右の脚に1本ずつ装着してください」


次に、フリッドがカバンの中から取り出したのは、薄い菱形の機械に太いベルトが通っている怪しげな器具であった。

ウィンは、フリッドに言われた通りに与えられた器具を、自身の脚の太ももの部分に装着していく。
一人だと難しいので、クランとファイが手伝ってもらったので時間はあまりかからなかった。


「じゃあ、その器具に付いてるスイッチを押してみてください」

「はーい!」


ウィンが、何気なく器具に付いているスイッチを押すと、原っぱの上に置きっぱなしになっていた2つ丸い機械が、突然宙に浮き始めたのだった。


「え!ちょ、なになに?あの丸い機械浮いてるんですけどっ!?」


驚いているウィンの腰ぐらいの位置まで浮き上がったその丸い機械は、暫くその場をふわふわと漂ったあと、いきなりウィンの脚に装着された器具へと目掛け、結構なスピードで飛んできたのだった。


─────バッチーーーン!!!


物凄いスピードで飛んできた2つの丸い機械は、とても痛そうな音を立てながら、ウィンの太ももに装着された器具に貼り付いた。


「………いっったぁああーーー!?」

「あぁ、装着する時にちょっと痛いので気をつけてくださいね」

「………そ、それ………もうちょっと早く言って欲しかったんですけど………」


その場で、立ったまま悶えているウィン。
よほど痛かったのか、目にはうっすらと涙が滲んでいた。






「では、準備も出来たみたいなので早速やってみますか」

「………本当に、コレ大丈夫なの~?ちょっと心配なんですけど~………」


先ほどの痛みが未だに引かず、それを必死に我慢しているのかウィンの脚が小刻みに震えている。


「残念ながら、"あの"兄さんが開発した物なので性能は間違いないでしょうね」

「へぇ、ハロルドさんが作ったんだ?」

「………………ハロルド先生は、色々な物を開発してるの」

「そっか!じゃあ、大丈夫だねっ!!」

「それじゃあ、とりあえずちょっと飛んでみてください」

「オッケー!!」


ウィンは、そう言うと大きな木が立っている少しだけ高くなっている場所まで走っていくと、準備が出来た言わんばかりに大きく手を振って見せた。


「いっくよぉお~~!!」


手に持っていたお気に入りのホウキに跨ると、首元にかけていた革製のゴーグルで目を覆うと、静かに両目を瞑り集中し始める。
すると、風属性の魔力特有の黄緑色のオーラがウィンの体を包んでいった。

普段は、少々お調子者である彼女なのだが、今の顔は本気そのものである。

そして、綺麗な髪と同じその鮮やかな緑色の目をゆっくりと開いた次の瞬間、まるで突風の如き速さで飛び出したのだ。

青々と茂る芝生の斜面を、颯爽と低空飛行するウィン。
やがて、上昇に充分なスピードになったのか徐々に高度を上げて行く。


「今のところは、いい感じじゃない?」

「問題はこれからです。そろそろ、ウィンの上昇限界のはず………」


と、フリッドが言ったその時であった。
今まで、調子が良かったウィンの動きに、明らかな異変が起こっていたのだ。


「……………見て、ウィンの様子が………!」


心配するクランの声が辺りに木霊する。
フリッドの予想していた通り、ウィンが上昇できる限界の高度に達していたのだ。


「─────ッ!?」


なんとか、現在の高度を維持しようとしていたウィンであったが、過去の忌まわしい事故の記憶が脳裏をよぎったその瞬間、彼女の体を包んでいた黄緑色のオーラが、まるで風に吹き飛ばされたかのように消えてしまったのだった。


「…………きゃぁあああ!!!」


先ほどまで、かなり高い位置に居たウィンの体が、彼女の悲鳴と共に地面へと吸い込まれていく。


「ウィン!!」

「慌てないでください。そろそろ、"あの装着"が起動する筈です!!」

「……………"マッド・ブロック"!!」


それは、クランが土属性の魔法で柔らかい泥でできた立方体のクッションを設置したのと、ほぼ同じタイミングであった。



なんと、どこからともなく出現した謎の風がウィンの体を包み込んだのだ。
















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

処理中です...