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第2章 秘めし小火と黒の教師編

18.放課後と休日

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「今日は無属性魔法について教えるぞ。簡単に説明すると火、水、雷などの属性を使わない、又は付与されていない魔法のことなんだが……ファイ」

「はい!」

「例えばどんな魔法があるか、1個だけでもいいから答えられるか?」

「う~ん……。幻惑魔法とか?」

「あー、半分正解だな。幻惑魔法は無属性もあるんだが、属性魔法にもあるんだよ。水や氷なんかを使って幻惑させたりなんかもする。ただ、属性魔法だから、耐性によって防げたりできるんだがな」

「じゃあ、なぜわざわざ属性魔法で使用する意味があるんですか?耐性で防がれるなら、無属性で使用したほうがいいのでは?」

「いい質問だな、フリッド。もちろん、属性であるが故にデメリットもあるが、逆にその属性が有利な相手だったら無属性よりも効果はあったりするメリットもある」

「なるほど……」

「じゃあ、次はクラン。他に無属性魔法を何か知ってるか?」

「………召喚魔法」

「そうだな。確かに召喚魔法は無属性魔法だな。だが最近になって、もしかしたら属性魔法なんじゃないかと言う説が浮上していてな」

「………知らなかった」

「光や闇属性なんじゃないか、もしくは新たな属性ではないかと研究者の間でも騒がれているだが、結論を出すにもまだ判断材料が不足しているらしい」

「へ~、そうなんだ~」

「次はそうだなぁ。じゃあ、ウィンいってみるか」

「はいはーい!今回は自信あるもんねー!」

「お、ウィンが珍しく自信満々だな。じゃあ、答えてみろ」

「音楽魔法、です!」

「ほぅ、音楽魔法か。確かに無属性だが、こいつも召喚魔法と同様属性魔法なんじゃないかと議論されている魔法の一つだな」

「え!これもなんだぁ?」

「近年の魔法技術の進歩は著しくてな。ある若い天才魔法学者の元で様々な魔法の定義が見直されているらしい」

「………………」

「お陰で教科書の一部変更や、教え方なんかも変える必要があるんじゃないかって魔法学園側にも仕事が回ってきそうで色々大変なんだよ」

「え、先生もそう言う先生らしいことやってるんだ~?」

「……それはどう言う意味かな、ウィン。まるで、俺がいつも授業以外は先生らしい仕事してないみたいじゃないか」

「…………してるの?」

「クランまで………、俺だって一応魔法学園の先生なんだぞ!お前らの見てない所でそれはもう大変な仕事を………」


とレイヴン必死の弁解を遮るように授業終了のチャイムである美しい鐘の音が校内に響き渡る。話の腰を折られて諦めたのか、肩を落としため息をついた後教科書を閉じるその姿は少し可哀想であった。

「………コホン、今日の授業はここまでだ。俺は“大事な仕事”が残っているからお前たちは気をつけて帰るんだぞ」

「本当かな~?」

「………きっと嘘」

「……あー、忙しい忙しいーなっと」

「あ、先生!ちょっと待って!また相談があるんだけど……」

「ん?なんだファイ。悪いが今日は付き合ってやれないぞ?何せ俺は"先生"の仕事で忙しいからな」

「ねぇ、クラン!今日も一緒に帰らない?」

「………いいよ。でも、ちょっと本屋に行きたいから寄ってっていい………?」

「うん!!……それと、さ。ちょっと、お願いがあるんだけど……」

「………お願い?」

「……明日とか、暇だったりする?もし良かったらなんだけど、一緒に買い物なんてどうかなーって……。ほら!あたし王都ってあまり来たことないし、服とか色々見たいな~って」

「………ごめん、明日は無理………わたしもウィンと買い物したかったけど、どうしても外せない用事があって………」



「そんなぁ~~!!!」


まさに今言おうとした言葉が、まさか廊下から大音量で聞こえてくるとは予想だにしなかったウィンは、思わず声が聞こえてきた廊下を教室の入り口からそーっと覗き込んだ。
その聞き慣れた声の主は勿論ファイであることはわかっていたが、一体何事なのかと興味をもったクランやフリッドもウィンと同じ体勢で廊下を覗き込んでいた。


「すまん。だが明日はどうしても外せない用事があるんだ」

「そんなぁ、休日も先生に鍛えてもらったらもっと強くなれると思ったのに~……」

「お前なぁ……授業終わった後ほぼ毎日鍛錬してやってるんだから、休日くらい体を休めろ」

「大丈夫だって!王都に来てからなぜか体力が有り余ってるから、休日だってずっと鍛錬してられるよ!」

「……とにかく、明日は付き合ってやれん。じゃあな」

「ちょ、ちょっと、待ってよ!……先生ってばー!!」


ファイの必死の呼びかけも虚しく、レイヴンはまるで逃げるように廊下を足早に歩いていってしまった。
一人残されたファイは、あまりにショックだったのか落胆しその場に両手と膝をついてしばらくの間その状態のまま途方に暮れていた。


「これは、チャンスかも!」

「………チャンス?」

「ふっふっふっふー」

「……何か悪い事を考えてるような顔ですね。まぁ、僕には関係ないからいいですけどね」


「はぁ………。明日、1人で剣の鍛錬でもし………」

「ねぇ、ファイ。明日、暇になっちゃったんだよね?」

「そうだけど………それがどうしたの、ウィン?」

「明日、ちょっと付き合ってほしいんだけど、いいよね?」

「え、あの俺剣の鍛錬が………」

「いいよね?」

「………わかったよ。大してする事もないし」

「やったーー!!じゃあ、明日の10時に“べスティード駅“前の広場に集合ね!」

「それで、付き合ってほしいって一体なにするの?」

「それは明日になってからのヒ・ミ・ツ♪」

「え~~、なんか怖いんだけど……」

「じゃ、明日楽しみにしてるから!まったねー!!」


ウィンは、教室の前の廊下を飛び跳ねるように駆けていってしまい、あっという間にその姿は見えなくなっていった。
しかし、そのすぐ後にウィンが向かった廊下の曲がり角の先で、先生が誰かを叱っている声が聞こえてきた。その声は、かなり距離が離れているにも関わらずファイ達にもはっきり聞こえるほどの大音量であった。


「廊下は走っちゃダメって何回も言ってあるはずですが、貴女はいつになったらわかるんですか!ウィンディ・スカイレーサーさん!!」

「ひぃぃぃぃ!すみませ~~~ん!!」

「………じゃ、わたしも帰るね………」

「あ、あぁ……さようなら。……俺も帰ろっと」


 



“べスティード駅”。主に衣服等が売られているお店が多いエリアにある駅で、休日には若者達が集まり、駅前の公園は多くの人で賑わいを見せている。ちなみに、ファイとフラウが登校に使っているマルシェール駅から4つほど先にあるのだが、クロノス駅方向ではないので、ファイはこの駅に降り立つのは初めてであった。


「朝の鍛錬を早めに切り上げてきたけど、ちょっと早かったかな」


ファイは公園にある時計を見て時刻を確認すると現在9時30分であった。ウィンの言った約束の時間は10時なので、あと30分は余裕があることになる。


「仕方がない、あのベンチで座って待ってよう」


丁度誰も座っていないベンチを見つけたファイが腰を下ろす。道中の列車で座れず立っていたのだが疲れている訳ではない、ただ突っ立ってるよりは座ってた方が楽だと思ったのである。
今日はとてもいい天気で、日差しが強すぎず弱すぎずの適度な暖かさもあり思わず眠くなってしまうほどであった。


「最近、授業や鍛錬でずっと忙しかったせいか、こんなゆっくりするのは久しぶりな気がする」


すごくリラックスした気分になっていたファイであったが、周りの人達を見てある事に気がつく。


「………やけに男女の組み合わせの人たちが多いような………」


少し離れてはいるベンチでは楽しそうに話す男女、正面の芝生には広げたブランケットの上でお弁当を嬉しそうに食べている男女、そして今目の前を通りかかっているのは照れ臭そうに手を繋いで歩いている男女。


「もしかして、俺、今ものすごく場違いなんじゃ………」


そう、この“べスティード駅”の前にある公園、“べスティード公園”は休日になると多くのカップルで賑わう王都でも超人気のデートスポットなのだ。
夜には中央にある噴水がイルミネーションされ、とてもロマンティックなムードになる事間違いないとのことであるが、勿論その事はこの公園に初めてきたファイには知る由もなかった。


「………お願い、ウィン!早く来てくれ~~!!」












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