18 / 72
第2章 秘めし小火と黒の教師編
18.放課後と休日
しおりを挟む「今日は無属性魔法について教えるぞ。簡単に説明すると火、水、雷などの属性を使わない、又は付与されていない魔法のことなんだが……ファイ」
「はい!」
「例えばどんな魔法があるか、1個だけでもいいから答えられるか?」
「う~ん……。幻惑魔法とか?」
「あー、半分正解だな。幻惑魔法は無属性もあるんだが、属性魔法にもあるんだよ。水や氷なんかを使って幻惑させたりなんかもする。ただ、属性魔法だから、耐性によって防げたりできるんだがな」
「じゃあ、なぜわざわざ属性魔法で使用する意味があるんですか?耐性で防がれるなら、無属性で使用したほうがいいのでは?」
「いい質問だな、フリッド。もちろん、属性であるが故にデメリットもあるが、逆にその属性が有利な相手だったら無属性よりも効果はあったりするメリットもある」
「なるほど……」
「じゃあ、次はクラン。他に無属性魔法を何か知ってるか?」
「………召喚魔法」
「そうだな。確かに召喚魔法は無属性魔法だな。だが最近になって、もしかしたら属性魔法なんじゃないかと言う説が浮上していてな」
「………知らなかった」
「光や闇属性なんじゃないか、もしくは新たな属性ではないかと研究者の間でも騒がれているだが、結論を出すにもまだ判断材料が不足しているらしい」
「へ~、そうなんだ~」
「次はそうだなぁ。じゃあ、ウィンいってみるか」
「はいはーい!今回は自信あるもんねー!」
「お、ウィンが珍しく自信満々だな。じゃあ、答えてみろ」
「音楽魔法、です!」
「ほぅ、音楽魔法か。確かに無属性だが、こいつも召喚魔法と同様属性魔法なんじゃないかと議論されている魔法の一つだな」
「え!これもなんだぁ?」
「近年の魔法技術の進歩は著しくてな。ある若い天才魔法学者の元で様々な魔法の定義が見直されているらしい」
「………………」
「お陰で教科書の一部変更や、教え方なんかも変える必要があるんじゃないかって魔法学園側にも仕事が回ってきそうで色々大変なんだよ」
「え、先生もそう言う先生らしいことやってるんだ~?」
「……それはどう言う意味かな、ウィン。まるで、俺がいつも授業以外は先生らしい仕事してないみたいじゃないか」
「…………してるの?」
「クランまで………、俺だって一応魔法学園の先生なんだぞ!お前らの見てない所でそれはもう大変な仕事を………」
とレイヴン必死の弁解を遮るように授業終了のチャイムである美しい鐘の音が校内に響き渡る。話の腰を折られて諦めたのか、肩を落としため息をついた後教科書を閉じるその姿は少し可哀想であった。
「………コホン、今日の授業はここまでだ。俺は“大事な仕事”が残っているからお前たちは気をつけて帰るんだぞ」
「本当かな~?」
「………きっと嘘」
「……あー、忙しい忙しいーなっと」
「あ、先生!ちょっと待って!また相談があるんだけど……」
「ん?なんだファイ。悪いが今日は付き合ってやれないぞ?何せ俺は"先生"の仕事で忙しいからな」
「ねぇ、クラン!今日も一緒に帰らない?」
「………いいよ。でも、ちょっと本屋に行きたいから寄ってっていい………?」
「うん!!……それと、さ。ちょっと、お願いがあるんだけど……」
「………お願い?」
「……明日とか、暇だったりする?もし良かったらなんだけど、一緒に買い物なんてどうかなーって……。ほら!あたし王都ってあまり来たことないし、服とか色々見たいな~って」
「………ごめん、明日は無理………わたしもウィンと買い物したかったけど、どうしても外せない用事があって………」
「そんなぁ~~!!!」
まさに今言おうとした言葉が、まさか廊下から大音量で聞こえてくるとは予想だにしなかったウィンは、思わず声が聞こえてきた廊下を教室の入り口からそーっと覗き込んだ。
その聞き慣れた声の主は勿論ファイであることはわかっていたが、一体何事なのかと興味をもったクランやフリッドもウィンと同じ体勢で廊下を覗き込んでいた。
「すまん。だが明日はどうしても外せない用事があるんだ」
「そんなぁ、休日も先生に鍛えてもらったらもっと強くなれると思ったのに~……」
「お前なぁ……授業終わった後ほぼ毎日鍛錬してやってるんだから、休日くらい体を休めろ」
「大丈夫だって!王都に来てからなぜか体力が有り余ってるから、休日だってずっと鍛錬してられるよ!」
「……とにかく、明日は付き合ってやれん。じゃあな」
「ちょ、ちょっと、待ってよ!……先生ってばー!!」
ファイの必死の呼びかけも虚しく、レイヴンはまるで逃げるように廊下を足早に歩いていってしまった。
一人残されたファイは、あまりにショックだったのか落胆しその場に両手と膝をついてしばらくの間その状態のまま途方に暮れていた。
「これは、チャンスかも!」
「………チャンス?」
「ふっふっふっふー」
「……何か悪い事を考えてるような顔ですね。まぁ、僕には関係ないからいいですけどね」
「はぁ………。明日、1人で剣の鍛錬でもし………」
「ねぇ、ファイ。明日、暇になっちゃったんだよね?」
「そうだけど………それがどうしたの、ウィン?」
「明日、ちょっと付き合ってほしいんだけど、いいよね?」
「え、あの俺剣の鍛錬が………」
「いいよね?」
「………わかったよ。大してする事もないし」
「やったーー!!じゃあ、明日の10時に“べスティード駅“前の広場に集合ね!」
「それで、付き合ってほしいって一体なにするの?」
「それは明日になってからのヒ・ミ・ツ♪」
「え~~、なんか怖いんだけど……」
「じゃ、明日楽しみにしてるから!まったねー!!」
ウィンは、教室の前の廊下を飛び跳ねるように駆けていってしまい、あっという間にその姿は見えなくなっていった。
しかし、そのすぐ後にウィンが向かった廊下の曲がり角の先で、先生が誰かを叱っている声が聞こえてきた。その声は、かなり距離が離れているにも関わらずファイ達にもはっきり聞こえるほどの大音量であった。
「廊下は走っちゃダメって何回も言ってあるはずですが、貴女はいつになったらわかるんですか!ウィンディ・スカイレーサーさん!!」
「ひぃぃぃぃ!すみませ~~~ん!!」
「………じゃ、わたしも帰るね………」
「あ、あぁ……さようなら。……俺も帰ろっと」
“べスティード駅”。主に衣服等が売られているお店が多いエリアにある駅で、休日には若者達が集まり、駅前の公園は多くの人で賑わいを見せている。ちなみに、ファイとフラウが登校に使っているマルシェール駅から4つほど先にあるのだが、クロノス駅方向ではないので、ファイはこの駅に降り立つのは初めてであった。
「朝の鍛錬を早めに切り上げてきたけど、ちょっと早かったかな」
ファイは公園にある時計を見て時刻を確認すると現在9時30分であった。ウィンの言った約束の時間は10時なので、あと30分は余裕があることになる。
「仕方がない、あのベンチで座って待ってよう」
丁度誰も座っていないベンチを見つけたファイが腰を下ろす。道中の列車で座れず立っていたのだが疲れている訳ではない、ただ突っ立ってるよりは座ってた方が楽だと思ったのである。
今日はとてもいい天気で、日差しが強すぎず弱すぎずの適度な暖かさもあり思わず眠くなってしまうほどであった。
「最近、授業や鍛錬でずっと忙しかったせいか、こんなゆっくりするのは久しぶりな気がする」
すごくリラックスした気分になっていたファイであったが、周りの人達を見てある事に気がつく。
「………やけに男女の組み合わせの人たちが多いような………」
少し離れてはいるベンチでは楽しそうに話す男女、正面の芝生には広げたブランケットの上でお弁当を嬉しそうに食べている男女、そして今目の前を通りかかっているのは照れ臭そうに手を繋いで歩いている男女。
「もしかして、俺、今ものすごく場違いなんじゃ………」
そう、この“べスティード駅”の前にある公園、“べスティード公園”は休日になると多くのカップルで賑わう王都でも超人気のデートスポットなのだ。
夜には中央にある噴水がイルミネーションされ、とてもロマンティックなムードになる事間違いないとのことであるが、勿論その事はこの公園に初めてきたファイには知る由もなかった。
「………お願い、ウィン!早く来てくれ~~!!」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?
イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える――
「ふしだら」と汚名を着せられた母。
その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。
歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。
――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語――
旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません
他サイトにも投稿。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる