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第1章 秘めし小火の旅立ち編
11.実力試験と木のゴーレム
しおりを挟む待機場所であった1-3の教室から試験官の2人の後をついて歩くこと5分、実習棟と呼ばれる建物に隣接する演習場へと到着した。
演習場を見渡すと、所々に剣術の鍛錬に使う木製の人形や的などが置いてあり、家の庭にも同じような物が置いてあった事を思い出し、村を出てたったの1日なのだが少しだけホームシックな気分になったファイであった。
「では、実力試験の説明を行いたいところなんですが。私達の自己紹介がまだでしたね」
学園の門で受付を行なっていた深緑色の長い髪がトレードマークの男性が目の前に集まっている新入生達をゆっくりと見渡した後、爽やかだが芯の通った声で自己紹介を始めた。
「今年の実力試験の試験官を務める”ケイン・ウッドランド”です、よろしく。それと……」
ケインと名乗った試験官の後ろに控えていた、青白いローブの女性が1歩前に出たと同時に頭に被っていたフードを取ると、ローブと同じ青白い色のウェーブのかかったショートの髪が現した。それと、少し幼さが残る顔なのだが緊張しているのか表情が引きつっているように見えた。
「……お、同じく、試験官を務めさせて頂きます”リーナ・スティーリア”です。よろひ……よろしくお願いします」
やはり緊張していたのか、所々声が裏返ってしまって尚且つ、あともうちょっとと言う所で噛んでしまった。紹介が終わった後、彼女は顔が赤く染まり、最後に噛んでしまったのが相当恥ずかしかったのだろうか、しばらく俯いたままの状態になってしまっている。
「さて、それでは改めて今年の実力試験の内容を発表します。今回の試験は”コレ”だ!」
ケインが足元に手を翳すとその場所に深碧の魔法陣が現れ、すぐ後に20mほど離れた場所に同じ魔法陣が現れ、その中から幾つもの木のゴーレムが出現した。しかし、そのゴーレムは現れてから微動だにせずただその場に立ち尽くすだけであり、まるでただの人形のようであった。
「……まさか、”木属性”の魔法だと?」
「なんて珍しい……さすがクロノス魔法学園だ」
「ねぇ、ウィン。木属性ってそんなに珍しいの?」
「うーん……確か結構レアな魔法の属性じゃなかったかなぁ」
「諸君らにはこのゴーレムに向かって自らが得意とする自慢の魔法を放ってもらいましょう。……さぁ、実力試験の開始です!」
「これからスティーリア先生が名前を呼びますので順番にあのゴーレム達に魔法を放ってください。どのゴーレムを狙っても構いませんし、攻撃しても反撃とかはされませんので安心してください」
「では、名前を呼ばれた方は前に出て来てください!……ヒーティス・ハイスヴァルムさん!」
「いきなり僕とは、まぁ皆の模範となるというも由緒あるハイスヴァルム家の者としての定めということだね……」
「それでは、準備が整い次第魔法を放ってください!」
試験官のスティーリアの言葉が合図になったかのように、ヒーティスはゆっくりと杖を構え始めた。その杖には所々に銀色に輝く装飾が施されており、上部には赤く光る大きな水晶がはめ込まれているのが如何にも高価そうで、こんな所に持って来て大丈なのかと心配してしまうほどの逸品であった。
その杖にはめ込まれている水晶がヒーティスの魔力に反応し、元の赤い色よりも鮮やかに眩しく発光し始めた。
それと同時に、杖の前に炎の球体が現れ水晶と同じ位の大きさにまで膨らみ始めたのであった。
「これぞ、僕の自慢の魔法!”ファイヤ・ボール”!」
ヒーティスの掛け声と共に、ケインが出現させた木のゴーレムに向かって高熱の火の球が勢いよく飛び出すと、20mほどの距離をほぼ直線で飛んでいき、そのままゴーレムに直撃し爆発を起こした。
その直撃したゴーレムからは白い煙が立ち昇り、胸の部分に丸い黒い焦げ目と抉られたような痕が残っていた。
「……どうだい、僕のエレガントな魔法は?まぁ、美しすぎて直視できなかったかも、だけどね」
「……では、次の方!”フリッド・グラース”さん!」
「……はい」
その後も次々と名前を呼ばれては、この日のために練習したであろう各々の得意とする魔法をゴーレムに目掛けて魔法を放った新入学生。これまで火、水、風、氷、地の5つの属性のいずれかの魔法を使う者が大半であった。2、3人ほどと僅かだが雷と闇の属性の魔法を使う者がいたのだが、しかし、ケインのような木属性の魔法を使う者はいなかった。
「やっぱり、木属性の魔法って珍しいんだね」
「そうみたいだね~」
「次の方!”ウィンディ・スカイレーサー”さん!」
「あ、あたしの番だ!行ってくるね、ファイ!」
「頑張って、ウィン!」
「見ろよ、あの田舎もんの番だぜ」
「せいぜいちゃんと当ててくれよなー?」
「むぅ……ぜーったい、あいつらが悔しがるほどの魔法を見せてやるんだから~!」
後ろに背負っていたホウキを手に取りクルクル回した後、勢いよく柄を地面に突くと足元に黄緑色の魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣の周りにに風が集まり始めた。
やがてその風は強さを増し、いつしかウィンを中心に大きな竜巻を作り出していたのであった。
「ひゃっ!……なんて強力な風なの」
「ほぅ、これはなかなか興味深い」
試験官であるケインとスティーリアが驚くほどに勢力を増した竜巻が、ホウキの穂を前方に向けるとウィンの目の前で球体へと形を変えながら徐々に大きくなり始めた。
「狙うは、もちろんど真ん中!」
風の球が直径20cmくらいにまで膨張すると、突然ウィンがホウキ をまたクルクルと回したと思いきや体を横に向け、柄を力強く握り、足を肩幅まで広げ、狙いを定めた次の瞬間、その風の球をホウキの穂で力いっぱい打ち付けたのだ。
「ウィンドォーーー・ストライクッーーー!!」
打ち付けられた風の球は木のゴーレム群の方へと物凄い速さで飛んでいき、一番前のゴーレムに当たると呆気ないほど簡単に吹き飛ばされていった。さらに、その後方にあったゴーレム達をも巻き込み、かなり後ろにある壁にぶつかると次々と粉々になってしまったのであった。
まぁ、本人が狙っていた「ど真ん中」から3つ離れた列で起きた出来事である。
「……ありゃりゃ、ちょっとズレちゃったか~。まぁ、どれ狙ってもいいんだし、結果オーライだよね♪」
「では次の方!”ファイ・フレイマー”さん!」
「……はいっ!」
いよいよ自分の番がやって来た。しかし、ファイは正直、緊張していた。無理もない、今までこんな大勢の前で魔法を見せることなど一度もなかったのだから。
「ファイ、頑張ってね!あたし、あっちで応援してるから!」
ウィンがそう言うと、右手を顔くらいの位置まで上げて、その右手の手のひらをファイの方へと向けて来た。
「……あ……うん!頑張ってみるよ!」
ファイはウィンとすれ違い様に、ウィンの手のひらに自分の右手の手のひらを軽く当てると、パンッと軽い音が演習場に響く。すると、先ほどの緊張は嘘のように消え、いつの間にか表情も自信に満ちあふれていた。
それはまるで、ウィンから勇気をもらったかのようであった。
ファイは、一度だけ深呼吸をすると父の形見である白金色の剣を鞘から抜き、ゆっくりと剣先を手に向けるように構えた。
目を瞑り、全神経を集中させ魔力を剣へと流し込む。すると、その白金色の剣は徐々に赤い光に包まれていき、あっという間に剣身がすっぽりと光に覆われていった。
そして、目を開くと今度は剣を横に構え、纏っている赤い光の魔力を飛ばす準備が整った。
「はあぁっーーー!いっけぇーーーー!!」
ファイは、剣をこれ以上ないくらい力強く横にスイングすると、赤く輝く三日月型の斬撃が段々と左右に伸びると同時にかなり早いスピードでゴーレム目掛けて飛んで行った。
「……え?」
この時、ファイは飛んでいく赤い斬撃を見て、ある違和感を感じていた。それは、放った三日月型の斬撃がいつもより遥かに大きいのだ。
ファイの放った赤く光る三日月型の斬撃は一切スピードを緩める事はなく、一番前のゴーレムに命中したと思いきや、切ったような音や燃えたような音は聞こえず、まるですり抜けるように次々とゴーレム達を通り過ぎていったように見えた。
突然、後ろから風が吹き抜けた。だが、その風はただの風ではない”何か”であったが、その”何か”に気づいたのはこの演習場の中でたった3人だけであった。
カンッ!!!
いきなりゴーレム群の奥の方で、鋭利な金属同時がぶつかるような音が聞こえたと思ったすぐ後に、その上空で複数回の小さな爆発音が聞こえた。
その音の正体は、ファイを含む新入生の誰もわからなかったのだが、ある者がそれとは別の”ある事”に気づき大きな声を上げたのであった。
「……さっき放ったあいつの魔法、どのゴーレムにも当たってないぞ!」
「え!?」
「……本当だ、あいつが付けたような傷が見当たらない。とんだ落ちこぼれだぜ」
「これだから田舎もんは」
「……ファイ……んん?ちょっと、みんな”アレ”見て!!」
ウィンが指を刺した方に視線を向けると、さっきまで傷などついていなかったゴーレム達にまるで横から輪切りにしたかのような1本の赤い傷が次々と現れ始めた。
さらに、その傷がさらに赤く輝き出すと、傷から上の部分が大きな炎に包まれると同時に、ゆっくりと地面に落ちていった。驚くべきは、それが全てのゴーレム達にほぼ同時に起こった事であった。
「まさか……全てのゴーレムに当たっていただと……?」
「フンッ、中々やるようだね。……まぁ、僕ほどじゃないけど。」
「どうせマグレか何かだぜ、きっと!」
「ファイ~!やったね、全部のゴーレムに当てちゃうなんて、すごいよ!」
「……まぐれだよ。でも、ありがとう」
今度はファイが、ウィンに向かって右手の手のひらを向ける。それに気づいたウィンは、嬉しそうに自らの右手をファイの手に軽く当てると、演習場に2度目のパンッと言う軽い音が響いた。
さっきの音よりも、ちょっとだけ弾むような音に聞こえたのは、きっと気のせいなんかじゃないと心から思ったファイなのであった。
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