6 / 9
誕生
しおりを挟む
五月七日。ゴールデンウィーク明けの月曜日。
連休明けの朝の教室は、なにかと騒がしいものだ。
生徒たちは「久しぶりね」とか「熱海へ旅行に行っていたのよ」とか、連休中の思い出などを楽し気に語り合う。それはまるで宿り木に止まった小鳥たちのさえずりの様。
話題が尽きるまで、小鳥たちはさえずり続ける。
また連休明けといえば、突然あかぬけたりしてイメージをガラッと変える生徒が現れるものだ。
それは抹茶の水女学園のような、伝統あるお嬢様校でも例外ではない。
だがそのような生徒が現れたとしても、小鳥たちのさえずりを止めることはできない。
小鳥たちにとって、そんなことすら話題のタネにしかならないのだ。
ところが、そのように他の教室が騒がしく賑わう中、一年三組の教室だけはまるでお通夜みたいな静寂が支配していた。
始業前にもかかわらず、小鳥たちはみな行儀よく自分の椅子に座り、ちらちらと一人の生徒をただ盗み見るだけだった。
今年の一年三組に現れた、イメチェンしてきた生徒は小鳥たちの常識を超越していたのだ。
小鳥たちは完全にその生徒の雰囲気にのまれていた。
彼女らは、ある童話『みにくいアヒルの子』を思い出した。
これはリアル『みにくいアヒルの子』なの?
だけど、おかしいわ。
あれは確かアヒルの中に白鳥が混じっていた話だったはずよ。
断じてモナリザが混じっていたのではなかったわ。
私の目はおかしくなったのかしら?
だって、クラスメイトがモナリザだったなんて、骨董無形過ぎる!
人に話しても、きっと笑うばかりで誰も信じてくれない。
自分でも信じられないんだから。
……でも、確かにそこに居る。
もしかして、実はまだ夢の中でゴールデンウィークの最中なのではないかしら?
その証拠に、まだまだ休み足りないし。
小鳥たちはかくして順調に迷走し、言葉を失ったままちらちらと突然現れたモナリザを盗み見るだけだった。
(……どうしてこんなことになったのだろう?)
アヒルの中に混じっていたモナリザ、もとい理沙は心の中で嘆息した。
心の中の溜息が表情に響かないように注意する。あくまで顔は微笑みをキープしなければならない。それが『モナリザの君』なのだ。
今日の理沙はいつもの伊達メガネもしておらず、髪型にも手を加えられて文句なしのモナリザだった。
そう、今日の理沙はモナリザに似ているというレベルでなく、モナリザそのものだった。
理沙は隣のクラスにいるはずの志摩に向かってテレパシーを飛ばす。
(これで本当に当選しなかったら覚悟してもらうわよ、志摩ちゃん……)
すべては志摩が提唱した『モナリザの君』計画が原因だった。
あの志摩の「──『モナリザの君』になるのよ!」宣言の後には長々とした説明が続き、なんだかわからないうちに理沙は志摩の『モナリザの君』計画に乗ることになっていた。
志摩曰く「これ以外に生徒会長に当選する方法はない! 命賭ける!」とのことだったのだ。
命まで賭けると言われて、よっぽど自信があるのかと納得してしまったが、よくよく思い出してみたら志摩が命を賭けるのはこれで三度目だったりした。
しかも、一度は賭けに負けている。
その時はおふざけ半分のどうでもいい賭けだったので、負けた罰にしてもイチゴミルクと抹茶ミルクを両鼻からとも一気に飲ませるなど、大した事をさせていないからすっかり忘れていたのだ。
しかし、志摩の「命を懸ける」が絶対ではないことを思い出してしまってから不安で仕方なくなっていた。
なにしろ今回はどうでもいい話でなく、人生が掛かっているのだ。
とりあえずダメだったら本当に志摩の命を貰おう、と固く心に誓う理沙だった。
*『みにくいアヒルの子(モナリザ)』
連休明けの朝の教室は、なにかと騒がしいものだ。
生徒たちは「久しぶりね」とか「熱海へ旅行に行っていたのよ」とか、連休中の思い出などを楽し気に語り合う。それはまるで宿り木に止まった小鳥たちのさえずりの様。
話題が尽きるまで、小鳥たちはさえずり続ける。
また連休明けといえば、突然あかぬけたりしてイメージをガラッと変える生徒が現れるものだ。
それは抹茶の水女学園のような、伝統あるお嬢様校でも例外ではない。
だがそのような生徒が現れたとしても、小鳥たちのさえずりを止めることはできない。
小鳥たちにとって、そんなことすら話題のタネにしかならないのだ。
ところが、そのように他の教室が騒がしく賑わう中、一年三組の教室だけはまるでお通夜みたいな静寂が支配していた。
始業前にもかかわらず、小鳥たちはみな行儀よく自分の椅子に座り、ちらちらと一人の生徒をただ盗み見るだけだった。
今年の一年三組に現れた、イメチェンしてきた生徒は小鳥たちの常識を超越していたのだ。
小鳥たちは完全にその生徒の雰囲気にのまれていた。
彼女らは、ある童話『みにくいアヒルの子』を思い出した。
これはリアル『みにくいアヒルの子』なの?
だけど、おかしいわ。
あれは確かアヒルの中に白鳥が混じっていた話だったはずよ。
断じてモナリザが混じっていたのではなかったわ。
私の目はおかしくなったのかしら?
だって、クラスメイトがモナリザだったなんて、骨董無形過ぎる!
人に話しても、きっと笑うばかりで誰も信じてくれない。
自分でも信じられないんだから。
……でも、確かにそこに居る。
もしかして、実はまだ夢の中でゴールデンウィークの最中なのではないかしら?
その証拠に、まだまだ休み足りないし。
小鳥たちはかくして順調に迷走し、言葉を失ったままちらちらと突然現れたモナリザを盗み見るだけだった。
(……どうしてこんなことになったのだろう?)
アヒルの中に混じっていたモナリザ、もとい理沙は心の中で嘆息した。
心の中の溜息が表情に響かないように注意する。あくまで顔は微笑みをキープしなければならない。それが『モナリザの君』なのだ。
今日の理沙はいつもの伊達メガネもしておらず、髪型にも手を加えられて文句なしのモナリザだった。
そう、今日の理沙はモナリザに似ているというレベルでなく、モナリザそのものだった。
理沙は隣のクラスにいるはずの志摩に向かってテレパシーを飛ばす。
(これで本当に当選しなかったら覚悟してもらうわよ、志摩ちゃん……)
すべては志摩が提唱した『モナリザの君』計画が原因だった。
あの志摩の「──『モナリザの君』になるのよ!」宣言の後には長々とした説明が続き、なんだかわからないうちに理沙は志摩の『モナリザの君』計画に乗ることになっていた。
志摩曰く「これ以外に生徒会長に当選する方法はない! 命賭ける!」とのことだったのだ。
命まで賭けると言われて、よっぽど自信があるのかと納得してしまったが、よくよく思い出してみたら志摩が命を賭けるのはこれで三度目だったりした。
しかも、一度は賭けに負けている。
その時はおふざけ半分のどうでもいい賭けだったので、負けた罰にしてもイチゴミルクと抹茶ミルクを両鼻からとも一気に飲ませるなど、大した事をさせていないからすっかり忘れていたのだ。
しかし、志摩の「命を懸ける」が絶対ではないことを思い出してしまってから不安で仕方なくなっていた。
なにしろ今回はどうでもいい話でなく、人生が掛かっているのだ。
とりあえずダメだったら本当に志摩の命を貰おう、と固く心に誓う理沙だった。
*『みにくいアヒルの子(モナリザ)』
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。
平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。
家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。
愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる