42 / 53
第六章 おじいさんは神出鬼没?
42話
しおりを挟む
旧校舎と本校舎はそんなに距離が離れているわけじゃないから、階層が違っても表情はかろうじて見えた。
なんの感情もない、無の顔。
でもとっても綺麗な顔をしている子が立っていた。
三つ編みにされている、腰まである燃えるように赤い髪。
男の子なのか女の子かわからないその子は、私と目が合うとスゥと目を細めた。
──体が、動かない……!
声も出なくなって、金縛りにあったように体が動かなくなる。
ドッドッと心臓が速くなって、汗がだらりとふき出てきた。
目をそらしたいのに、そらせない。
そらしたくない……そらしたい。
変な感情がぐるぐるとうずを巻いて、足が地面についているのかわからなくなる。
い、いったいなんなの?
怖い……誰かっ……!
──ぽん。
「ひゃあぁぁ!?」
「っ、結花ちゃんどうかした?」
「あ……れお、くん」
ビ、ビックリした……!
叫んで座りこんでしまった私を心配そうに覗きこんでくる烈央くん。
急に叫ぶなんて、烈央くんからしたら逆に怖かっただろうなと思うと申し訳なくなってきた。
「教室にいなかったから、どこに行ったのかと思って探しにきたんだ。もうすぐ授業がはじっちゃうから戻ろう。大丈夫? 立てるかい?」
「…………」
「結花ちゃん?」
「アハハ……腰が抜けちゃったみたい?」
パチパチを大きな瞳を瞬かせて、烈央くんはクスリと笑う。
「笑うことないじゃんっ、烈央くん。ひどい!」
「いやごめん……、ふは。可愛くてつい。本当にごめん」
キラキラオーラ全開で優しく笑うものだから、眩しすぎて烈央くんから目をそらす。
「ちょっと失礼するね」
「──きゃっ」
よいしょ、と烈央くんは私をお姫様抱っこで持ち上げた。
「れれれれ烈央くんっ? なにしてるの!?」
「これなら教室に戻れるだろう?」
「戻れるけども! はっ恥ずかしいよ……!」
「じゃあ教室にたどり着く前に、一人で歩けるようになると良いね?」
ニヤリ、と笑う顔はいたずらっ子そのもの。
──いっ、いじわる烈央くんだ!
「……あっ」
なんで烈央くんから肩に手を置かれただけで、腰が抜けるほど怖かったのかを思いだして私は旧校舎二階へ視線を向ける。
「もう居ない……」
「うん?」
「あのね、さっきあそこの廊下に人がいたの」
「あそこって……旧校舎に?」
「うん」
烈央くんは旧校舎を見て、目を細めた。
あの旧校舎が建っている土地は、隠世で悪さをした鬼のあやかしが封じられている場所だ。
なにか感じ取るものがあるのかもしれない。
「結花ちゃん、ここ数日……いや学校にいる時はずっと、俺と星守から離れないでね? 用心をするに越したことはないから」
「わ、わかった……!」
──嫌な感じはしなかったけど、もしかしたら悪いあやかしの可能性があるから。
烈央くんは硬い声で言う。
旧校舎二階にいた赤い髪の子。
……あの子は誰だったんだろう?
◆◆◆◆◆
放課後。
私たち三人はおじいさんを探すべく、封鬼小学校周辺を巡回中。
「よし、おじさんを絶対に見つける──って居たぁぁぁぁ!?」
今日も頑張るぞと意気込んだら、プラ~と歩いているおじいさんを見つけて、つい大声を出す。
おじいさんは、私と目が合うとピシリと固まった。
……本当に、ぴくりとも動かない。
──えぇっ、ど、どうしたの!?
烈央くんと星守くんが今がチャンス! と、そーっと、そーっとおじいさんと距離を詰めていく。
いつものおじいさんなら、すでに逃げているであろう間合いに入っても動かない。
なんだか心配になってきた。
「お、おじいさんっ?」
たまらず私は、おじいさんに話しかける。
「結花ちゃん? 静かにしててくれっ」
「そうだよっ、あともう少しなんだから!」
烈央くんと星守くんが「なにやってるの!」って顔で見てくるけど、さすがにこれは様子がおかしい気がするのっ。
おじいさんは私の目をじーっと見て、なにか……もっと深いナニカを見られている気がしてきた。
なんだかざわり、と心が落ち着かない。
「お嬢さんや……誰かに会ったかい?」
「へ? い、いえ別に……あ! えっと、不思議な子には会いましたというか、居た? というか?」
「──ほっほっほっ」
急に笑い出しおじいさんに、私たち三人の頭の上には大きなハテナが浮かぶ。
でもいつも聞くおじいさんの笑い声に、私はすこしホッとした。
「そうかそうか、お嬢さんだったか……よかったのぉ」
「お、おじいさん?」
「送り屋さんや、ワシを隠世へ送っておくれ」
突然のおじいさんの言葉に、私たち三人は息をのむ。
隠世に送ってって……、おじいさんは誰かを探していたんじゃないの?
「き、急になにさ!? あ……、またボクを騙そうとしてるんじゃないのっ?」
星守くんはバッテンを作るように、腕を体の前にやって身構える。
そんな星守くんの横を通り過ぎて、烈央くんがおじいさんに近づいた。
「おじいさん……誰かを探していたんじゃないのかい? もういいの?」
烈央くんが、私が思ってたことを聞いてくれた。
「んー、そうじゃったんじゃが……もう良くなったんじゃよ。ほれ、はよワシを返しておくれ。老人には現世は堪えるからのぉ」
「おじいさんがいいのなら、俺がとやかく言うことじゃないけれど……」
「坊やは物分かりがいいのぉ。将来、出世するぞ~? ほっほっほ」
「別に誰かの顔色をうかがってるわけじゃないよ。……それに、俺は実力で出世するからね」
「んん~、本当にその通りになりそうな坊やじゃからのぉ。まぁ、精進しなさい」
隠世へ帰るための通行証をおじいさんが無くしてしまったらしく、隠世への門を開くために私たちは人目が少ない旧校舎へ戻ることになった。
本校舎からは死角になっている旧校舎の一角に、私たち四人は集まる。
「お嬢さんや」
ちょいちょい、とおじいさんに手招きされて横に並ぶ。
「おじいさん、なんですか?」
おじいさんはナイショ話をするように、私の耳元に顔を寄せた。
「お嬢さんや、いまは楽しいかい?」
「……っ!」
おじいさんの質問に、私は目を見開く。
なんの感情もない、無の顔。
でもとっても綺麗な顔をしている子が立っていた。
三つ編みにされている、腰まである燃えるように赤い髪。
男の子なのか女の子かわからないその子は、私と目が合うとスゥと目を細めた。
──体が、動かない……!
声も出なくなって、金縛りにあったように体が動かなくなる。
ドッドッと心臓が速くなって、汗がだらりとふき出てきた。
目をそらしたいのに、そらせない。
そらしたくない……そらしたい。
変な感情がぐるぐるとうずを巻いて、足が地面についているのかわからなくなる。
い、いったいなんなの?
怖い……誰かっ……!
──ぽん。
「ひゃあぁぁ!?」
「っ、結花ちゃんどうかした?」
「あ……れお、くん」
ビ、ビックリした……!
叫んで座りこんでしまった私を心配そうに覗きこんでくる烈央くん。
急に叫ぶなんて、烈央くんからしたら逆に怖かっただろうなと思うと申し訳なくなってきた。
「教室にいなかったから、どこに行ったのかと思って探しにきたんだ。もうすぐ授業がはじっちゃうから戻ろう。大丈夫? 立てるかい?」
「…………」
「結花ちゃん?」
「アハハ……腰が抜けちゃったみたい?」
パチパチを大きな瞳を瞬かせて、烈央くんはクスリと笑う。
「笑うことないじゃんっ、烈央くん。ひどい!」
「いやごめん……、ふは。可愛くてつい。本当にごめん」
キラキラオーラ全開で優しく笑うものだから、眩しすぎて烈央くんから目をそらす。
「ちょっと失礼するね」
「──きゃっ」
よいしょ、と烈央くんは私をお姫様抱っこで持ち上げた。
「れれれれ烈央くんっ? なにしてるの!?」
「これなら教室に戻れるだろう?」
「戻れるけども! はっ恥ずかしいよ……!」
「じゃあ教室にたどり着く前に、一人で歩けるようになると良いね?」
ニヤリ、と笑う顔はいたずらっ子そのもの。
──いっ、いじわる烈央くんだ!
「……あっ」
なんで烈央くんから肩に手を置かれただけで、腰が抜けるほど怖かったのかを思いだして私は旧校舎二階へ視線を向ける。
「もう居ない……」
「うん?」
「あのね、さっきあそこの廊下に人がいたの」
「あそこって……旧校舎に?」
「うん」
烈央くんは旧校舎を見て、目を細めた。
あの旧校舎が建っている土地は、隠世で悪さをした鬼のあやかしが封じられている場所だ。
なにか感じ取るものがあるのかもしれない。
「結花ちゃん、ここ数日……いや学校にいる時はずっと、俺と星守から離れないでね? 用心をするに越したことはないから」
「わ、わかった……!」
──嫌な感じはしなかったけど、もしかしたら悪いあやかしの可能性があるから。
烈央くんは硬い声で言う。
旧校舎二階にいた赤い髪の子。
……あの子は誰だったんだろう?
◆◆◆◆◆
放課後。
私たち三人はおじいさんを探すべく、封鬼小学校周辺を巡回中。
「よし、おじさんを絶対に見つける──って居たぁぁぁぁ!?」
今日も頑張るぞと意気込んだら、プラ~と歩いているおじいさんを見つけて、つい大声を出す。
おじいさんは、私と目が合うとピシリと固まった。
……本当に、ぴくりとも動かない。
──えぇっ、ど、どうしたの!?
烈央くんと星守くんが今がチャンス! と、そーっと、そーっとおじいさんと距離を詰めていく。
いつものおじいさんなら、すでに逃げているであろう間合いに入っても動かない。
なんだか心配になってきた。
「お、おじいさんっ?」
たまらず私は、おじいさんに話しかける。
「結花ちゃん? 静かにしててくれっ」
「そうだよっ、あともう少しなんだから!」
烈央くんと星守くんが「なにやってるの!」って顔で見てくるけど、さすがにこれは様子がおかしい気がするのっ。
おじいさんは私の目をじーっと見て、なにか……もっと深いナニカを見られている気がしてきた。
なんだかざわり、と心が落ち着かない。
「お嬢さんや……誰かに会ったかい?」
「へ? い、いえ別に……あ! えっと、不思議な子には会いましたというか、居た? というか?」
「──ほっほっほっ」
急に笑い出しおじいさんに、私たち三人の頭の上には大きなハテナが浮かぶ。
でもいつも聞くおじいさんの笑い声に、私はすこしホッとした。
「そうかそうか、お嬢さんだったか……よかったのぉ」
「お、おじいさん?」
「送り屋さんや、ワシを隠世へ送っておくれ」
突然のおじいさんの言葉に、私たち三人は息をのむ。
隠世に送ってって……、おじいさんは誰かを探していたんじゃないの?
「き、急になにさ!? あ……、またボクを騙そうとしてるんじゃないのっ?」
星守くんはバッテンを作るように、腕を体の前にやって身構える。
そんな星守くんの横を通り過ぎて、烈央くんがおじいさんに近づいた。
「おじいさん……誰かを探していたんじゃないのかい? もういいの?」
烈央くんが、私が思ってたことを聞いてくれた。
「んー、そうじゃったんじゃが……もう良くなったんじゃよ。ほれ、はよワシを返しておくれ。老人には現世は堪えるからのぉ」
「おじいさんがいいのなら、俺がとやかく言うことじゃないけれど……」
「坊やは物分かりがいいのぉ。将来、出世するぞ~? ほっほっほ」
「別に誰かの顔色をうかがってるわけじゃないよ。……それに、俺は実力で出世するからね」
「んん~、本当にその通りになりそうな坊やじゃからのぉ。まぁ、精進しなさい」
隠世へ帰るための通行証をおじいさんが無くしてしまったらしく、隠世への門を開くために私たちは人目が少ない旧校舎へ戻ることになった。
本校舎からは死角になっている旧校舎の一角に、私たち四人は集まる。
「お嬢さんや」
ちょいちょい、とおじいさんに手招きされて横に並ぶ。
「おじいさん、なんですか?」
おじいさんはナイショ話をするように、私の耳元に顔を寄せた。
「お嬢さんや、いまは楽しいかい?」
「……っ!」
おじいさんの質問に、私は目を見開く。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
織田信長の妹姫お市は、異世界でも姫になる
猫パンダ
恋愛
戦国一の美女と言われた、織田信長の妹姫、お市。歴史通りであれば、浅井長政の元へ嫁ぎ、乱世の渦に巻き込まれていく運命であるはずだったーー。しかし、ある日突然、異世界に召喚されてしまう。同じく召喚されてしまった、女子高生と若返ったらしいオバサン。三人揃って、王子達の花嫁候補だなんて、冗談じゃない!
「君は、まるで白百合のように美しい」
「気色の悪い世辞などいりませぬ!」
お市は、元の世界へ帰ることが出来るのだろうか!?
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
高難易度ダンジョン配信中に寝落ちしたらリスナーに転移罠踏まされた ~最深部からお送りする脱出系ストリーマー、死ぬ気で24時間配信中~
紙風船
ファンタジー
入るたびに構造が変わるローグライクダンジョン。その中でもトップクラスに難易度の高いダンジョン”禍津世界樹の洞”へとやってきた僕、月ヶ瀬将三郎はダンジョンを攻略する様を配信していた。
何でも、ダンジョン配信は儲かると聞いたので酔った勢いで突発的に始めたものの、ちょっと休憩してたら寝落ちしてしまったようで、気付けば配信を見ていたリスナーに居場所を特定されて悪戯で転移罠に放り込まれてしまった!
ばっちり配信に映っていたみたいで、僕の危機的状況を面白半分で視聴する奴の所為でどんどん配信が広まってしまう。サブスクも増えていくが、此処で死んだら意味ないじゃないか!
僕ァ戻って絶対にこのお金で楽な生活をするんだ……死ぬ気で戻ってやる!!!!
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様でも投稿しています。
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる