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第六章 おじいさんは神出鬼没?

39話

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 放課後。
 一度家に帰ってランドセルを置いてから、私たちはまた集まって学校の周りを巡回中。
 
「ねぇねぇ。その探してるあやかしのおじいさんは、どれくらい滞在期間を過ぎてるの?」
「えっと、一ヶ月現世うつしよに滞在予定で、いまは二ヶ月をすぎたところかな」
「じゃあ一ヶ月間も不法滞在中ってことだよね。……どんな服装だった?」
「黒い着物を着ていて、少し後頭部が長かったよ」
「あと~、口ひげが長くて『ほっほっほっ』て笑ってた。ボクのこと、チビだって言ったんだよ? くぅ、ボクはこれから成長するんだからっ……!」
「──あ、二人が言ってるおじいさんってあんな感じ?」

 私は道の向こう側を指差す。
 二人の視線が私の指をたどって、向かい側の道路を一人で歩いているおじいさんを見た。

「……いた!」
「っ、今度こそボクがとっつかまえてやるんだからっ!」

 二人は猛ダッシュでおじいさんへ突進していく。

「ま、待ってよ二人ともー!」

 二人の足が速くて、中々追いつけない。
 はぁはぁと息を切らして走り、どうにか追いついたと思うと二人は険しい顔をしていた。

「はぁはぁっ、おじ、おじいさんはっ?」
「……それが、また逃げられた」
「あぁもうっ人間の姿だと動きづらい!」

 ──ボフン!
 星守くんがあやかしの姿に戻った。
 怒っているのか、しっぽは毛が逆立っている。
 やっぱりあやかしの姿の方が、二人にとっては本来の姿だから身体的な違いがあるのかな。
 烈央くんもあやかしの姿に戻る。
 こうなると二人は周りの人から姿が見えない。
 でも人間の私は、そこらじゅうを走り回っていたら他の人から姿が見えちゃう。
 一人でナニカを追いかけてる、変な子って思われるかも……!
 ……いやいや、これは大事なお仕事っ。
 最後までやりきらなきゃ!

「結花ちゃん、ここからは散らばって探そう。もし見つけたら俺たちの名前を大声で呼んで。これくらいの範囲なら聞こえるから」
「わかった!」
「ボク、あっちの方行くから烈央と結花は向こう側に!」
『了解!』

 三方向に散らばって、おじいさんを追う。
 でもおじいさんを探していると、角から急に怖いあやかしが出てきてそのあやかしから隠れたりと、中々集中して探せない。
 結構な時間走りまわったけどおじいさんは見つからなくて、疲れてしまいちょっと一休み。
 途中にあった河辺の階段に座る。

「ふぅー。よし、もうちょっと休んだらまた探しに行こう。烈央くんと星守くんも頑張ってるし。おじいさん見つかったかな?」
「んん~。まだ見つかってないようじゃのぉ」
「うぐ、それはまた星守くんが怒ってそう──へ?」
「ここは休憩するのにいいのお。川の流れる音が、耳に心地いいわい」
「──おおおお、おっおじいさん!?」

 隣を見ると、まさに探していたおじいさんがちょこんと座っていた。

「ほっほっほ。元気じゃのぉ、……左の鼓膜が破れるかと思ったわい」
「破れっ!? わ、ごめんなさい!」

 頭を下げて謝る。
 おじいさんは、笑って許してくれた。
 恐る恐る顔を上げて、あらためておじいさんを観察してみる。
 黒い着物を着ていて、後頭部が少し長くて「ほっほっほ」って笑う……うん、紛れもなく二人が言っていたおじいさんだ。

「そうじゃ、お嬢さん。ちょいと昔話でも聞いてくれんかね?」
「へ? い、いですけど……」

 昔話を聞いている間、おじいさんを足止めできるなら願ってもないことだ。
 もしかしたら、話を聞いている間に烈央くんと星守くんが近くを通るかもしれない。
 二人には見つけたら大声を出せって言われていたけど、……なんだか私はおじいさんの話がすごく気になった。

「おじいさん、どんな昔話ですか?」
「鬼の話じゃよ──大昔、隠世かくりよには鬼がいたんじゃ。とても力が強く、孤独なあやかしじゃった。隠世にいたあやかしたちは、力が強い鬼を恐れてめったに近付きはせん」

 ──ワシも鬼に会ったことがあるが、なにもかもを焼き尽くすような赤い髪をしていたよ。
 ──鋭い金の瞳には光がなく、感情が読み取りづらかったがワシには悲しげに見えた。

 なんだかおじいさんから語られる鬼は、とても可哀想な鬼の姿だった。 
 なにかをしたわけじゃないのに、力が強いだけでみんなに恐れられて、ひとりぼっちの鬼。
 聞いているだけで、胸がキュゥとしめつけられる……そんなお話だ。

「でもある時、ひとりぼっちの鬼は一人じゃなくなった。なんでか、わかるかの?」
「……お友達が出来たんですか?」

 私の答えを聞くと、おじいさんは「ほっほっほ」と自分の長い口ひげを触って笑う。

「惜しい。友達よりももっと深い関係……伴侶ができたんじゃよ。奥さんじゃ」
「素敵っ、よかったですね!」

 ひとりぼっちの鬼に、ずっと一緒にいてくれる相手ができたことが嬉しい。
 昔話……あやかしのお話だとしても、ほっとする。

「特別な力を持った人間の女性でな。一度だけ会ったことがある。それはそれは……優しい子じゃったのぅ」
「その鬼と奥さんは、最後まで一緒に幸せに暮らせたんですか?」

 ふと思ったことを聞いてみると、おじいさんは口ひげを触って「うーん」とうなる。
 もしかして、離ればなれになっちゃったのかも。
 どうか、二人が幸せだったと言ってくれますように。
 そう祈りながら、私はおじいさんの言葉を待った。
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