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第四章 現世の朝霧家にて、猫又と座敷童子と

28話

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「烈央は人当たりはいいけど……、誰かと深く関わろうとしないところが短所かな」
「ええっ、そうですか?」

 私は不思議に思いながら、烈央くんの行動を思い返してみた。
 廊下を歩いていて名前を呼んでくる女の子がいれば、笑顔で手をふり返していた気がする。
 それにもう三回くらい、告白されている場面を目撃したことがあるけど、申し訳なさそうに丁寧に断っていた。

 優しい烈央くん、が私の中のイメージ。
 でも……と、私はあることを思い出す。

 言われてみれば、特定の子と仲良くしているところを見たことがないかも?
 二人が転校してきてから、送り屋のこともあって自然と私たち三人は、毎日一緒にいる気がする。
 だから三人のうち誰かが居なかったら、居ないなって記憶に残るくらいには。


「──そんな烈央も、結花さんにはなついているみたいだし。私としては嬉しいけれどね」
「な、なついて……ますかね?」

 烈央くんは優しいげに見えて、意外といじわるな一面もある。
 この間だって……!
 私の家で、三人で宿題をやっていた時。
 わからない問題があって教えて欲しいって言ったら、烈央くんがすごく近くに来たの。
 びっくりした私が顔を真っ赤にしながら恥ずかしがってるのを見て、クスクス笑ってたんだよ……?
 思いだしたらなんだか腹が立ってきて、私はぷくーと頬をふくらませる。

「ふふ、若いっていいね」
「へ? 伊織さんも十分お若いですよっ。烈央くんと星守くんのお兄さんって言われても、納得しちゃいます」
「ありがとう。でも私はもう、数百年は生きてるから立派な年寄りさ」
「──す、すうひゃくねん!?」

 全然見えない!
 お肌だってシワがひとつもないピチピチだし、髪もツヤツヤだ。
 私のお母さんは四十代で、シワの一つや二つ……いやそれ以上にあるのに。
 あやかしって……伊織さんってすごい。

「感心しているところ悪いけれど、結花さん」
「ひゃいっ!?」
「ふふ。……烈央と星守、二人とも良い子だからぜひ仲良くしてあげてほしい」
「はいっそれはもちろんです!」

 にこりと伊織さんが笑った。
 私もつられて、にへっと笑う。
 じんわり、あたたかい空気が部屋に流れた。
 ちょいちょい、と桜子ちゃんに袖を引っ張られる。

「桜子ちゃん、どうしたの?」
「烈央と星守はねー、まだ子供だからわがままでも仕方ないんだよー? 桜子は百年……うーん? 二百年だったけ? 三百年かも。うんとね、たくさん生きてるから大人なの!」
「さ、三百年!? 桜子ちゃんはすごく長生きなんだね……?」
「うん。座敷わらしだもーん」

 そう言いながら、桜子ちゃんは自分のカステラを食べ終えて物足りないのか、伊織さんの分に手を出そうとしている。
 あ、ペシッと手を伊織さんにはらわれちゃった。

 うわーんと泣きながら、私の所にやってきた桜子ちゃんの頭をよしよしと撫でる。
 私の分のカステラを差し出せば、目を輝かせてモグモグと頬張った。
 うん、可愛い……!
 妹がいたらこんな感じなのかな?
 自分のことを大人だって言ってたけど、桜子ちゃんはやっぱりまだ可愛い子供みたいだ。

「……すまないね、結花さん。後で新しいのを出してあげよう」
「いえ、大丈夫ですよ!」
「桜子。結花さんにお礼を言いなさい」
「もぐもぐ、もぐもぐ(ありがとう、おねぇちゃん)」
 
 食べながら言う桜子ちゃんに、私と伊織さんは顔を見合わせて苦笑い。

「──あぁ、私としたことが言い忘れていたよ。私はね、『雪女』なんだ」
「……へ?」

 烈央くんと星守くんが狐のあやかしなのは、前に二人から聞いていた。
 でも伊織さんが雪女だったなんて……!

 雪女と聞いて真っ先に思い浮かんだのは、長い髪に白い着物で口からふぅーと吹雪を吐く女の人。
 あれ?
 男性の伊織さんでも雪女になれるのかな?

「ちょっとややこしいけど、男の私でもちゃんと雪女だよ。男や女でわけるものじゃなくて、そういう『種族』なんだ。ふふ、見てて」

 伊織さんは、ふぅーとコップに入ったお茶に息を吹きかけた。
 するとパキパキッと音を立てて、お茶が凍っていく。 

「わ、すごい……!」
「結花さんは素直でいいですね」
「あ、ありがとうございます?」

 なんで褒められたのかわからないけど、お礼を言っておく。
 ふと伊織さんが表情をひきしめた。
 私もつられて背筋がのびる。

「結花さん」
「はいっ」
「……しばらくの間、烈央と星守と共に送り屋を──」

 伊織さんの言葉をさえぎるように、スパァァン! と音を立てて襖が開いた。
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