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第二章 ウワサの"のっぺらぼう"を捕まえろ!
9話
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──放課後。
私たち三人は誰もいない五年一組の教室で、顔をつき合わせていた。
ウワサ話の中には『放課後、校舎で遊んでいるといつの間にか一人増えている』というエピソードもあったからだ。
星守くんは私の前の席の椅子を回転させて、私と向き合う形で座っている。
「そう言えばのっぺらぼうって、あやかしなの? 妖怪とか怪異? のイメージがあるけど……あやかしとの違いってなにかあるのかな」
「そうだね……幽霊、妖怪、怪異。人が呼ぶ名前は色々あるけど、それらの総称があやかしなんだ。だから違いはないよ。例えば、白いワンピースを着た髪の長い女性が暗闇にぽつりと立っていたら、幽霊だって思うよね?」
「うんっ。すっごく怖い幽霊」
「その幽霊も、トイレの花子さんとか学校の怪談なんて言われる怪異も、すべてがあやかしと呼べるんだ」
「人間は細分化するけど、ボクたちから見れば全部同じだよ」
「へぇ……私、あやかしと幽霊は違うと思ってた!」
「幽霊はどちらかというと人の魂、怨念っていうイメージがあるからね。幽霊と呼んでもいいし、あやかしって呼んでもいいと俺は思う」
「なるほど……。うん、すこしはわかったかも。教えてくれてありがとう!」
「また一つ結花が賢くなったところで、なにして遊ぶー? 走りまわりたくないから……あ、こっくりさんとかぁ?」
「やるわけないよっ!? そんな怖いこと!」
食い気味で私が否定すれば星守くんは「なに、結花ってば怖いのぉ?」と言ってきた。
ニヤニヤとその目は楽しそうに細められている。
……ぐぅ、図星すぎてなにも言い返せない!
「まぁ、星守の提案も一理あるかも」
「ひぃ烈央くんまでっ……!」
「でものっぺらぼうを誘い出すには、楽しく遊んでた方が良いかもしれないな」
「そ、そそそうだよ、楽しい遊びにしよう! なにかあるかな烈央くん?」
「うーん、かくれんぼとかどう?」
「かくれんぼ……。うん、それならまぁ──」
「ふふっ。いかにも一人増えそうだろう?」
烈央くんは、あやしげにニヤリと笑った。
……烈央くんまで、怖いことを言わないでよ!
「んじゃ、かくれんぼで決まりね! はい、じゃーんけーんッ」
「わ、待って星守くん!」
──ボンッ!
急なかけ声に、私はあわててグーを出した。
星守くんも同じグーを出している。
烈央くんはチョキを出しているから……、かくれんぼの鬼は烈央くんだ。
「俺の負けみたいだね」
「あれ? 珍しいじゃん、烈央が負けるなんて」
「そういう時もあるよ。さ、二人とも隠れて。場所はそうだな……俺たちの教室があるここ、三階だけにしよう」
「だね。下の階にいくと、結界を張った意味がなくなっちゃうし」
二人のやりとりに、私は首を傾げた。
「結界?」
「うん。いま、俺たちがいる三階だけに特別な結界を張ってあるんだ」
烈央くんの説明に、ますますワケがわからなくなる。
「しょうがないなぁ。おバカな結花に、ボクがわかりや~すく言ってあげる」
「むぅ……。ぐっ、よろしくお願いします」
「ふふーんまかせて。──他の人が、無意識に三階に来ないようにする結界をはってるの」
「なる、……ほど?」
そう言うと、星守くんはジトッとした目で私を見た。
この目は「本当にわかってんの?」と言っているに違いない。
すーっと目をそらしておく。
「……ふふっ」
「っ!」
目をそらした先にいた烈央くんと目が合うと、ほほ笑まれた。
……いや、笑われた?
「むう。烈央くんまで、私をおバカだって思ったんでしょ」
「まさか。そんなことはないよ」
と言いつつも、まだ私の顔を見つめる烈央くん。
「……もしかして、私の顔に何かついてるっ!?」
ぺたぺたと顔を触っても、特に何かついている気配はない。
よかった、何かついてたら恥ずかしくて帰ってるところだった。
「あぁごめん。本当になんでもないよ、結花ちゃん」
──そんなことを言われても、気になる!
気になるよ、烈央くん!
「さ、話を続けて星守」
「……ホント、烈央ってそういう所あるよね」
「ふふ。なにが?」
「べっつにぃ?」
ぷくーっと頬をふくらませた星守くん。
でもすぐに普通に戻って話し始めた。
「……ま、烈央のことは置いといて。結界の、三階に来ないようにするっていうのは例えば、『行こうとしたら用事を思い出して引き返す』とかね」
「そんな結界を二人は張れるの? すごい!」
「ボクたちがって言うか、そういう結界札があるんだよ。まぁ、使うにはボクたちの妖力がいるけどさー」
「お札かぁ……。それ私も使えたり……あ、でも妖力が必要なら無理かな」
「うーん、無理かもしれないね。結花ちゃんからは妖力を感じない。だから、俺たちを回復させられること自体とても不思議なんだよ」
烈央くんの冷静な分析により、お札を使う夢が崩れていく。
でも、やっぱり二人はすごいね、と興奮気味に私が言えば星守くんは頬を赤くした。
「……別にぃ、お札くらい簡単だしぃ?」
結界を張るお札が使えるなんて、それだけで十分すごいのに。
私がいつも一緒にいたあやかしといえば、わた毛たちや小さなあやかしが多かったから、術を使える二人はとってもすごいあやかしに思えた。
「お札以外にも、何かあるの?」
「もっとすごい結界や、式神だって──」
「はーい、調子にのらないの。星守」
得意げに話し始めた星守くんの背後に、いつの間にか立っていた烈央くん。
笑顔のまま、星守くんの頭をガシッと掴んだ。
「──イタタタタッ!? ちょ、やめてよ烈央っ!」
「早く逃げないと捕まえちゃうよ? いーち、にーい、さーん」
「ってもうカウントが始まってるし!! 逃げるよ結花!」
「ええっ!? うん!」
どうにか烈央くんの手をふりほどいた星守くんに腕を引かれて、私は教室を飛び出した。
私たち三人は誰もいない五年一組の教室で、顔をつき合わせていた。
ウワサ話の中には『放課後、校舎で遊んでいるといつの間にか一人増えている』というエピソードもあったからだ。
星守くんは私の前の席の椅子を回転させて、私と向き合う形で座っている。
「そう言えばのっぺらぼうって、あやかしなの? 妖怪とか怪異? のイメージがあるけど……あやかしとの違いってなにかあるのかな」
「そうだね……幽霊、妖怪、怪異。人が呼ぶ名前は色々あるけど、それらの総称があやかしなんだ。だから違いはないよ。例えば、白いワンピースを着た髪の長い女性が暗闇にぽつりと立っていたら、幽霊だって思うよね?」
「うんっ。すっごく怖い幽霊」
「その幽霊も、トイレの花子さんとか学校の怪談なんて言われる怪異も、すべてがあやかしと呼べるんだ」
「人間は細分化するけど、ボクたちから見れば全部同じだよ」
「へぇ……私、あやかしと幽霊は違うと思ってた!」
「幽霊はどちらかというと人の魂、怨念っていうイメージがあるからね。幽霊と呼んでもいいし、あやかしって呼んでもいいと俺は思う」
「なるほど……。うん、すこしはわかったかも。教えてくれてありがとう!」
「また一つ結花が賢くなったところで、なにして遊ぶー? 走りまわりたくないから……あ、こっくりさんとかぁ?」
「やるわけないよっ!? そんな怖いこと!」
食い気味で私が否定すれば星守くんは「なに、結花ってば怖いのぉ?」と言ってきた。
ニヤニヤとその目は楽しそうに細められている。
……ぐぅ、図星すぎてなにも言い返せない!
「まぁ、星守の提案も一理あるかも」
「ひぃ烈央くんまでっ……!」
「でものっぺらぼうを誘い出すには、楽しく遊んでた方が良いかもしれないな」
「そ、そそそうだよ、楽しい遊びにしよう! なにかあるかな烈央くん?」
「うーん、かくれんぼとかどう?」
「かくれんぼ……。うん、それならまぁ──」
「ふふっ。いかにも一人増えそうだろう?」
烈央くんは、あやしげにニヤリと笑った。
……烈央くんまで、怖いことを言わないでよ!
「んじゃ、かくれんぼで決まりね! はい、じゃーんけーんッ」
「わ、待って星守くん!」
──ボンッ!
急なかけ声に、私はあわててグーを出した。
星守くんも同じグーを出している。
烈央くんはチョキを出しているから……、かくれんぼの鬼は烈央くんだ。
「俺の負けみたいだね」
「あれ? 珍しいじゃん、烈央が負けるなんて」
「そういう時もあるよ。さ、二人とも隠れて。場所はそうだな……俺たちの教室があるここ、三階だけにしよう」
「だね。下の階にいくと、結界を張った意味がなくなっちゃうし」
二人のやりとりに、私は首を傾げた。
「結界?」
「うん。いま、俺たちがいる三階だけに特別な結界を張ってあるんだ」
烈央くんの説明に、ますますワケがわからなくなる。
「しょうがないなぁ。おバカな結花に、ボクがわかりや~すく言ってあげる」
「むぅ……。ぐっ、よろしくお願いします」
「ふふーんまかせて。──他の人が、無意識に三階に来ないようにする結界をはってるの」
「なる、……ほど?」
そう言うと、星守くんはジトッとした目で私を見た。
この目は「本当にわかってんの?」と言っているに違いない。
すーっと目をそらしておく。
「……ふふっ」
「っ!」
目をそらした先にいた烈央くんと目が合うと、ほほ笑まれた。
……いや、笑われた?
「むう。烈央くんまで、私をおバカだって思ったんでしょ」
「まさか。そんなことはないよ」
と言いつつも、まだ私の顔を見つめる烈央くん。
「……もしかして、私の顔に何かついてるっ!?」
ぺたぺたと顔を触っても、特に何かついている気配はない。
よかった、何かついてたら恥ずかしくて帰ってるところだった。
「あぁごめん。本当になんでもないよ、結花ちゃん」
──そんなことを言われても、気になる!
気になるよ、烈央くん!
「さ、話を続けて星守」
「……ホント、烈央ってそういう所あるよね」
「ふふ。なにが?」
「べっつにぃ?」
ぷくーっと頬をふくらませた星守くん。
でもすぐに普通に戻って話し始めた。
「……ま、烈央のことは置いといて。結界の、三階に来ないようにするっていうのは例えば、『行こうとしたら用事を思い出して引き返す』とかね」
「そんな結界を二人は張れるの? すごい!」
「ボクたちがって言うか、そういう結界札があるんだよ。まぁ、使うにはボクたちの妖力がいるけどさー」
「お札かぁ……。それ私も使えたり……あ、でも妖力が必要なら無理かな」
「うーん、無理かもしれないね。結花ちゃんからは妖力を感じない。だから、俺たちを回復させられること自体とても不思議なんだよ」
烈央くんの冷静な分析により、お札を使う夢が崩れていく。
でも、やっぱり二人はすごいね、と興奮気味に私が言えば星守くんは頬を赤くした。
「……別にぃ、お札くらい簡単だしぃ?」
結界を張るお札が使えるなんて、それだけで十分すごいのに。
私がいつも一緒にいたあやかしといえば、わた毛たちや小さなあやかしが多かったから、術を使える二人はとってもすごいあやかしに思えた。
「お札以外にも、何かあるの?」
「もっとすごい結界や、式神だって──」
「はーい、調子にのらないの。星守」
得意げに話し始めた星守くんの背後に、いつの間にか立っていた烈央くん。
笑顔のまま、星守くんの頭をガシッと掴んだ。
「──イタタタタッ!? ちょ、やめてよ烈央っ!」
「早く逃げないと捕まえちゃうよ? いーち、にーい、さーん」
「ってもうカウントが始まってるし!! 逃げるよ結花!」
「ええっ!? うん!」
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