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第一章 イケメン双子の転校生は、あやかしでした

6話

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 お母さんはテーブルに飲み物とケーキを置くと、スススッと部屋を出て扉の隙間からチラリと顔をのぞかせる。

「ううふ。ごゆっくり~」
「すみません、わざわざ。ありがとうございます」
「ありがとうございます、結花ゆかちゃんのお母さん~」

 ニコニコと笑いながら手をふり返す星守せらくん。
 パタンと扉が閉まると、スッと表情が普通に戻ってケーキを食べ始めた。

 星守くんって表情筋がやわらかいのね……、なんて的外れなことを思いつつ。
 私もショートケーキを頬張る。
 このために今日一日頑張ったと言っても過言じゃない。

 うーん!
 あまーいクリームと、イチゴの酸味が口の中で溶け合ってまさに至福!
 ケーキを味わっていると、一足先に食べ終わった星守くんが本題に入った。

「あのさぁ──結花、いつからあやかしが見えるようになったの?」
「……へ?」
「へ? じゃなくて。一定数いるんだよねぇ、人間なのにあやかしが見えるって人」

 まだ食べかけのケーキのお皿を一旦テーブルに置いて、星守くんをみる。
 私は普段、誰にもあやかしが見えることは言わないようにしていた。それはお母さんにもだ。
 みんなには見えないし、見えるって言っても嘘つき呼ばわりされてしまうから。
 嫌な思いをしたし、悲しいことだってあった。

 でも……。
 でもあやかしの二人になら、言ってもいいのかな。

「──私ね、小学一年生の時、突然ようになったんだ」
「じゃあ、さっきの『黒い影』はいつから結花ちゃんに付きまとうようになったんだい?」
「……!」

 烈央れおくんの口から出た言葉に、私は驚く。
 なんで黒い影のことを知ってるのと思ったけど、もしかしてあの時かな……? と思いだした。

 さっき三人で一緒に校舎から出た後、あの黒い影がまたグラウンドにいて私を見つめていた。
 お守りをぎゅっと握りながら「あっちにいって!」って念じたら消えていったんだけど……。
 烈央くん、気づいていたんだ。

「……あの黒い影が現れたのも、私があやかしを見えるようになった頃と同じかな。……これね、おばあちゃんに貰ったお守りなんだけど、いつも私を守ってくれるの」

 ヒモで首から下げていたお守りをテーブルの上に置く。
 烈央くんはお守りを持って、何かを確認しはじめた。

「これは……強力な守護のお守りだね」
「あやかしが私を襲ってきたら、そのお守りを待って『あっちに行って』っておねがいしたら、その通りになるの」
「うん、そういう効果がかけられているようだ。悪いものを寄せ付けないようにするお守りだよ。これがあるから、あの黒い影は結花ちゃんに近寄れないんだと思う」

 昔おばあちゃんにもらったお守り。
 おばあちゃんはもう亡くなってしまったけど、いまでも私を守ってくれてるんだね……。
 じわり、と胸があたたかくなる。

「ねぇ、それさ。ボクどっかで見たことある気がする」

 お守りを見て「うーん?」と考えている星守くんは、ポンと手を叩いた。

「ボクらが持ってるお守りに似てるんだ。ほら」

 私と同じようにヒモで首からさげていたのか、星守くんは服の中からお守りを取り出した。
 でもそのお守りは、私のと柄も文字も違う。
 どこが似てるんだろう?

「──あぁ、たしかに。が似てるね」

 烈央くんもお守りをもっているのか、取り出してテーブルの上に置く。
 二人とも色違いの黒と白のお守りで、狐のマークが描かれていた。

「俺たちのは、悪い瘴気しょうきから守ってくれるお守りなんだ」
「しょうき?」
「そうだね……順を追って話そうか。その方がわかりやすいだろうし」
「よろしくお願いしますっ」

 ケーキの最後の一口を食べ終えてから、私は背筋を伸ばして座る。

「えっと、まず俺たちは『狐のあやかし』なんだ」
「だから耳と尻尾があるってわけ。ほら」

 ボフンと音を立てて二人の頭に三角の耳、そしてもふもふの尻尾が現れた。
 さっき音楽室でも見たけど、やっぱりもふもふで可愛らしい。

「──って、やっぱり狐だったの!?」

 私さっき、狐が好きって言っちゃったよね?
 あ、だからなんだかフワフワした空気が部屋に流れたの?
 うわぁ……恥ずかしい!

 顔に熱が集まって、暑くなってきた。
 パタパタと手で顔を仰ぐ。
 こほん、と一つ咳をして烈央くんが話を続けた。

「結花ちゃんたちが住んでいる世界を現世うつしよ、あやかしが住んでいる世界を隠世かくりよと俺たちは呼んでいるんだ」
「ボクたちは、送り屋の仕事をするために封鬼ふうき小学校に通うことになったの。初任務ってやつ」

 烈央くんが「ノートある?」って言うから、私は適当な一冊のノートとペンを渡す。
 さらさらと箇条書きで、ノートに書きこんでいった。

『送り屋の仕事内容』
・現世で生活しているあやかしが、隠世へ行くことを願えば隠世に送ってあげる。
・現世で悪さをするあやかしがいれば、事件を解決してからあやかしを隠世に送る。
・隠世に住むあやかしが現世へ行き、あらかじめ決められている滞在期間を超えても現世にいる場合。あやかしは指名手配され、送り屋はそのあやかしを見つけ次第隠世へ強制送還すること、

※瘴気とは、簡単に言うと悪い空気。
 瘴気を体にたくさん溜めこんだあやかしは、凶暴化して人を襲うことがある。

「──と、まだまだたくさんやることはあるけど、ザッとこんな感じかな」
「まだあるのっ? これだけでも、すごく大変そうなのに……!」
「まぁボクたちは通常の任務と、もう一つ大事な任務があって現世に来たんだけどねー」
「大事な任務?」
「封鬼小学校に封印されているから最近、瘴気が漏れでてるの。その瘴気によって凶暴化したあやかしを正常に戻すために、ボクたち双子が抜擢されたってワケ」

 二人が言うにはとても昔、隠世にすごく悪い鬼がいたらしい。
 その鬼は隠世の偉いあやかしによって、封鬼小学校の旧校舎あたりの土地に封印されたんだって。

「ええっ、なんで封鬼小学校に封印したの? もし封印が解けちゃったら……ひっ!」
「大丈夫だよ結花ちゃん。封印はまだ数百年は解けそうにないから。それに別に初めから、学校に封印したわけじゃない。何百年も前の話だからね、その後にあの土地に学校が建てられたんだ」

 封印されている鬼から瘴気が漏れ出ていて、瘴気を溜めこんだあやかしが凶暴化……。
 もしも……もしも、あのが凶暴化して襲ってきたら?
 そしてお守りの効果が効かなかったら?

 すごく怖い話だ。
 最近、黒い影だけじゃなくて色々なあやかしが私を「うまそうだ」と言って見てくることが増えていた。
 その度にお守りを握りしめて走って逃げている。
 全部、鬼の瘴気と関係があるのかな……?

 ──むぎゅ。

「……!?」
「暗い顔してると、こっちまで嫌になるからやめてくれる? 何を心配してるかわかんないけど、ボクたちは強いんだからね」

 星守くんに、狐のぬいぐるみを横から顔におしつけられた。
 嫌になるって言ってるけど、その瞳はどこか心配そうに私をみている。
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