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「泊まってけば。明日休みなんだろ」
 
 それはお誘い? なわけないよね。君はそんな人じゃない。例え好きでも男のなんか舐められないって言った。そんな君が、好きでもない僕を誘うはずなんかない。
 
「どうせ誰も帰ってこないんだ。あんたも帰ったって一人だろ。明日の朝飯も作れよ」
 
 ああ、君は寂しいんだ。
 近頃僕に懐いてきてくれるのは、寂しさを紛らわせるためか。
 僕が役に立てるのは嬉しい。
 でもね、僕は男なんだ。簡単に泊めるなんて言ってはダメだよ。

「今日は帰るよ。僕が寝込みを襲ったらどうするの? 相沢君、そんなこと、軽率に言ったらダメだよ」
 
 僕の言葉に、君は傷ついた表情をしてみせた。迷子の子供みたいな表情。前にも思ったけど、そんな無防備な表情を見せたら、狼に食べられてしまうよ。
 寂しさなんて、僕はもう慣れっこになってて、別段意識することもない。でも、君はまだ寂しさに慣れていないんだね。だから、僕なんかに縋ってしまう。
 君を甘やかしたいよ。ドロドロに甘やかして、僕なしにはいられないようにしてしまいたい。
 そして、そんな歪な感情を自分が持っていたことに、僕は驚く。
 君といると、僕はただの雄になる。
 
「じゃあ、またね」
 そう言って、僕は君の家を後にした。
 
 彼が、僕のことをどう思っているのかは分からない。
 でも、彼はたまにメッセージをくれるようになった。
 暇、とか、眠い、とか、そんな短いメッセージだったけど、仕事中に読み返してしまうくらい、僕は嬉しかった。
 
 意外に思われるかもしれないけど、僕は童貞じゃない。人並みに恋愛経験もしてきた。
 いじめにあったのは、いじめっ子達のやっかみもあったんだ。
 中学、高校と、僕には彼女がいた。女友達も多かった。見かけと違って男っぽくない性格が女の子達に安心感を与えたようだった。
 特に大人しい子達に好かれていた。
 そんなある日、クラスの派手なグループのメンバーに彼女がいじめを受けた。
 もちろん、僕は彼女を庇った。
 そしたら、奴らの標的は僕になった。
 教師は面倒くさいことから逃げるだけの役立たずで、親も仕事人間。
 彼女も女友達も、奴らを恐れて僕から離れていった。
 高校を辞めたのは、馬鹿らしくなったんだ。
 味方のいない場所で、暴力や陰湿ないじめに耐えて、そんなことになんの価値も感じなくなった。
 さっさと働いて、自立したかった。
 馬鹿でガキな奴らと、同じ土俵に立っていたくなかった。
 高校を中退してから、バイトを転々としてるうちに、今の事務所の社長に拾われた。
 学生時代と違って、出会いもなかったから、恋愛はご無沙汰だったけど、自分が男に惚れるなんて思ってなかった。
 
 そして君は、今まで付き合ってきた誰よりも、僕を雄にしてしまうんだ。
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