EX HUMAN

ゆんさん

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1章.崇高な夢とそれを邪魔する者(総理・富田貴広)

1.絵に描いた餅も、今では手に入る。

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「絵に描いた餅は、今や手に入る物なのです。
 古来、「絵に描いた餅」は、実現しないこと、現実にはならないことの意味でしたが、今はネット通販があります。絵を見て「欲しいな」って思えば、何でも手に入るんです」
 そう言っていた富田の「欲しい物」は、今や物に限ったものでは無くなっている。
 ネットビジネスの世界で財を築いた富田は、今や大金持ちでこの国で最も有名な‥インフルエンサーだ。
 一度口にした「絵空事」は、彼の財力と行動力‥そして、影響力により次々と現実のものとなっていく。
 いつしか消費者は彼のビジネスに夢中になった。
 軽い話し口調と、人好きのする笑顔、言葉選びの巧みさ‥
 人々は、彼の行動力に注目し、彼の行動に期待し、この国の未来を‥可能性を見出そうとした。
 いつしか彼は民衆に押され総理になっていた。

 人々が彼に求めたのは、国を統治するリーダーである政治家ではなく、新しい未来を提案するイベントプランナーであり、エンターテイナーだった。
 だから、総理という肩書は、彼にとっては「政治のリーダー」ではなく、「プロジェクトリーダー」というほどの意味しか持たなかった。
 だけど、お飾りの総理だって言っているわけでは無い。
 国民は彼を軽視しているわけでは無く、寧ろ「それでもいいからその地位に納まってくれ」と切望したのだ。
 彼なら、「誰を使えばいいかわかる」「彼が選んだ人なら問題がない」。だから、彼が総理になったなら、彼(と彼の協力者)がこの国を新しく変えていってくれるだろう。

 大事なこの国の未来、自分たちの人生をより良く変えるために‥人任せでいいと思ったわけでは無い。
 国民は、彼にこの国を託したのだ。

「知っての通り‥私には政治的手腕も知識もない。だけど、今時代が求めているのは‥今までの知識や経験だけではない。これまでの古い常識だけにとらわれることなく、新しい未来を探っていきませんか? 」
 彼はいつもそう言っている。
 無責任ではなく、謙虚に自分の無知を認め、周りに助言を求め、周りの意見に耳を傾ける。
 彼は斬新で革新的な性格であったが、柔軟な姿勢も持ち合わせていた。
 彼は彼の就任演説でこう語った。

「国民の皆さんが私に求める立場は‥治世者ではない。この国の新しいを提案するイベントプランナーであり、プロジェクトリーダーなのでしょう。‥だから、私は皆さんの期待に沿わなければいけない。
 今まで小さな会社の社長として(※ 世界的大企業にまで発展している会社のことを謙遜して言っているので、ここで周りから爆笑が起こる)後生大事に守ってきた「秘策」をこらからは国に還元していこうと思います。
 私が秘策を話してしまうことによってあの会社の新社長は困ってしまうかもしれませんが‥そこはこれから彼が自分で新しいことを考えていってくれたらな、って思っています。これからは私の会社じゃなく、彼の会社ですからね。‥自由にやっていって欲しいと思っています。
 それはともかく‥
 私は‥多くの会社の社長と同じように、会社の利益‥お金を儲けることを生業にして来ました。
 稼ぎ、運用すること。
 稼ぎ方も重要ですが、運営の仕方も重要です。
 ‥お金は、使い方を知らない者が使えば、無駄になる。新たな富を生む資金にならない支出は、ただの浪費でしかない。
 お金を上手に使えば、どこか一か所に富を集中させることなく、世の中を回していく潤滑油になり得る。
 そういう生きたお金を運用していく‥それが国家を持続させ、発展させていく「よりよい方法」だって私は思っています」

 金で買えないものはそう、ない。

「絵にかいた餅は今や、金を出せば手に入る物になったのです。
 もう、涎をたらして‥届かいないものだって、諦める必要は無いんです。
 お金を出せば買えるんです。
 なんでも! 
 世界一の美人?
 整形すればいいです。
 健康な体?
 最先端の医学に頼ればいい。
 寿命ばかりは何ともできませんが‥この先、それさえもどうにかできる時代が来るでしょう。
 もっと、多くを望みましょう。
 その願望が、世界をもっともっと進歩させていくでしょう。
 欲望こそが、発展の父で、努力や発明は、進歩の母です」 

 別に富田が何かを発見したり、研究するわけでは無い。
 ただ、何かを出来る者を支えることは出来る。
 センスと勘で人材を発掘してきて、「この人に自分の夢を託す」と決め、金銭的な援助をする。
 それが無駄になるのか、無駄にならないかは自分の責任だ。
 そういって、責任を研究者に押し付けたりはしなかった。その上、研究が成功すれば、富田はその業績を研究者のものと認め、その手柄を横取りすることはしなかった。
 (その研究の成果である)特許使用権が富田に帰属すれば、富田はそれでよかった。

 人々は富田のことを「食えない奴だ」といった。
 彼の人となりを評価できる程、彼のことを誰も知らなかった。
 だから、憶測で物を言う事を嫌う者は、彼のことを(いい人間だとも悪い人間だとも言わず)「上手くやってる」人間だと評した。

 彼は言う、
「自分のこの(総理という)地位は、世間が面白がってるだけだ。‥決して、自分の実力で登り詰めた‥とかいう類のものでは無い」
 って。
「世間は、「自分の生活」という自分が持っている票を賭けて、大賭博をしているんだ。私は、世間に今最も注目されている駒にしかすぎないのだ」
 と。

 「彼なら何かしてくれそう」「いや、してくれるに違いない」
 世間は、実に無責任な期待でもって‥彼を総理の座にまで押しやった。
 それ程世間は彼に期待し、そしてそれ以上に‥「今まで」に絶望していたのだった。
 

 世間の期待通り‥かは分からないが(ああいうのは、後になって‥結果が出ないと分からないものだから)富田はいつも世間の注目を集めていた。
 徹底した資本主義。
 目的達成の為なら既存の「常識」「凡例」「古くからの付き合い」を無視するその姿勢は、そういうものを大事にしてきた「伝統的な」政治家たちからは不評で「常識知らず」「結果だけを重視する冷酷な政治」との批判も多かった。
 その他の件でも、富田には倫理観がないという批判も多かった。だけど、今ではそんな批判をする者もいなくなった。そういった者を理論で納得させた、説得した‥というよりは、排除した。
 金で黙らせ、社会的に排除して‥今では、富田に異論を唱える者はいなくなった。
 独裁政治が取れるほどの、リーダーシップがあり、彼を信じて疑わない信者ともいえる‥協力者が周りに多くいた。
 彼にはそれだけの、カリスマ性があったのだ。
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