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第01話 我輩 VS. 魔王
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我輩は転生した。
転生以前の記憶はない。自分で消したからだ。
我輩に残っている記憶はというと、我輩を転生させた女神がすごくムカつくこと、転生する際に与えられた女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》を行使して、《全知全能最強無敵絶対優位》の存在になったこと、全能の力を使って最弱モンスター《モフ》の赤ちゃんから十五歳くらいの人間の少年に自分を変化させたこと、この三つのみである。
我輩がなぜ女神にムカついたかは、記憶を消したため分からない。
全能の力で記憶を復元することは可能だが、自分が消したのだから、わざわざ復元などしない。
もしかしたらモフに転生したことも関係しているかもしれない。
我輩は裸だったので、白いTシャツと黒い短パンを着衣状態で創造した。
それから、近くにいたモフを肩に乗せた。
そのモフはいちおう自分を出産した親であるが、我輩がそれを連れていくことにしたのは親だからではなく、単にかわいいペットが欲しかったからだ。
モフは饅頭に毛が生えたような見た目のモンスターで、白い毛は血統書付きの猫みたいに繊細。
つぶらな瞳は愛くるしく、鼻は猫の肉球みたいにプニプニしていて柔らかい。
口は小さく、小さな舌をペロペロと出して地面からミネラルを摂取する。
モフに最も見た目が近い動物はハムスターだ。強さが最も近い動物もハムスター。
だから、モフはモンスターのくせに、たいていの動物よりも弱い。まったくの無害なので、こいつを狩る者もほとんどいない。
ちなみに、鳴くときは「ぷぅぷぅ」と鳴く。
「おーい、女神さーん。これから我輩がおまえの仕事を全部台無しにしてやるからなー」
空を見上げてそう口にした我輩は、正面に向き直った。
視線の先にあるのは魔王城。
女神が人間を転生させてこの世界に勇者を送り込むのは、魔王を倒して人類の平和を守るためだ。
もちろん、我輩は人類の平和を守るなど、そんな使命はまっとうしない。むしろ我輩が魔王の立場を奪って人類を滅ぼしてやる。
それもこれも、すべては女神に対する嫌がらせのためだ。
大義名分なんて欠片もなく人類を滅ぼすのだから、我輩は正真正銘の悪である。
「まずは、拠点が欲しいな」
一瞬で立派な城を創造することもできるのだが、ここには目障りな建物があるため、それを奪うことにした。
その建物とは、魔王城である。
当然、そこには魔王がいる。
我輩が現れたというのに、我輩の存在を感知しておいて席を空けない不届き者がいる。
なんと図々しくて尊大で空気が読めない愚か者か。
我輩は魔王城の正面に瞬間移動し、正門をぶち破り、城の中へと入った。
待ち構えていた騎士風の兵隊モンスターたちを消し飛ばしながら、ずんずんと奥へ進む。
二階に上がったところで、貫禄のあるモンスターが現れた。
黒く体毛の濃い筋骨隆々の魔物が巨大な斧を持って仁王立ちしている。
闘牛でミノタウロスを作ったみたいな見た目だ。頭部には誇らしげにしゃくれ気味の角がそそり立っている。
「現れたな、勇者め。我は魔王配下四天王の一人、ベスティア。すべての獣族を統率するビーストマスターである」
「我輩は勇者ではない。無知蒙昧で愚鈍で場違いな愚か者め」
我輩がひと睨みすると、ベスティアの角、腕、脚が腹部へと折りたたまれていき、みるみる体が縮んでいく。
皿上の卵のように、小さく丸まった体が少し揺れるだけで身動きが取れなくなっている。
我輩は奥へ進むついでにそれを踏みつけていった。
その際、我輩は足が床と接触するくらいしっかりと踏み下ろしていった。
我輩は二階の奥にある階段を上がり、三階に着いた。
そこには、二足歩行の大きなロボットがどっしりと構えていた。
体中に刃物や火器を装着している。
「ワレハ、マキナ。マオウハイカシテンノウ、ノ、ヒトリ。ワレハ、フルカスタム、ノ――」
「まどろっこしい!」
我輩がひと睨みすると、マキナはボンッという爆発音とともに跳ねて、体中から黒い煙を立ち昇らせた。
プスプスと空気の漏れる音がする。
完全に破壊した。永遠に再起動は不可能。
「邪魔」
我輩はそのガラクタを一瞬で消滅、というか消去した。パッと消え去った。
なんで最初からそうしなかったかって? いたぶったほうが楽しいでしょうが!
我輩は四階に上がった。
四階で待ち構えていたのはダークエルフだった。
褐色の肌と鋭く尖った耳を持ち、魔術師のような黒いローブを身にまとい、紫色の玉を五指で鷲づかみするように包む木の杖を持っている。
よくばりなことに、背中にはごついボーガンを背負っている。
「私は魔王配下四天王の一人、ベネフィカス。貴様は何者だ? 名乗るがよい」
「名などない。貴様ごときが我輩の名を知ろうとするな。おこがましい」
頭上にブラックホールを出現させてやると、ダークエルフは勝手に吸い込まれていった。
我輩はブラックホールを消して奥へ進む。
我輩は五階へ上がった。
五階には暗黒騎士がいた。黒く光る厳かな鎧は歴戦のツワモノ感を醸し出していた。
そんな彼が例によって名乗りの口上を述べる。
「俺は魔王配下四天王の一人、ベルラトール。しかし俺に戦う意思はない。退いてはくれぬか? 俺は魔族と人類が共存できたらいいと考えている。そのために――」
「だめー。我輩が両方とも滅ぼすから、だめー」
我輩は手刀でズバッと暗黒騎士を切り裂いた。
左肩から右腰まで鎧ごとスッパリ切れ、その場に崩れ落ちた。
それからゴウッと燃え上がり、灰も残らず消え去った。
さっきから二度手間だって? だから、見せびらかしてんの!
我輩は最上階である六階へと上がった。
最上階の最奥には豪奢な玉座があった。
しかし、そこには誰もいない。
「逃げたか」
角だけは立派な魔王は、血相を変えて魔界の果てへと全速力で飛んでいる。
なぜ分かるかって? 我輩は全知なのだから当たり前だろ!
ちなみに、魔界と言っても世界に隔たりがあるわけではなく、魔族だけが生息する陽の当らない土地を《魔界》と呼称しているだけである。
人間界とは陸続きで、魔界は国名みたいなものだ。
我輩に立ち向かった四天王に対し、全力で逃げる魔王。
情けない、それでも魔王か、だって?
愚か者め! 逆だ、逆!
魔王だけあって、我輩との間に圧倒的な力量差があることに気づき、その上での最善手を打ったのだ。
王ならば誰よりも生き延びなければならないし、我輩が誰の話も取り合わないことは四天王の様子をうかがっていれば明白。
たとえ平伏して部下になると言ったところで、我輩は即処分するほど冷酷無比なのだ。
だから逃亡は間違いなく最善手だった。
もっとも、逃げたところで我輩からは逃げられないのだが。
「魔王よ、即死せよ」
魔王城から遥か彼方の遠方を全速力で飛行していた魔王は、瞬間的に絶命し、山に墜落して山肌を大きく抉った。
魔王は死んだけど、女神に仕事が終わったと勘違いさせないよう、モフ以外の魔族たちに人々を襲うよう命令した。
我輩の命令には絶対に逆らえない。魔族たちは使命感を持ち、血眼になって人間を捜しに走り出した。
ちなみにモフだけを残したのは、単に景観のためだ。
我輩は魔王城改め我城の玉座に座り、指をパチンと鳴らした。
その瞬間、暗い雰囲気だった魔王城の内装が白を基調とした煌びやかなものへと変貌した。
もちろん指を鳴らさずともリフォームはできたが、そこは気分だ。
金の縁に赤い布張りのフカフカな椅子に腰と背を沈めて脚を組み、金色のシルクで包まれた肘置きに両腕を寝かせる。
そんな我輩は白いTシャツと黒い短パン。これは変えない。
なぜかって? あらゆる来訪者を舐め腐っている感じが出ていいでしょ?
そんなわけで、転生した我輩は勇者でもなく、魔王でもなく、何者でもなく、我輩は我輩として世界を滅ぼす。
あ、統べないよ。滅ぼすよ。そこは間違えないように。
でも一瞬で終わらせるのはつまらないから、少しずつ滅ぼすよ。
女神の仕事をすべて徒労に終わらせ、彼女が歯噛みする様を眺めつつ愉悦に浸りながらね。
転生以前の記憶はない。自分で消したからだ。
我輩に残っている記憶はというと、我輩を転生させた女神がすごくムカつくこと、転生する際に与えられた女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》を行使して、《全知全能最強無敵絶対優位》の存在になったこと、全能の力を使って最弱モンスター《モフ》の赤ちゃんから十五歳くらいの人間の少年に自分を変化させたこと、この三つのみである。
我輩がなぜ女神にムカついたかは、記憶を消したため分からない。
全能の力で記憶を復元することは可能だが、自分が消したのだから、わざわざ復元などしない。
もしかしたらモフに転生したことも関係しているかもしれない。
我輩は裸だったので、白いTシャツと黒い短パンを着衣状態で創造した。
それから、近くにいたモフを肩に乗せた。
そのモフはいちおう自分を出産した親であるが、我輩がそれを連れていくことにしたのは親だからではなく、単にかわいいペットが欲しかったからだ。
モフは饅頭に毛が生えたような見た目のモンスターで、白い毛は血統書付きの猫みたいに繊細。
つぶらな瞳は愛くるしく、鼻は猫の肉球みたいにプニプニしていて柔らかい。
口は小さく、小さな舌をペロペロと出して地面からミネラルを摂取する。
モフに最も見た目が近い動物はハムスターだ。強さが最も近い動物もハムスター。
だから、モフはモンスターのくせに、たいていの動物よりも弱い。まったくの無害なので、こいつを狩る者もほとんどいない。
ちなみに、鳴くときは「ぷぅぷぅ」と鳴く。
「おーい、女神さーん。これから我輩がおまえの仕事を全部台無しにしてやるからなー」
空を見上げてそう口にした我輩は、正面に向き直った。
視線の先にあるのは魔王城。
女神が人間を転生させてこの世界に勇者を送り込むのは、魔王を倒して人類の平和を守るためだ。
もちろん、我輩は人類の平和を守るなど、そんな使命はまっとうしない。むしろ我輩が魔王の立場を奪って人類を滅ぼしてやる。
それもこれも、すべては女神に対する嫌がらせのためだ。
大義名分なんて欠片もなく人類を滅ぼすのだから、我輩は正真正銘の悪である。
「まずは、拠点が欲しいな」
一瞬で立派な城を創造することもできるのだが、ここには目障りな建物があるため、それを奪うことにした。
その建物とは、魔王城である。
当然、そこには魔王がいる。
我輩が現れたというのに、我輩の存在を感知しておいて席を空けない不届き者がいる。
なんと図々しくて尊大で空気が読めない愚か者か。
我輩は魔王城の正面に瞬間移動し、正門をぶち破り、城の中へと入った。
待ち構えていた騎士風の兵隊モンスターたちを消し飛ばしながら、ずんずんと奥へ進む。
二階に上がったところで、貫禄のあるモンスターが現れた。
黒く体毛の濃い筋骨隆々の魔物が巨大な斧を持って仁王立ちしている。
闘牛でミノタウロスを作ったみたいな見た目だ。頭部には誇らしげにしゃくれ気味の角がそそり立っている。
「現れたな、勇者め。我は魔王配下四天王の一人、ベスティア。すべての獣族を統率するビーストマスターである」
「我輩は勇者ではない。無知蒙昧で愚鈍で場違いな愚か者め」
我輩がひと睨みすると、ベスティアの角、腕、脚が腹部へと折りたたまれていき、みるみる体が縮んでいく。
皿上の卵のように、小さく丸まった体が少し揺れるだけで身動きが取れなくなっている。
我輩は奥へ進むついでにそれを踏みつけていった。
その際、我輩は足が床と接触するくらいしっかりと踏み下ろしていった。
我輩は二階の奥にある階段を上がり、三階に着いた。
そこには、二足歩行の大きなロボットがどっしりと構えていた。
体中に刃物や火器を装着している。
「ワレハ、マキナ。マオウハイカシテンノウ、ノ、ヒトリ。ワレハ、フルカスタム、ノ――」
「まどろっこしい!」
我輩がひと睨みすると、マキナはボンッという爆発音とともに跳ねて、体中から黒い煙を立ち昇らせた。
プスプスと空気の漏れる音がする。
完全に破壊した。永遠に再起動は不可能。
「邪魔」
我輩はそのガラクタを一瞬で消滅、というか消去した。パッと消え去った。
なんで最初からそうしなかったかって? いたぶったほうが楽しいでしょうが!
我輩は四階に上がった。
四階で待ち構えていたのはダークエルフだった。
褐色の肌と鋭く尖った耳を持ち、魔術師のような黒いローブを身にまとい、紫色の玉を五指で鷲づかみするように包む木の杖を持っている。
よくばりなことに、背中にはごついボーガンを背負っている。
「私は魔王配下四天王の一人、ベネフィカス。貴様は何者だ? 名乗るがよい」
「名などない。貴様ごときが我輩の名を知ろうとするな。おこがましい」
頭上にブラックホールを出現させてやると、ダークエルフは勝手に吸い込まれていった。
我輩はブラックホールを消して奥へ進む。
我輩は五階へ上がった。
五階には暗黒騎士がいた。黒く光る厳かな鎧は歴戦のツワモノ感を醸し出していた。
そんな彼が例によって名乗りの口上を述べる。
「俺は魔王配下四天王の一人、ベルラトール。しかし俺に戦う意思はない。退いてはくれぬか? 俺は魔族と人類が共存できたらいいと考えている。そのために――」
「だめー。我輩が両方とも滅ぼすから、だめー」
我輩は手刀でズバッと暗黒騎士を切り裂いた。
左肩から右腰まで鎧ごとスッパリ切れ、その場に崩れ落ちた。
それからゴウッと燃え上がり、灰も残らず消え去った。
さっきから二度手間だって? だから、見せびらかしてんの!
我輩は最上階である六階へと上がった。
最上階の最奥には豪奢な玉座があった。
しかし、そこには誰もいない。
「逃げたか」
角だけは立派な魔王は、血相を変えて魔界の果てへと全速力で飛んでいる。
なぜ分かるかって? 我輩は全知なのだから当たり前だろ!
ちなみに、魔界と言っても世界に隔たりがあるわけではなく、魔族だけが生息する陽の当らない土地を《魔界》と呼称しているだけである。
人間界とは陸続きで、魔界は国名みたいなものだ。
我輩に立ち向かった四天王に対し、全力で逃げる魔王。
情けない、それでも魔王か、だって?
愚か者め! 逆だ、逆!
魔王だけあって、我輩との間に圧倒的な力量差があることに気づき、その上での最善手を打ったのだ。
王ならば誰よりも生き延びなければならないし、我輩が誰の話も取り合わないことは四天王の様子をうかがっていれば明白。
たとえ平伏して部下になると言ったところで、我輩は即処分するほど冷酷無比なのだ。
だから逃亡は間違いなく最善手だった。
もっとも、逃げたところで我輩からは逃げられないのだが。
「魔王よ、即死せよ」
魔王城から遥か彼方の遠方を全速力で飛行していた魔王は、瞬間的に絶命し、山に墜落して山肌を大きく抉った。
魔王は死んだけど、女神に仕事が終わったと勘違いさせないよう、モフ以外の魔族たちに人々を襲うよう命令した。
我輩の命令には絶対に逆らえない。魔族たちは使命感を持ち、血眼になって人間を捜しに走り出した。
ちなみにモフだけを残したのは、単に景観のためだ。
我輩は魔王城改め我城の玉座に座り、指をパチンと鳴らした。
その瞬間、暗い雰囲気だった魔王城の内装が白を基調とした煌びやかなものへと変貌した。
もちろん指を鳴らさずともリフォームはできたが、そこは気分だ。
金の縁に赤い布張りのフカフカな椅子に腰と背を沈めて脚を組み、金色のシルクで包まれた肘置きに両腕を寝かせる。
そんな我輩は白いTシャツと黒い短パン。これは変えない。
なぜかって? あらゆる来訪者を舐め腐っている感じが出ていいでしょ?
そんなわけで、転生した我輩は勇者でもなく、魔王でもなく、何者でもなく、我輩は我輩として世界を滅ぼす。
あ、統べないよ。滅ぼすよ。そこは間違えないように。
でも一瞬で終わらせるのはつまらないから、少しずつ滅ぼすよ。
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