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最終章 狂酔編

第271話 カケラ戦‐合流

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 スーパー・フレア。

 エアがカケラに操られて創りだした小さい太陽。熱すぎて近づくことすらできない。
 もしこれが地上に落ちたら世界は大地が熔けて火の海に変わるだろう。これだけは絶対に阻止しなければならない。

 燃料である酸素を奪うためにスーパー・フレアの周囲を真空にしても、闇魔法でワープゲートを作って酸素を補充される。
 対処を懸命に考えるが、ほかには方法が思いつかない。カケラに殴られたダメージも大きい。
 天使のミトンの効果が欲しいところだが、自分に対しては使いきってしまっている。効果が回復するのは明日だ。

 小さい太陽は動きだしている。その動きはゆっくりだが、避けたところであれが地上に着弾すれば世界は炎に包まれるだろう。
 是が非でもあの小さい太陽をなんとかしなければならない。
 ダースの闇魔法ならなんとか対処できるかもしれないが、今度はダースが記憶の扉に飛ばされていた。

 手詰まり。八方ふさがり。万事休す。
 ゆっくりだが小さい太陽は着実に魔道学院の校舎へと迫ってきていて、焦りが俺の思考を鈍らせる。

 そんな中、さっきまではなかった音が加わって、今度は何だ、と余計に混乱する。
 それは何かがこすれる音。
 音はだんだんと大きくなって、学院の校舎の陰から屋上へと氷のレールが伸びてきた。

「公地をひととおり見まわってきました。気が触れた者は拘束済みです」

 ルーレ・リッヒ。

 魔道学院の風紀委員長にして、かつての四天魔ナンバースリーの氷の発生型魔導師だ。

「ちょうどいいところに帰ってきた!」

「これはどういう状況ですか!」

 即座に彼女も感覚共鳴でつなぐ。そしてルーレはすべてを理解した。

 俺は氷の力を得たことで打開策が見えた。

「エスト、まさかそんな無茶を!?」

 俺の考えは感覚共鳴でつながっている全員に伝わっている。その中でもダースが俺の策を無謀だと止めようとしている。
 だが、ここにいる全員の知恵を使ってもほかに方法が思いつかない。だからやるしかないのだ。

「失敗すれば、どの道この世界は地獄になる」

 俺はリーンから神器・ムニキスを受け取り、ルーレが創造する氷の鎧を着込む。
 スーパー・フレアに近づけば鎧は一瞬で蒸発するので、連続で氷の鎧を生成しつづける。ルーレは感覚共鳴で俺がどう動くかわかっているので、俺が動いても生成位置は正確だ。

 俺はさらに空気の操作で強風を作り出し、できる限り熱を他所よそへ押しやる。
 さらに自分のまとう空気の鎧の分子の運動を遅くし、熱伝導を下げる。
 絶対化の力で分子の運動を完全に止めれば熱は遮断できるが、それでは俺自身が動けなくなってしまう。だから多少の熱は許容せざるを得ない。

 スーパー・フレアに近づき、さらに暑さが増す。
 リーンの振動で熱による空気の分子振動を相殺するように押さえ込み、熱を和らげる。

 氷、風、振動を制御することで最大まで熱を和らげ、俺はエアの作り出した太陽を眼前に捉える。眼前といっても眩しいので目は閉じている。

「いまだ!」

 ダースの声がワープゲートを通して耳の中に直接入ってきた。
 目隠しでのスイカ割りよろしく、俺は思いきり上段からまっすぐ刀を振り下ろした。

 目を閉じていても届いていた強烈な光が消失したのを感じて目を開く。

 スーパー・フレアは消失していた。

 一つ大きな息を吐いた俺は空を見上げた。
 もう一つの、本物のほうの太陽は中天まで上がっていた。早朝から始めてずいぶんと長く戦っている。
 カケラが時間操作を使うせいで時間の感覚は滅茶苦茶だ。

 カケラはすぐに攻撃を再開してこない。
 カケラに操られているエアも動かない。
 だからといってカケラはボーっとしているわけではない。紅いオーラをまとった状態で目を閉じている。
 何をしているのか俺には分からないが、単なる瞑想めいそうではないだろう。
 その集中した様子はまるで、そう、俺が空間把握モードを全世界にまで広げているときのような。だからそれは隙でも何でもないのだ。

「エスト、仲間を全員呼び戻すよ!」

 ダースが俺に向けて声を投げた。ダースともつながっているので、彼の思考はすぐに理解できた。
 どうやら世界各地に散らばっていた仲間たちとカケララの戦いはすべて終わったようだ。
 みんなそれぞれこちらへ向かっているが、各自の自力だと時間がかかりすぎる。

 ダースが四つのワープゲートで仲間たちをこちらへひっぱり込んだ。

 シミアン王国からは女王のミューイ・シミアンと、王立魔導騎士団長であるメルブラン・エンテルト、自称義賊のコータの三人。

 護神中立国からは魔導学院生徒会メンバー五人。生徒会長のレイジー・デント、書記のセクレ・ターリ、風紀委員副委員長のサンディア・グレイン、風紀委員のアンジュとエンジュ。

 諸島連合からは俺のクラスメイトで風紀委員のリーズ・リッヒ、それから俺に敵対心を抱くハーティ・スタック、イル・マリルの三人。

 リオン帝国からは俺のクラスメイトのキーラ・ヌア、リオン帝国の軍事区域の五護臣ロイン・リオン大将、工業区域の五護臣スモッグ・モック工場長、キーラの精霊が人成して魔術師となったスターレの四人。

 ひと足先に合流していたジーヌ共和国のシャイル・マーン、公地のルーレ・リッヒ、助っ人のミスト・エイリー教頭の三人を含め、分散していた十八人がついに全員合流した。

 対カケラの主戦力も全員ここにいる。
 俺ことゲス・エスト。
 最強の魔術師にして俺の相棒、エア。
 リオン帝国の学研区域の元五護臣で現在は最強イーターとなったドクター・シータことシータ・イユン。
 リオン帝国の元近衛騎士団長であり現皇帝のリーン・リッヒ。
 護神中立国の守護者である盲目のゲン。
 魔道学院の四天魔第一位にして、リーン・リッヒや盲目のゲンと同じくE3《エラースリー》と称される魔導師最強格のダース・ホーク。
 そして、ミューイの契約精霊が人成して感覚共鳴の魔術師となったキューカ。
 残念ながら神の精霊である兎の校長先生はカケラに消されてしまった。

 この七人に合流した十八人を含め、魔導学院の屋上とその上空に全二十五人が集結した。
 エアとシャイルがカケラの術下にあるものの、実に壮観な光景ではないか。
 これがカケラに対する世界最高の全戦力だ。

「ようやく始められるな。カケラ対全世界の戦いを」
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