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若き皇帝の即位式

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 フィンリーと最後に会ってから一か月後。

 無事、フィンリーは即位式を迎えた。婚約はまだ正式なものではないから、私は皇女として用意された席に座っているだけだが。

 遠目に見たフィンリーは少し頬がこけていたけれど、顔色は悪くなさそうだった。

 あの日お茶の時間を過ごしてから、一度もちゃんと会話を交わせていなかったから、ひとまず胸をなでおろす。

 聖職者が書物を片手に何やら説教をしている。私にもよくなじんだ教義だ。私が育った隣国と帝国は同じ宗教を信仰している。

 ……というよりは、大陸に広く広がる宗教の総本山がこのアーテル帝国なのだが。

 だから、神官が説いているのも太陽神と月神の双子の間に生まれたのがこの国最初の皇帝で、とまぁそんな話。

 フィンリーは真面目な顔をして話を聞いている。本当に整った顔をしている。

 幼い頃もたしかに可愛らしい顔立ちをしていた気がするが、こんなイケメンが私なんかの婚約者でいいのだろうか。

 最近では久しぶりにこんなに近くにいるのに話をすることさえままならない。こんな式典、早く終わってしまえばいいのに。

 フィンリーが国の内外に力を知らしめる大切な行事なのはわかっているけれど、つい恨めしく思ってしまう。

 幼い頃の初恋が、ふたたび息を吹き返したように、心臓が早鐘を打つ。早く。早く。

 あまりに長く見つめていたせいか、視線に気づいたフィンリーがこちらを見る。目が合って心臓が跳びはねた。澄んだアメジストの瞳が少し細められる。

 あわてて目をそらす。頬が熱くなるのがわかったけれど、手で押さえるわけにはいかない。だって今は神聖な式典の途中なのだから。

 背けた顔にまだ視線を感じる気がする。きっと気のせいだろうと思いながらも、どうしても見てみたい気持ちに駆られる。

 ついに誘惑に負けて横目で盗み見ると、フィンリーと思いっきり視線が交差する。

 きっと私の顔は今、真っ赤だろう。今度こそ、ごまかしようがないほどに。

 フィンリーが何やら口を動かした。何かを言ったようだがわからなくて、小首をかしげる。苦笑した彼は、今度は少しおおげさに唇を開いたり閉じたりした。

『ま・た・あ・と・で』

 その言葉を読み取った瞬間、胸の奥で渦巻いていた焦りが落ち着いた。

 私だけじゃない。フィンリーも私に会いたいと、私と話をしたいと思ってくれているんだ。

 儀式の終わりを変わらず心待ちにしながら、口元がゆるむのをとめられない。一秒でも早く終わってほしい。

 たしかに私の中で息づいている恋心の存在をくすぐったく思いながら、姿勢を整えた。がんばろう。あと少しでフィンリーと話せる。
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