婚約破棄された令嬢は、隣国の皇女になりました。

瑞紀

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もう一人の侯爵令嬢(後編)

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文字数の関係上、二話まとめて更新します。

*****

「グレース様からご招待をいただいたお茶会が中止になさったそうですけれど……。それは皇女殿下に許可を取っていなかったからだ、という噂が」

 マリアベル様は扇を広げると口元を隠した。目がすっと細められる。

「この話、もしかして本当なのですか?」
「……ええ、事実です。招待状をくださったので、私はそのようなお話を聞いていない、とお答えしたまでですが」

 何と返答するべきか悩んだが、隠すことでもないと思い直した。私は何ひとつ落ち度のあるふるまいをしていない。

 そうなのですか、と眉をひそめたマリアベル様に微笑みかける。彼女は敵だろうか、味方だろうか。こわばってた肩の力を意識して抜く。

「とんでもないことですわね、皇女殿下に対してそのような無礼なふるまい……」
「……グレース様は、私が正妻になることに納得していらっしゃらないご様子でしたから」

 同情と少しの怒りを感じる返答に、安心する。グレース様との間にも交流があるだろうから、責められるかもしれない、という考えもよぎっていたのだ。

「わたしがお守り致しますわ。あの性悪女が、これ以上皇女殿下に不敬をはたらくのを見ていられませんもの」
「……ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですよ?」
「人の悪意は堪えるものです。どうかご無理はなさらないでくださいませね?」

 肩にマリアベル様の手が当てられた。そのまま、優しくなでられる。

「殿下は隣国でお育ちになったとのこと、きっとお寂しいことでしょう。ですが、これからはわたしがそばにおりますわ」
「マリアベル様はお優しいのですね」

 身構えていただけに、気遣いの言葉が嬉しい。侍女たちとは違って、グレース様と同格の令嬢がこうやって励ましてくれることにホッとする。

 グレース様の一件で、貴族たちとうまくやっていけないのではないか、と不安だったからなおさらである。

 マリアベル様は美しい笑みを浮かべていたが、目が会った瞬間、鳥肌が立った。照明を浴びて輝くエメラルドの奥は、全く笑っていない気がして。

 その後もしばらく他愛のないお話しをした。マリアベル様は私の話を聞いて、さりげなく励ましてくれた。

「本当にありがとうございました。楽しかったです」
「こちらこそ素敵な時間に感謝致しますわ。お忙しいでしょうが、どうかご自愛くださいませ」

 丁寧にあいさつをして、マリアベル様は応接間を後にした。

「楽しい時間を過ごせたわ、マリアベル様に感謝しないと」
「最近はお忙しい日々が続いておりましたからね」

 久しぶりに作りものではない笑顔を浮かべた気がする。初めてできそうなお友達に、胸が踊る。

 何度か覚えた違和感からは必死に目をそらそうとしていた。

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